日銀、来年4月から国債買い入れ減額幅を縮小:識者はこうみる

 6月17日、日銀は政策金利である無担保コール翌日物の誘導目標を0.50%程度で据え置いた。市場関係者に見方を聞いた。写真は2024年3月、都内の日銀本店で撮影(2025年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

[東京 17日 ロイター] – 日銀は17日、政策金利である無担保コール翌日物の誘導目標を0.50%程度で据え置いた。政策金利の現状維持は全員一致で決定した。また、国債の買い入れ減額を2026年4月以降も続けることを決めた。四半期ごとの減額幅は現在の4000億円から2000億円に圧縮する。

市場関係者に見方を聞いた。

◎国債買い入れ減額、国際金融市場の安定にかじ

<BNPパリバ証券 チーフエコノミスト 河野龍太郎氏>

  引き続き10月の利上げを想定している。トランプ関税の問題が収束していけば、日本経済は人手不足を背景に来春も賃上げが継続するとの見通しが強まる。そうなると、日銀は年内にも利上げを行うだろう。

なぜ日銀は国債買い入れ減額をしなければならなかったのか。本来ならば超長期債の買い手が減っているのだから、財務省が需給動向を見極めて、超長期債国債の発行を減らして対応すべきこと。日銀のQT(量的引き締め)の話ではないはずだ。

今回、日銀がこういうことをやるのは、世界的に長期金利が上がっている。トランプ関税をきっかけにドルの基軸通貨制度に対し疑念が高まっており、春先以降、米国債市場が不安定になっていたので、米国のタームプレミアムが切り上がっていて、助長しかねない対応は避けたかったということ。日銀にしても財務省にしても、日本発の超長期金利急騰によるグローバル市場の混乱という事態は引き起こしたくなかったのだろう。

日銀にとっても、長期金利、金融政策の安定は物価の安定に並ぶ重大な責務だ。長期金利の安定も大事だが、市場で決まる話。こだわり過ぎると、為替市場の大きな変動をもたらしたり、マクロ経済・物価の安定を損なうリスクがある。

◎国債買い入れ減額幅縮小、政治・財政政策に配慮か 

<農林中金総合研究所 理事研究員 南武志氏>

基本的に金融政策正常化の動きの一環。元々償還を含め(日銀の)国債への異常な関与が長すぎたため、日銀の行動が長期金利上昇につながりかねないということを日銀が逆に意識してしまった。

(四半期ごとの減額幅)4000億円が適切かどうか分からないが、このところの長期金利上昇が2%の物価安定目標の達成には若干気がかりな面として働いた。それが2000億円という減額幅の縮小につながったのかと思う。多少なりとも政治への配慮があったと思うが、長期金利が今上がっている原因はかなり政治的な部分が大きい。参院選前のばらまきで財政拡張圧力が働き、それがさらなる長期金利上昇を引き起こして物価2%目標に悪さをするのではないかとの連想がマーケットに働いた。正常化というには買い入れ縮小のペースが遅すぎるという感じは受けるが、長期金利上昇を抑制したいという意図があるならばペースを落とさざるをえない。

◎金融正常化が一歩後退、減額ペース縮小は矛盾

<ナティクシス日本証券 エコノミスト 岩原宏平氏>

 結果は事前の観測報道通りで、サプライズはない。ただ、金融政策の正常化が一歩後退したという印象だ。日銀は利上げに前向きな印象だったものの、今回の決定は2026年4月以降の国債買い入れの減額ペースを縮小、つまり金融緩和をするという矛盾した内容だ。政策自体がどちらの方向に進んでいるのか、よりわかりにくくなってしまった。

減額ペースの縮小は足元の円債市場の需給悪化が要因であり、対処療法に過ぎない。今後の見通しがはっきりしないと、金融政策が財政を安定させるための手段になってしまったと思われても仕方ないだろう。緩和方向に進むと受け止められれば、円安圧力が高まり、日米関税交渉がより難航する可能性を秘めている。

リスク要因として各国の通商政策などの今後の展開に触れているが、これについてもいつになれば不透明感が晴れるかわからず、待てば待つほど足元の名目賃金の上昇や基調的なインフレの上昇が軟化していく可能性があり、金融正常化の終わりの始まりとなりかねない。

日米関税交渉が落ち着くことが前提となるが、所定内賃金の伸びや基調的インフレの上昇を踏まえると、日銀が9月に利上げに踏み切るチャンスは残っているとみている。

◎予想通り、財務省と二人三脚で市場ゆがみに対応

<ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ 運用部シニア債券ストラテジスト 駱正彦氏>

結果は予想通り。これまで超長期債が売られてイールドカーブがスティープニングしてマーケットに少しゆがみが出ていたので、QT(量的引き締め)のペースに微修正が入った。事前に観測報道が出てその通りとなり、日銀らしいやり方だと感じる。

グローバルの債券市場で金利カーブにスティープニング・バイアスがかかる中、日本のカーブが特に立っている状況だった。これについては同じ船に乗っている財務省も、マーケットと対話しながら超長期国債の発行減額など何らかの対応をするとみられる中、彼らと二人三脚している日銀ももう少し(国債を)買うということだろう。

午後のJGB(日本国債)は先物ゾーンが売りで反応しているが、昼休み時間帯に米国とイランがイスラエルとの紛争停止や核合意について協議する高官会談を検討しているとのヘッドラインが伝わり もっと見る 、リスクセンチメントがやや回復したことが影響していると思う。一方、超長期JGBについては落ち着いた動きとなっている。

◎予想通り、会見で7月利上げへ手掛かり出るか注目

<あおぞら銀行 チーフマーケットストラテジスト 諸我晃氏>

国債買い入れの減額圧縮など、市場のコンセンサス通りの内容。円金利の上昇をながめてドル/円も上値を抑えられた印象だが、値動きは限定的だ。今回の会合がハト派的な内容となるとみて、ドル買い/円売りを進めた向きがポジションを閉じた可能性はある。

植田和男総裁の会見でサプライズはないとみているが、市場の目線がハト派的になっているため、7月利上げに向けた手掛かりが出た場合は円高材料になるとみられる。

◎国債買い入れ月2兆円ならば安定消化問題ならず

<クレディ・アグリコル証券  チーフ・エコノミスト 会田卓司氏>

日銀は先行きの警戒感を示している。中東の地政学リスクも不確実性に加わった。日銀は「成長ペースは鈍化する」とし、2025年度の実質国内総生産(GDP)成長率の見通しはプラス0.5%と、潜在成長率なみに弱く、利上げを急ぐ環境ではないことを示している。景気と物価上昇率の減速によって、日銀は利上げを焦らないだろう。次の利上げは、景気の循環的な回復を確認して、最速でも、来年1月になると予想する。

  日銀は国債買い入れ減額の中間評価を行い、新たに、26年4─6月期から、四半期に2000億円に減額ペースを減速させ、27年1-3月期までに、月間買入れ額が2兆円程度となる計画を示した。

日銀が国債の買い入れ額を減少させることで国債の買い手が減り、日銀以外の主体が買い入れを増やすにもその余地は限定的だとの見方が根強いが、名目GDP成長率が27年度以降に1%を下回るケースで試算した場合、日銀の月間国債買い入れが2兆円程度であれば、日銀以外の主体による国債保有余力は減少せず、国債の安定消化は問題とならない。

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