ウクライナ戦争でロシア軍が継戦能力を失わない背景には、ロシア防衛産業の力がある。
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ロシアの防衛産業は巨大である。同国の産業貿易省が認定している企業だけで1300社以上、雇用は200万人に及ぶという。サプライチェーン(部品などの供給網)の全体はもっと大きな規模となるだろう。その源流はソ連だ。内戦と独ソ戦を戦い抜くため必要だった弾薬工業や装甲戦闘車両の生産から始まり、1950年代以降の冷戦期は核兵器と弾道ミサイルが一大産業に成長した。航空機製造や造船でも、ソ連は世界有数の大国となった。
ソ連型防衛産業の大きな特徴は、研究・開発・製造が分離されていた点にある。西側諸国でも基礎研究機関は企業ではなく国が持っている場合が多いが、ソ連では開発と製造まで別企業だった。基礎研究機関の研究成果を踏まえて「設計局」が具体的な開発を担当し、生産は工場が担うという体制である(業界や時代によって実際の関係性にはかなりの幅がある)。
ただ、ソ連崩壊後、それまで国営企業だった防衛産業の多くは民営化された。設計局や工場の大部分は株式会社化し、中には関連企業の株式を保有して傘下に置く企業も出始めた。設計局が中心となって関連メーカーを統合する例もあれば、逆に工場が設計局を従える例もあったが、要はロシア政府の発注がほぼ途絶える中、輸出によって外貨を稼げた設計局や工場がグループ化を主導したのである。ソ連時代は非主流だったイルクーツク航空機工場がインド向けSu30戦闘機の輸出で大いに潤い、「イルクート」グループを形成するようになったことは、その好例といえるだろう。
一方、輸出が振るわない、あるいはどうしてもできないという分野もあった。前者の代表は造船業で、ロシア海軍向けの調達が長く復活しなかったこともあって非常な苦境に陥った。戦闘機やヘリコプターなら売れるが旅客機はまるで売れない…
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週刊エコノミスト
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