わずか数年の間に、ドローンは戦争において不可欠な存在となった。ウクライナやイラン、ナゴルノ・カラバフ、スーダンなど各地の紛争では、自律型の無人機が、現代戦の中核を担う存在となっていることが、次々と明らかになっている。
この現実を台湾も痛感している。中国による武力侵攻の脅威が高まるなか、台湾は強固かつ先進的なドローン開発に必要な、「危機感」「技術力」「産業基盤」をすでに備えている。
台湾は、2028年までに年間18万機のドローンを生産するという野心的な目標を掲げている。しかし昨年の実績は1万機にも届かず、生産体制の立ち上げは難航している。
「台湾には、世界最高水準のドローンを開発できる力が間違いなくあります」と、科学技術民主社会研究所(DSET)の政策アナリストであるキャシー・ファンは語る。
では、なぜ現実はそうなっていないのか。
台湾の自衛が意味すること
ファンらは、6月16日、台湾のドローン産業の停滞ぶりを明らかにする、詳細な報告書を発表した。それによると、台湾の無人航空機(UAV)の生産台数は、過去1年間で8,000~10,000台程度。政府が掲げる目標と実績の間には、「構造的な課題」が立ちはだかっていることが判明した。台湾のドローン生産が伸び悩む背景として、「製造コストの高さ、現地調達の少なさ、海外政府からの発注の乏しさ」が挙げられている。
ファンを含むDSETの研究チームは、5月に台北のオフィスで『WIRED』の取材に応じ、同報告書の内容について、詳細に説明した。
台湾は長年、中国による侵攻の脅威に晒されてきた。だが近年、その懸念はより差し迫った現実へと変わりつつある。
中国政府は、人民解放軍の積極的な近代化を27年までに完了させる方針を明言している。台湾政府関係者は、(中国による)侵攻はそれよりも早く訪れる可能性があるが、習近平国家主席の現在の任期が終了する29年までにはほぼ確実に訪れると見ている。
中国の軍事侵攻が具体的にどのような形式を取るかについては見解が分かれている。しかし台湾の軍事アナリストらは、完全な複合兵器による猛攻撃になるのではないかと懸念している。まずは空と海から、そして陸からの侵攻だ。
つまり、台湾にとって自己防衛のための革新的な解決策を、迅速に確立することが急務なのだ。ある米軍司令官は23年に、台湾が自衛するということは、台湾海峡を「地獄絵図」に変えることを意味すると語った。具体的には、中国の艦艇や航空機に対し、大量の無人航空機や無人海上艇を用いて飽和攻撃を仕掛けるという構図だ。
こうした戦略は、中国の海軍や空軍を完全に壊滅させることを目的とするものではない。あくまでその進攻を一時的にでも遅らせ、台湾の同盟国が防衛支援に動くまでの時間を稼ぐことに主眼が置かれている。
ウクライナを手本に
台北当局はすでに、一部でドローン戦略の本格化に着手している。22年、政府は「国家ドローンチーム(Drone National Team)」を発足。官民連携で新興分野の拡大を図る取り組みを実施している。同チームは、特にウクライナでの教訓を学ぶため、現地にも派遣されている。
ロシアの侵攻を受けたウクライナは、小型で戦術的かつ安価なUAVを前線部隊と密接に連携させ、複数の任務を遂行する防衛戦略を展開している。現在、ウクライナ国内には巨大なドローン産業が育っている。政府は今年、小型ドローン450万機を調達する計画だが、それに加えて長距離無人ミサイルや自律型地上車両、無人海上ドローンの導入も進めている。
一方でウクライナの現状は、台湾が置かれている不利な立場を浮き彫りにもしている。キーウ市内の秘密工房で、現地のドローン開発者が『WIRED』に語ったところによると、アンテナやチップは中国製を使うしかなかったという。台湾製は価格が高すぎるというのだ。
中国メーカーの優位性
台湾は、中国の巨大ドローンメーカーである「DJIには太刀打ちできません」とファンは嘆く。
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