独メルセデス・ベンツグループや仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンといった欧州企業が、関税交渉でトランプ米大統領への対抗姿勢を打ち出さないよう、欧州連合(EU)への働きかけを強めている。米国と欧州による全面的な貿易戦争を回避することが狙いだ。

  一部の経営者は自らの利益を守るため、トランプ政権関係者と水面下で接触している。EUの行政執行機関である欧州委員会や各国政府に対して早期合意を促す、あるいは交渉決裂に備えたEUの報復関税の対象品目からバーボンなど代表的な米国製品の除外を求めるといった動きも出ている。内情に詳しい関係者が明らかにした。

  欧州企業は業績悪化や競争力低下への懸念を強めており、上乗せ関税の一時停止措置が期限を迎える7月9日を前に、合意に達するよう圧力をかけている。

  米国との交渉が不調に終わった場合、欧州委は約950億ユーロ(16兆2000億円)相当の米国製品に報復関税を課すことを提案している。米国による自動車、および鉄鋼・アルミニウム関税への対抗措置だ。

  だが、一部加盟国や産業界の要請により、対象リストは最大700億ユーロ規模の縮小が検討されていると、部外秘の情報だとして匿名を条件に関係者が明らかにした。ただ、対抗措置の実効性が損なわれるとの懸念から、 欧州委は慎重な姿勢を示しているという。

  EUのシェフチョビッチ欧州委員(通商担当)は6月30日、ブリュッセルで記者団に対し「前向きな結果の実現に完全に注力している」と述べた。同氏は3日、ワシントンで米国側との関税交渉に臨む。

   EUは輸出品の多くについて10%の一律関税を課す案を受け入れる用意があるが、医薬品、酒類、半導体、商用航空機といった重要分野では米国に関税引き下げを求めている。またここ数週間で、EUは対抗姿勢をやや和らげている。

断ち切れない結びつき

  欧州企業が欧州委に強く働きかける背景には、簡単には断ち切れない米国との商業的な結びつきがある。自動車メーカーや医療機器メーカーにとって米国は利幅の大きい重要市場であるほか、シリコンバレー製ソフトウエアや超電導磁石、X線管などの米国製部品にも依存している。さらに欧州企業が電気自動車(EV)や人工知能(AI)医療、バイオテクノロジーといった分野で競争力を高める上で、米有力大学も不可欠な存在だ。こうした複合的要因から、企業経営者らはEUが強硬な交渉姿勢を示すことに神経をとがらせている。

  EU当局者によると、とりわけ独自動車メーカーが欧州の通商戦略に大きな混乱をもたらしている。メルセデス、BMW、フォルクスワーゲン(VW)はそれぞれ独自の提案を携え、米政権関係者と協議しているという。

  同3社の最高経営責任者(CEO)や幹部はこれまで、ワシントンを訪れ、トランプ氏の側近であるラトニック商務長官らと非公式な会合を持った。だが、歩み寄りの提案を行ったものの、具体的な進展は乏しいと関係者は話した。

  欧州企業の経営陣にとっては厳しいタイミングでもある。第1次トランプ政権時代は、中国もEUも経済が堅調で、米国市場の重要性はやや下がっていた。ウクライナでの紛争もなかった。しかし現在では、EU域内の需要は低迷しており、中国との競争も激化している。さらにウクライナ侵攻に伴う制裁措置の一環として安価なロシア産エネルギーが確保できなくなったことでコストが上昇。欧州企業の経営戦略において、米国市場の重要性が一段と増しているとの事情もある。

The Mercedes Tuscaloosa plant.

アラバマ州のメルセデス工場

Source: MediaPortal Mercedes-Benz AG

 

原題:Mercedes to LVMH Are Blunting EU Fight Against Trump’s Tariffs(抜粋)

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