5.3L V8で世界最速の4シーターモデル

アストン マーティン DBS V8は1969年の発売当時、世界最速の4シーター・モデルに数えることができた。この動力性能を叶えていたのが、技術者のタデック・マレック氏が手掛けた5.3LのV型8気筒エンジンにほかならない。

ツインカムで燃焼室は半球形。スロットルのリンケージはボール&ローラー式で、ウェットライナーを採用し、鍛造クランクシャフトが組まれていた。従来の直列6気筒ユニットより13.6kg重かったが、最高出力は300馬力を軽く超えた。

アストン マーティンDBS V8(1969〜1972年/英国仕様)アストン マーティンDBS V8(1969〜1972年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)/ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

このユニットの発表は1963年で、1967年にはル・マン24時間レースのマシンに載っている。公道用モデルで搭載されたのが、DBS V8。ボッシュ社製の燃料インジェクションが組まれ、回転数や水温、標高などのデータをもとに緻密にガソリンが制御された。

頻繁なオイル交換が必要とされた信頼性

ところが、信頼性は伴わなかった。頻繁なオイル交換を怠ると、燃料の過剰供給が発生した。エンジンオイルにガソリンが混ざり、シリンダー内へ付着し油圧が低下。エンジンから煙が出るだけでなく、最悪の場合、内部ベアリングが破損した。

今回の例は、しっかり対応済み。職人の手で2500時間をかけてレストアされており、価値は23万ポンド(約4485万円)と見積もられている。3速ATで、V8エンジン本来のパワフルさをダイレクトに味わうことは難しいが。

アストン マーティンDBS V8(1969〜1972年/英国仕様)アストン マーティンDBS V8(1969〜1972年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)/ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

平均的な大人なら、後席側でも中距離程度の旅行を楽しめるだろう。荷室は、形状は良くないが狭くはない。前席側は、シートがサルーンのようだが座面は低くスポーティ。精巧なメーター類と沢山のスイッチが、特別感を醸し出す。

アクセルペダルを傾けると、V8エンジンらしいビートを放ちながら豪快に加速。3速へシフトアップしなくても、160km/hへ迫れそうな勢いがある。グリップ力に優れ、安定性は高次元。反面、小回りが利かず斜め後方の視界は悪い。

心から美しいと思える真のアストン

ステアリングの手応えは確かで、車重は1905kgと軽くないものの、アンダーステア傾向のマナーと相まって操る自信を生んでいる。ド・ディオン式のリアサスペンションが、タイトコーナーでもトラクションを確保。大きなうねりも、しなやかにやり過ごせる。

筆者にとって、心から美しいと思える真のアストン マーティンの1台が、丸目4灯のフロントマスクを持つDBS V8だ。艶深いデュボネ・ロッソのボディカラーが、その考えを一層強める。

アストン マーティンDBS V8(1969〜1972年/英国仕様)アストン マーティンDBS V8(1969〜1972年/英国仕様)    マックス・エドレストン(Max Edleston)/ジャック・ハリソン(Jack Harrison)

後年になり、インジェクションは役目を終了。時代へ逆行するように、エンジンにはウェーバー社製のキャブレターが載るようになった。数字は非公表ではあったが、若干パワーダウンしたぶん、信頼性は高められていた。

アイデアの起源はメルセデス280SL

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