アメリカで6月14日に開幕したクラブワールドカップ(W杯)は、7月13日までの約1カ月間で計63試合が行われる。同大会はこれまで、6大陸と開催国王者の7チーム参加で毎年開催されていたが、今大会から32チーム参加の4年に1度開催と、大幅にリニューアルされた。

スペインからはレアル・マドリードとアトレチコ・マドリードの2チームが参戦。バルセロナは今季華々しい復活を遂げたが、大会資格の基準となる21~24年の欧州カップ戦の実績でAマドリードを下回り、参加できなかった。

■レアルは今季既に62試合

今大会はシーズンの終わりに開催されるとあり、今季は今までにない過密日程となることが開幕前から懸念されていた。特に欧州の主要クラブは試合数の多さが目立ち、選手たちは心身ともに疲弊したまま参加することになった。

中でもRマドリードはクラブW杯開幕前まで、欧州5大リーグ(スペイン、イングランド、イタリア、フランス、ドイツ)最多の公式戦62試合を戦っていた(※Aマドリードは55試合)。仮に今大会を準々決勝まで勝ち上がった場合、00-01年シーズンに記録したクラブ史上最多の66試合を上回ることを考えると、選手たちがいかに厳しい状態に置かれているのかが分かるだろう。

選手の負担は増える一方だが、クラブにとって大会参加は収入面で非常に魅力的だ。賞金総額は10億ドル(約1450億円)で、優勝チームは最大1億2500万ユーロ(約181億2500万円)もの賞金を受け取ることができる。

スペインの2チームは今季を締めくくる大会に臨むにあたり、正反対の動きを見せている。

過密日程とけが人続出が影響し、メジャータイトル無冠のRマドリードはチームを刷新すべく、監督をアンチェロッティからレバークーゼンで大成功を収めたシャビ・アロンソに変更。そしてけが人続出で大いに苦しんだ守備陣の補強に力を入れ、今大会に間に合うようにボーンマスのスペイン代表DFハイセン、リバプールのイングランド代表DFアレクサンダー=アーノルドを立て続けに獲得した。

今大会には間に合わないが、攻撃陣の補強も怠っていない。将来性豊かな若手選手を獲得するという近年の方針に則り、6320万ユーロ(約104億2800万円)の大金を投じて若きアルゼンチン代表MFマスタントゥオーノとの契約に成功した。リーベル・プレートで今大会に参加した後、18歳の誕生日を迎える8月にマドリードへやって来る。

さらに、脆弱な左サイドバックを強化する人材としてベンフィカのスペイン人DFカレーラス、中盤のゲームメーカーとして“新たなトニ・クロース”と呼ばれるシュツットガルトのドイツ代表MFスティラーが候補に挙がり、コモのアルゼンチン代表MFニコ・パスに対し、買い戻しオプションの行使を検討しているという。

その一方、契約満了に伴い、すでにバジェホが退団し、大会終了後に長年チームを支えたモドリッチとルーカス・バスケスが移籍する予定だ。

来季開幕に向けてプレシーズンがほとんどないRマドリードにとって、グループHでアル・ヒラル(サウジアラビア)、パチューカ(メキシコ)、ザルツブルク(オーストリア)が同居する今大会は、良いテストマッチの機会とも捉えられている。

そんな中、シーズンの大半を棒に振ったカルバハルとミリトンに戦列復帰の可能性があることが朗報となる一方、負傷中のメンディとエンドリッキは今大会に出場できず、カマビンガも厳しい状況にある。

戦術面では、シャビ・アロンソ監督がドイツ時代に成功を収めた3バックで臨むのか、4バックに変更するかに注目が集まる。さらに、シーズンを通じて懸念材料であった“ファンタスティック・フォー(エムバペ、ビニシウス、ベリンガム、ロドリゴ)”の起用法や攻守のバランスの取り方が解決すべき問題となるだろう。

■アトレチコはケガ人なし

今季はリーグ前半戦を首位で折り返すも、重要な試合で保守的に戦ったことが結果的に仇となったAマドリードは、グループBでパリ・サンジェルマン(フランス)、シアトル・サウンダーズ(アメリカ)、ボタフォゴ(ブラジル)と対戦するが、今大会に向けて戦力の上積みはない。ここまで、期限付き移籍で今季所属したラングレ(バルセロナ)とムッソ(アタランタ)を完全移籍で獲得したのみだ。

チームを率いて14シーズン目となるシメオネ監督指揮のもと、オブラク、デ・パウル、フリアン・アルバレス、セルロートなどが好調を維持し、バリオスや監督の三男ジュリアーノが急成長し、けが人が1人もいない良好な状態でクラブW杯を迎えた。そんな中で気がかりな点は、大黒柱のグリーズマンが長らく調子を落としていることや、右サイドに比べて左サイドが不安定なことだろう。また、現地ではリード後のゲームコントロールの悪さが度々批判されている。

大会後にアスピリクエタ、ヴィツェル、ヘイニウドが契約満了で退団することが決定しており、サムエウ・リーノ、リケルメ、コレアなどに移籍の可能性がある。

その一方、来季の補強箇所としてセンターバック、左サイドバック、左サイドハーフ、ボランチが考えられており、その候補にはそれぞれ、トットナムのアルゼンチン代表DFクリスティアン・ロメロ、リバプールのスコットランド代表DFロバートソン、ビリャレアルのスペイン代表MFバエナ、ベティスのアメリカ代表MFジョニー・カルドソが挙がっている。そのため来季はメンバーの顔ぶれが大きく変わるかもしれない。

データ分析会社「オプタ」のスーパーコンピュータによる大会前の優勝予想(※今大会を1万回シミュレーションした上での勝率)のトップは、パリ・サンジェルマンで18・5%だった。これにマンチェスター・シティーが17・8%、バイエルン・ミュンヘンが12・8%、インテル・ミラノが12・3%で続き、Rマドリードは9・8%で5番目。Aマドリードは5・1%で8番目、浦和レッズは8チームと並んで最下位の0%だった。

データはスペイン勢にとってネガティブなものになっているが、新監督を迎えたRマドリードがどのようなサッカーを展開するのか、初戦のパリ・サンジェルマン戦を0-4で落としたAマドリードがどのように巻き返すのか…予想を大きく覆す素晴らしいパフォーマンスを期待したい。

【高橋智行】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)

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