NHK連続テレビ小説『あんぱん』は、“アンパンマン”の生みの親であるやなせたかしと、その妻・暢の人生をモチーフにした物語だ。舞台となるのは昭和初期の高知。海風が吹き抜ける港町、未舗装の商店街、温かな土佐弁のやり取り──。そのどれもが、映像越しに確かな手触りと説得力を持って伝わってきた。視聴者にとっても、彼女のまっすぐな姿勢と高知の風景が自然と結びついて記憶に残っているはずだ。
筆者自身、高知の土地に足を運んだ経験はない。それでも不思議と、“高知の風景”にどこか懐かしさや親しみを感じたのは、『あんぱん』が初めてではなかったからかもしれない。ここ十数年、“高知”という土地は幾度もドラマや映画に描かれ、そのたびに新たな姿を見せてきた。
『らんまん』
きっと朝ドラファンの中で記憶に新しいのは、NHK連続テレビ小説『らんまん』(2023年度前期)だろう。本作は高知県佐川町出身の植物学者・牧野富太郎をモデルにした主人公・槙野万太郎の生涯を描いた作品だ。舞台となった佐川町は、緑深い山あいの町。劇中で万太郎は、名もなき草花に名前を与えることで「いのちの意味」を探していく。この作品における高知は、自然と共に生きる知の原点として機能していた。万太郎の視線の先には、草花だけでなく、土地に根ざした生活のリズムや、時代に抗う人間たちの姿があった。高知の風景が静かに、それでも確かに主人公の背中を押していたことは間違いない。
『らんまん』の根幹にある“名前を知る”という大テーマ 出色の出来だった「高知編」
「道がのうても進むがじゃ。わしらが道を作りますき」
『らんまん』(NHK総合)「高知編」が、第5週「キツネノカミソリ」をもっ…
『龍馬伝』
NHK大河ドラマ『龍馬伝』(2010年)は、坂本龍馬の生涯を描いた全48話の長編ドラマだ。物語はもちろん、坂本龍馬の出身地である高知を起点としている。封建制度が色濃く残る土佐藩内で、武士の息子として生まれた龍馬が、次第に開国や倒幕という時代のうねりに向き合っていく。ここでの高知は、「閉塞」と「自由」が同時に存在する土地として描かれていた。硬直した藩政と、それでも空を見上げて夢を見る若者たちの対比の中で、高知という土地が抱える複雑な歴史と、それを越えていこうとする人々の姿が、鮮やかに描き出されていた。
『パーマネント野ばら』
2010年公開の映画『パーマネント野ばら』は、高知県の海辺の町を舞台に、男に振り回されながらもたくましく生きる女性たちの日常を描いた作品である。菅野美穂演じる主人公・なおこが、離婚後に実家の美容室「パーマネント野ばら」に戻ってきたことで、さまざまな人間模様が浮かび上がる。海辺の町の空気感は、登場人物たちの心の起伏と呼応し、語られない想いまでも映し出していた。どこか閉じたようでいて、じんわりと温もりのあるコミュニティの中で交わされる言葉と沈黙。高知の土地に漂う静けさが、登場人物たちの迷いや希望を静かに映し出していた。
『遅咲きのヒマワリ〜ボクの人生、リニューアル〜』
2012年放送のドラマ『遅咲きのヒマワリ〜ボクの人生、リニューアル〜』(フジテレビ系)は、都会から高知県四万十市に移住してきた青年が、地域医療や限界集落と向き合いながら、自分の人生を見つめ直していく物語だ。四万十川の清流、美しい里山の風景、それだけで絵になる景色が続く一方で、作品は決してその美しさに酔うことなく、過疎や高齢化という地方が直面する現実にも目を向けている。地元の人々と移住者との距離感、文化的なギャップ、それでも交わっていこうとする微細な感情。そのすべてを、四万十の空気が包み込んでいた。この作品が多くの共感を集めたのは、物語はもちろんだが、高知の暮らしのリアルな温度や人との距離感を丁寧にすくい取っていたからだろう。
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