マイヨヴェールを着るフィリプセンが落車し、鎖骨骨折で棄権したツール・ド・フランス第3ステージ。終盤にコーナーが連続した混沌の集団スプリントで、ヨーロッパ王者ティム・メルリール(ベルギー、スーダル・クイックステップ)が自身2度目のステージ勝利を手に入れた。マイヨジョーヌで大会3日目を迎えたマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:A.S.O.
笑顔のログリッチ photo:A.S.O.
初日夜にバイク盗難にあったコフィディス photo:CorVos
7月7日(月)第3ステージ
バランシエンヌ〜ダンケルク(平坦)
距離:178.3km
獲得標高差:800m
天候:雨のち曇り
気温:22度
第3ステージ バランシエンヌ〜ダンケルク image:A.S.O.
第112回ツール・ド・フランス第3ステージはバランシエンからフランス北西の最北端、ベルギーとの国境に近いダンケルクを目指す178.3km。平坦基調のコースに唯一設定されたのは、最低難易度の4級山岳。この丘を越えた残り約30kmは、レースディレクターであるクリスティアン・プリュドム氏が「エシュロン(横風分断)を促すように設定されている」と語ったものの、この日は風ではなく続出した落車がレースのハイライトとなってしまった。
集団スプリントが予想されたこの日は、前日勝者でマイヨジョーヌを纏ったマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)が先頭でスタートを切る。この日も出発地点には雨が降り、そしてアクチュアルスタートまでの道のりで10名以上の選手がパンクするトラブルもありながら、現地時間午後1時32分にレースは始まった。
逃げには不利なレイアウトかつ、初日からの2日間の激しい展開で選手たちに疲れが出たせいか、序盤から逃げを目指す選手は現れない。そのため総合エースのレムコ・エヴェネプールとスプリントエースのティム・メルリール(共にベルギー)を擁するスーダル・クイックステップが集団牽引をはじめ、大会3日目はなんとも静かな立ち上がりとなった。
序盤から逃げが生まれないプロトンを、アルペシン・ドゥクーニンクが先導した photo:A.S.O.
ファンデルプールの後ろで脚を回すマイヨヴェールを着るヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:A.S.O.
182名の大集団はアルペシン・ドゥクーニンクも牽引に加わり、リーダーチームとしての責務を果たす。平均スピードが40km/h前後のスローペースのまま残り100km地点に突入。そして残り60.1km地点に設定された中間スプリントが近づくと、次第に集団のスピードは上がり、アンテルマルシェ・ワンティのリードアウトが先頭で踏み込む。
しかし肝心のエース、ビニヤム・ギルマイ(エリトリア)の姿は背後になく、ローレンス・レックス(ベルギー、アンテルマルシェ・ワンティ)がギルマイの番手を上げようと右側から加速する。レックスは先頭から4番手につけていたブライアン・コカール(フランス、コフィディス)と接触し、バランスを崩したコカールの後輪が、その左にいたヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)の前輪に衝突。コカールがなんとか落車を回避した一方、フィリプセンは地面に身体を打ち付けた。
ライバルたちが脚を止めるなか、落車に気づかなかったミランが中間スプリントを先頭で通過する。フィリプセンはすぐに立ち上がることができたものの、右の鎖骨骨折が判明。チーム3連勝を目指したフィリプセンは、マイヨヴェール(ポイント賞ジャージ)を着たままレースリタイアを余儀なくされた。なお、落車の原因となったコカールにはイエローカードが提示されている。
中間スプリントの直前に落車し、右鎖骨を骨折したヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:CorVos
マイヨヴェールを失ったプロトンはその後、ニュートラル状態のように選手たちがコース幅いっぱいに広がる。モビスターやアンテルマルシェ・ワンティが牽引し、また今年1月のオーストラリア選手権で逃げ切り勝利を決めたルーク・ダーブリッジ(ジェイコ・アルウラー)も集団先頭でペースを作る。そしてゆっくりと残り距離を消化しながら、集団は大会初日に逃げていたマッテオ・ヴェルシェ(フランス、トタルエネルジー)とバンジャマン・トマ(フランス、コフィディス)の落車があった、石畳の4級山岳モン・カッセル(残り30.9km)に近づいていった。
4級山岳を前に、プロトンからはタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG)のアシストであるティム・ウェレンス(ベルギー)が飛び出す。前日に2ポイントを獲得していたベルギー王者は、石畳の頂上を通過して1ポイントを加算。ポガチャルと獲得ポイントで並んだものの、先頭通過した山岳の数が多いため、ウェレンスが母国ベルギーに近いダンケルクのフィニッシュ地点でマイヨアポワ(山岳賞ジャージ)着用の機会を得た。
4級山岳でのポイントを目指し、プロトンを飛び出したティム・ウェレンス(ベルギー、UAEチームエミレーツXRG) photo:CorVos
レースは終盤に入ってもなお、ひと塊のまま進んだ photo:A.S.O.
