しかしこの見学ツアーは瞬く間に人気を集め、シャオミはすぐにツアー枠を大幅に拡大した。7月には、平日は毎日1回、週末はほとんどの日で6回のツアーを実施し、月間で合計1,100人以上を受け入れる予定だという。だが、シャオミのアプリによると、7月分の予約受付が始まると一晩で27,000件以上の応募が殺到したとのことで、チケットを手に入れるのは依然として狭き門となっている。

運よく当選して見学の機会をえた人々は、まず展示ホールに案内され、シャオミのEVにおける代表的な技術革新について学ぶことができる。その後、シャトルバスに乗り、6本ある生産ラインのうち稼働中の3本を巡りながら、作業員やロボットが働く様子を見学する流れとなっている。

その後、見学者はテストコースに移動し、シャオミの「SU7」に試乗することができる。プロのレーシングドライバーが運転し、0マイルから時速60マイル(約96km)までわずか数秒で加速する性能を披露してくれるのだ。「本当にすごかったです。一気に加速して、瞬時に蹴り出すような感覚でした」とジャオさんは『WIRED』に語る。最近では、工場内で手ごろな価格の食事や記念グッズも販売されるようになり、体験の満足度をさらに高めている。

別の見学者は、ロボットの進行を妨げる位置にシャトルが入ると、一時的に停車するようプログラムされていることに気づいたという。ロボットは厳密なスケジュールに従って作業しており、人間のような柔軟な対応はできないからだ。ユアンユアンは、ツアー後に娘がこう漏らしていたのを覚えている。「もっと勉強しないと、将来仕事がなくなっちゃう。ロボットが全部やるようになっちゃう」

シャオミの工場は、中国企業が人手に頼る労働集約型の製造から、高度に自動化されたスマート工場へと急速に進化していることを示す象徴的な事例である。こうした変化の背景には、ロボティクスや人工知能(AI)の技術革新がある。近年、中国政府は「消灯工場」という構想を強力に推進している。これは、人間の労働力を一切必要とせず、照明すら不要な暗闇のなかで機械が黙々と稼働し続けるというものだ。フォックスコンから家電大手に至るまで、このレベルの自動化を実現した企業の多くは、工場を単なる生産拠点ではなく、自社技術を誇示するマーケティングの場として活用し、人々を「働かせる」のではなく、「見学させる」ことで注目を集めている。

NIOは“ポイント制”でロイヤルティ強化

中国のもうひとつの大手EVメーカーであるNIOは、23年末から高度に自動化された工場のひとつを一般に公開している。NIOの発表によると、24年には13万人以上がこの工場を訪れたという。なかでも車体組立ラインのような一部の工程では、完全自動化を達成している。Tech Buzz Chinaのチャンによると、先月彼女が引率したツアーグループが訪れたのは、安徽省・合肥市にあるNIOの工場で、参加者たちは4本ある生産ラインのうち3本を見学することができたという(ただし塗装工程は一般見学の対象外とされていた)。

「何より目立つのは、作業員の数の少なさです。生産ラインによっては、人間よりもロボットのほうが多いケースもあります」とチャンは話す。「ただし、人型ロボットを導入している中国の工場はまだ見たことがありません」

NIOでは、このガイド付きツアーがマーケティング手法であると同時に、顧客ロイヤルティ向上の特典としても機能している。抽選制ながら無料で提供されているシャオミのツアーとは異なり、NIOの見学には専用アプリからの登録と「NIOポイント」1,000点の支払いが必要だ。これはおよそ14ドル(約2,000円)に相当する。ポイントは有料で購入することもできるが、NIOのアプリを日常的に利用していれば無料で貯めることも可能なため、ブランドと継続的に関わっているユーザーであれば、実質無料でツアーに参加できる仕組みになっている。

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