(英エコノミスト誌 2025年7月5日号)

中国の自動車メーカー、シャオペンが発表した約260万円の新型EV(5月28日、写真:AP/アフロ)

残念ながら、問題の多くは国家主席自身の政策のせいだ。

 企業が値上げし、顧客に「高値をふっかける」時、多くの政府が不満を漏らす。我慢できずに介入する場合もある。

 だが、今日の中国では正反対のことが起きている。

 中国政府は今年5月、自動車メーカーの値上げではなく値下げを非難した。

「この価格戦争に勝者はいない」と断じ、キビキビ走る電気自動車(EV)を8000ドル以下で買えるようになって喜ぶ顧客のことなど顧みなかった。

 戦争においては、時にそのやり方が結果と同じくらいショッキングなものになる。

 中国では多くのメーカーがディーラーに完成車を安く販売し、ディーラーがその新車を「中古車」として再販売している。

 たとえメーターに表示される総走行距離がゼロであっても、だ。

 理にかなっているようにはとても聞こえないが、この策略には、メーカーが市場を分割できる利点がある。

 誰かの所有物になった経歴はあるが運転されたことのない車は価格に敏感な顧客に販売し、車種は全く同じだが所有された経歴がない車は高い価格でほかの顧客に売るわけだ。

 中国共産党の機関紙「人民日報」は「この偽装値下げのやり方は市場の秩序を乱す」と苦言を呈している。

成長エンジンのはずがデフレのエンジンに

 中国経済が苦しんでいるのは自動車製造の分野だけではない。

 5月には主要30業種のうち25業種で製品の工場渡し価格が前年同月の水準を下回った。自動車より下落率が大きな産業も炭鉱業や鉄鋼業など8業種を数えた。

 中国の巨大な産業界全体で見ても、製品の平均価格である生産者物価指数は前年割れが32カ月続いている(下図参照)。

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 中国が長引く不動産危機に耐え忍ぶなか、不振にあえぐ中国経済にとって近年、製造業の投資、とりわけハイテクベンチャーへの投資が明るい材料の一つだった。

 だが、工業製品の価格と工業全体の利益水準が急速に低下したことから、この設備投資ブームさえも持続可能性が疑われる事態になっている。

 EV、リチウムイオン電池、ソーラーパネルのような産業は、不動産セクターが残したギャップを埋める新たな成長エンジンになるはずだった。

 それが今では、これらの産業もデフレのエンジンになった。

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