海外における東京のイメージといえば、空に向かってそびえる高層ビル群だ。「ロスト・イン・トランスレーション」や「ブレードランナー」といった映画の影響が大きい。
だが、日本の首都が垂直方向に発展し始めたのは、それほど昔のことではない。1964年の東京五輪開催時、米国ではエンパイアステートビルやクライスラービルといった築数十年のランドマークがすでにスカイラインを形成していた。
一方、五輪開幕の直前まで東京で最も高かった建造物は、55年間の設計期間を経て36年に完成した9階建ての国会議事堂だった。その記録を破ったのが、五輪に合わせて開業した17階建ての「ホテルニューオータニ」だ。
建設中の霞が関ビルディング(1966年)
Source: Komata/Hulton Archive/Getty Images
日本では60年代まで高さ31メートルを超える建物の建設が厳しく制限されており、東京では低い建物が密集していた。
本格的な高層建築の始まりは68年だ。地上36階建ての「霞が関ビルディング」が日本初の超高層ビルとしてオープン。戦後の東京が「未来」都市として自らを打ち出そうとする象徴的存在となった。
霞が関とその隣の永田町は、1世紀半余りにわたり日本の政治の中心であり続けている。1868年の明治維新後、皇居に近いことから官庁街として選ばれ、武家屋敷跡の多くが省庁の建物や官僚の職員宿舎として再開発された。
かつて未来の象徴とされた霞が関だが、今では過去に取り残されたような印象を受ける。戦後急いで建てられた省庁庁舎の多くは、耐震性を最優先したため、外観は味気なく低層のままだ。
すぐ近くではガラス張りの高層ビルが次々と建設され、文字通り霞が関に影を落としている。東京各地で再開発が進む中、霞が関もそうした時期を迎えている。
東側に位置する大手町や丸の内は、三菱地所が中心となって1998年以降に何十棟もの建物が建て替えられ、世界有数のビジネス街に変貌。
80年に完成した三菱UFJ銀行の本館といった比較的新しい建物ですら、すでに取り壊され建て替えが進む一方、日比谷地区でも再開発が続いている。
丸の内と大手町
Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg
最近ではさらに南側の虎ノ門が、かつての地味な街並みから、きらびやかな商業地へと生まれ変わった。4月には森ビルが長年かけて進めてきた複数の高層ビルから成る「虎ノ門ヒルズ」が完成。古いビルが立ち並んでいた一帯は、今や輝くオフィスビルや高級ホテル、ハイエンドなレストランでいっぱいだ。
一方、霞が関や永田町は、20、30年前とほとんど変わっていない。政府機能の移転を巡る計画がことごとく頓挫したことや、95年の阪神・淡路大震災後の耐震補強への多額の投資がその背景だ。
例えば54年に建てられた農林水産省が入る「中央合同庁舎第1号館」など、名称からして無機質な建物が多い。
このような実用本位の建築が霞が関に多く、古い建物(ネオバロック様式の法務省旧本館など)や新しい建物(例えば2002年完成の首相官邸)が、むしろ際立って見える。
官民の力学
私は東京での再開発にはおおむね賛成だ。変化し続ける都市景観はこの街の大きな魅力であり、各エリアが競い合うことで全体の質も向上するためだ。
だが霞が関の再開発は、単なる景観の問題にとどまらない。日本という国家の中枢を担う官僚たちが働く場として、優秀な人材を呼び込む魅力が求められている。だが今、その確保が難しくなっている。
霞が関の中央官庁は、長時間労働と低賃金、そして出張旅費を自腹で補うケースもあると報じられるような厳しい職場環境で知られる。30歳未満の国家公務員のうち、離職を考えている人は15%近くに達しており、難関の国家公務員試験を突破したにもかかわらず、10年以内に辞める人が過去最多を記録しているという。
霞が関
Photographer: Tomohiro Ohsumi/Getty Images
首都の生活環境を整える法律の草案を練っている本人たちが、日の当たらない味気ないオフィスで働いているというのは皮肉な話だ。民間企業に就職した大学での同級生が、目の前のガラス張りの高層ビルで働く様子を見れば、気持ちが揺らぐのも無理はない。
とはいえ、霞が関を再開発するため巨額の公費が投じられる可能性は低い。有権者の間には、公務員への支出に対する反発が根強く、コメ価格が急騰する中、その傾向は強まっている。
ただ、1つの選択肢として、08年に再開発された「中央合同庁舎第7号館」の例が挙げられる。官民連携によって、政府機関の庁舎が「霞が関コモンゲート」として生まれ変わり、金融庁といった官公庁の機能と民間テナントが共存する形となっている。
ただし、こうした取り組みはそれ以降、あまり進展していない。もしかすると、それは官民の力学が変化しつつある現実を反映しているのかもしれない。
だが、官僚制度の質が低下することには警戒が必要だ。同僚のコラムニスト、エイドリアン・ウールドリッジ氏が指摘するように、優秀な人材が民間企業にしか就職しなくなる国になってはならない。
(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Tokyo Lacks Blade Runner Where It Needs It Most: Gearoid Reidy (抜粋)
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