フランスにおける初の大規模個展
写真家・川田喜久治個展「Endless Map – Invisible」がフランス・アルル国際写真祭の公式プログラム「アルル・アソシエ」として、アルルのギャラリー「VAGUE」で2025年7月7日(月)から10月3日(金)まで開催される。本展は川田のフランスにおける大規模な個展で、2024年の京都国際写真祭(KYOTOGRAPHIE)で行われた展示がもとにさらに発展させた内容となっている。本展は東京のギャラリー・PGIの高橋朗によるキュレーションで、川田の代表的な4シリーズからなる構成されている。
From the series The Last Cosmology © Kikuji Kawada, Courtesy PGI
構成『地図』(1959-1965)および『Endless Map』(2021)
“Japanese National Flag, 1959 – 1965
From the series The Map
“
“Words Burning Up, 1960 – 1965
From the series Endless Map”
From the series The Map / Visions of the Invisible
“Ohta River, Atomic Bomb Dome, 1959 – 1965
From the series Endless Map “
書物そのものが一つのオブジェともいえる作品〈地図〉は、のちに〈Endless Map〉として再構築され、日本の敗戦によるトラウマを力強く証言するものとして制作された。この作品は、当時主流だったドキュメンタリー写真の枠を超え、写真表現におけるストーリーテリングのあり方において大きな転換点を示した。
『ラスト・コスモロジー』(1995)
“Helio-spot and a Helicopter, Tokyo, 1990
From the series The Last Cosmology”
“11th September, 2013, Tokyo, 1990
From the series The Last Cosmology “ From the series The Last Cosmology
昭和からミレニアムへと移り変わる時代を詩的に見つめるこのシリーズでは、川田の宇宙への憧憬が浮き彫りとなり、天空が運命や災厄の舞台として描かれている。
『Los Caprichos』(1972年~現在)
From the series Los Caprichos
From the series Los Caprichos
From the series Los Caprichos, Invisible
フランシスコ・デ・ゴヤの「気まぐれ」を意味する同名作品に着想を得て始まったこのシリーズは、近年になって川田自身が再び取り上げるようになった。日本の高度経済成長期を鋭く見つめ直す作品群。
『Vortex』(2022)
From the series Vortex
From the series Vortex
From the series Vortex
抽象とめまいへの探求をさらに深めた〈Vortex〉は、内面的な崩壊や宇宙的な追究のかたちを表現している。断片、揺らぎ、痕跡の美学をさらに発展させ、写真を不安定な世界に対峙する思考の道具として提示している。
川田喜久治
© Kikuji Kawada
1933年茨城県生まれ。 1955年、立教大学経済学部を卒業し、新潮社に入社。1959年よりフリーランスとなる。佐藤明、丹野章、東松照明、奈良原一高、細江英公らと共に写真エージェンシー「VIVO」(1959-61年)を設立。日本の敗戦という歴史の記憶を記号化する抽象とメタファーに満ちた作品集「地図/The Map」を1965年に発表し、以来現在に至るまで、常に予兆に満ちた作品を発表し続けている。自身の作品を「時代に潜むデーモンを驚きの影として写しとめることで、記憶も作家のスタイルを映す鏡になるかもしれない」と語る。近年はインスタグラムにて写真への思考を巡らせながら、日々作品をアップし続けている。
VIVO
日本の写真家集団「VIVO」は1959年に川田喜久治、東松照明、細江英公、佐藤明、奈良原一高、丹野章の6人の写真家によって結成。戦後の時代背景の中で生まれたVIVOは、「生命力」や「動き」を想起させるその名の通り、当時主流だった社会派リアリズムを基盤としたドキュメンタリー写真からの決別を象徴している。西洋のアバンギャルドに影響を受けながら、写真表現の刷新を志向したメンバーは、より主観的で個人的、かつ表現力豊かなスタイルを追求した。グループとしての活動期間は1961年までと比較的短く限定的であったが、日本写真界に大きな影響を与え、自由で実験的、そして当時の文化的・政治的に深く根ざした写真家による写真表現の基盤を築いた。また、VIVOは写真集を独立した創作の場として捉える視点を提示した点でも、決定的な役割を果たした。
アルル国際写真祭
1970年に写真家ルシアン・クレルグらによって創設された「アルル国際写真(Les Rencontres de la photographie d’Arles)」は、世界で最も歴史があり、最大規模を誇る写真祭である。今年で第56回を迎え、KYOTOGRAPHIEにも大きな影響を与えた。ローマ時代の遺構を活用した複雑かつ重層的な展示を特色とし、世界中の写真家、キュレーター、ジャーナリスト、写真ファンが集う、国際的な交流と発見の場となっている。「アルル・アソシエ(Arles Associé)」は、このフェスティバルの公式プログラムのひとつで、アルルに根ざしながらも、多様な表現の可能性に開かれた連携企画として展開されている。
川田喜久治個展「Endless Map – Invisible」開催概要
WACOCA: People, Life, Style.