フランスのマクロン大統領は10、11両日にパリで開いた「AIアクションサミット」で人工知能(AI)に関する重要な国際合意を目指したが、目標には遠く及ばなかった。写真は、サミットの会場。2月10日、パリで撮影(2025年 ロイター/Benoit Tessier)
[ロンドン 11日 ロイター BREAKINGVIEWS] – フランスのマクロン大統領は10、11両日にパリで開いた「AIアクションサミット」で人工知能(AI)に関する重要な国際合意を目指したが、目標には遠く及ばなかった。2015年にパリで開かれた会議が、気候変動に関する国際的枠組み「パリ協定」という歴史的な合意につながったのとは対象的だ。
2日間の会合は、外見的には盛況だった。バンス米副大統領やインドのモディ首相に加え、オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)などテクノロジー界の大物も集まった。しかし、AIを「オープンで包括的、透明性があり、倫理的、安全かつ信頼できる」分野にするといったAIの優先事項に署名する段階になると、中国を含めた60カ国・地域が署名した一方で米国と英国は署名を見送った。反対したのは純粋な見解の相違に加え、強硬な政治的姿勢のためだ。 もっと見る AIの規制方法を巡っては、安全性とイノベーションという両極の観点から長らく活発な議論が交わされてきた。欧州連合(EU)は、汎用AIモデルに最低限の透明性と開示を義務付けるAI法を制定し、安全性の方向に舵を切った。しかし、バンス氏はパリの会議で、米国がイノベーション側の立場を堅持していることを明確に示した。バンス氏はEUのデジタルサービス法(DSA)のような「大規模な規制」を痛烈に批判し、行き過ぎた監視は革新的な産業を殺しかねないと警告した。 もっと見る
実はEUも米国も、それほど明確な立場を採っているわけではない。マクロン氏はAI法を一部和らげたいとの考えを持ち、会議の場を借りて1090億ユーロ規模のAIインフラ計画を宣伝した。この計画を、意図的に米国のAIインフラ合弁事業「スターゲート」と比較して紹介した。
一方、米ボストン・コンサルティング・グループのキルステン・ラルフ氏によると、米国の西部カリフォルニア州や南部テキサス州など一部州でのAI規制の草案は、欧州のAI法に類似している。
とはいえ、影響力を行使できる立場にあるのは米国だ。2024年には、米国のスタートアップ企業が世界のAIベンチャーキャピタルの74%、総額810億ドルを調達した。ディールルームのデータによると、他のどの国と比べても10倍以上だ
バンス氏は28年までに予想されるAI関連の研究開発投資、約7000億ドルの半分超が米国に投じられるだろうと強調した。アンドリーセン・ホロウィッツなどシリコンバレーのベンチャーキャピタルがトランプ米大統領とAI規制の最小化を熱心に支持していることを踏まえると、米国はマクロン氏のあいまいな声明も含めて自らを縛る動機はほとんどなかった。
「幻覚」などの不慮の事故を起こしやすいAIの傾向を踏まえると、AI分野に全く障壁を設けないというアプローチは素晴らしいアイデアとは程遠い。それでも、25年にパリの会議が到達した唯一のコンセンサスは、世界がますます障壁ゼロの方向に進んでいるという事実だったと言って差し支えないだろう。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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