ロシアによるウクライナ侵攻前の2019年、ウクライナ正教会がロシア正教会から「独立」した。ウクライナはカトリックを含め三つの勢力がぶつかり合っている。
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2022年2月から始まったロシアのウクライナ侵攻の根源的問題は「宗教」だ。西側のキリスト教(特にカトリック)と、ロシアなど東方正教との1000年にもわたる宗教的差異こそ戦争を理解するカギになる。ウクライナはこの分断線上にあるからだ。なぜロシアは「特別軍事作戦」という名の「兄弟殺しの戦争」を続けるのか。宗教的に考察する。
現在のロシアを理解するキーワードは「第三のローマ」だと筆者は考える。公式の教義ではないが16世紀から、モスクワこそ正教世界の中心と位置づける言葉として宗教界で使われ始めた。プーチン大統領の下、ソ連崩壊から復活し、国際政治の中で存在感を増そうとする中で、「第三のローマ」を目指すロシアの姿勢はより先鋭化した。
「第一のローマ」とは古代ローマ帝国だ。紀元前27年に始まった帝国は、キリスト教を国教にしたことで世界に拡大する。11世紀半ばにキリスト教会は東西に分裂し、西ローマではローマ教皇の宗教的権威が固まった一方、東ローマ帝国ではコンスタンチノープル(現イスタンブール、トルコ)が東方正教会の中心となる(「第二のローマ」)。
そして、現在のロシアとウクライナの国家の母体になったのは、10世紀末にキリスト教を受け入れた「キエフ・ルーシ」(キエフ大公国)だ。大公ウラジーミル(ヴォロジーミル)がクリミア半島(ウクライナ南部)でキリスト教を受洗、つまり国教にした。現在のウクライナからロシア西部を支配し、首都をキエフに置いた。
三つの「ルーシ」統一
「ルーシ」とは「ロシア」の古称であり、現在のロシアの歴史的起源はキーウ(キエフ)がロシア国家の出発点と認定されている。「宗教はアヘン」と考えた…
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週刊エコノミスト
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