そしてリラックスムードに包まれた集団は、フィニッシュが近づくにつれ緊張感を高めていき、ハイスピードで救済措置が適用される残り5km地点を通過する。しかし、その直後にまたしても落車が発生。直前まで集団前方で牽引していたエヴェネプールや、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエのエーススプリンターであるヨルディ・メーウス(ベルギー)などが巻き込まれた。
残り1km地点を表すフラムルージュを前に、集団先頭でトレインを並べたのはリドル・トレックだった。その背後で各チームがトレインの維持に苦心するなか、ティム・メルリール(ベルギー、スーダル・クイックステップ)が自ら力を使い、スルスルと3番手まで上がる。一方、出遅れたマイヨジョーヌのマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)は、カーデン・グローブス(オーストラリア)のために何とか前方に上げようと隙間を探す。
しかし、ファンデルプールは各チームのエーススプリンターが集まった分厚い壁の前に阻まれる。そして残り250mの最終コーナーをピクニック・ポストNLが先頭でクリア。後方ではアルノー・ドゥリー(ベルギー、ロット)などを巻き込む落車が起こるなか、パヴェル・ビットネル(チェコ、ピクニック・ポストNL)とミランが同時にスプリントを開始した。
ビットネルのスピードは伸びず、ミランの背後からメルリールが飛び出し、ミランに並ぶと同時にフィニッシュラインにハンドルを投げる。そして写真判定の結果、ホイールのリムの差でメルリールが勝利した。
同時にハンドルを投げるメルリールとミラン photo:CorVos
勝利を確信し、右腕を上げたティム・メルリール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) photo:CorVos
2021年の第3ステージ以来、4年ぶり2度目の区間優勝を果たしたメルリール。「とても厳しい戦いだった。最終コーナーの手前でベルト(ファンレルベルへ)を見失い、風にさらされながら自ら位置取りをした。残り500mでスリップストリームに入ることができ、その後は自分のスプリントをした。ミランを破るのはいつも難しいから、この勝利が嬉しいよ」と、メルリールは冷静にレースを振り返った。
惜しくも敗れたミランはマイヨヴェールを着用し、3位にはフィル・バウハウス(ドイツ、バーレーン・ヴィクトリアス)が入った。初日3位だったソーレン・ヴァーレンショルト(ノルウェー、ウノエックス・モビリティ)は4位、ギルマイは6位、チーム3連勝を逃したグローブスは7位だった。
なお、落車後すぐにレース復帰したエヴェネプールは無事フィニッシュし、チームから公式な発表はないものの、大きな怪我はないと見られている。
自身2度目のステージ優勝を決めたティム・メルリール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) photo:A.S.O.
マイヨアポワ(山岳賞):ティム・ウェレンス(ベルギー、UAEチームエミレーツXRG) photo:A.S.O.
マイヨヴェール(ポイント賞):ジョナタン・ミラン(イタリア、リドル・トレック) photo:A.S.O.
マイヨジョーヌを守ったマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:CorVos
WACOCA: People, Life, Style.