富裕層のロンドン離れが加速し、与党・労働党の看板政策「富裕層課税」が英国経済に最終的には損失をもたらすリスクが明らかになりつつある。
2世紀にわたる「非永住者(ノンドム)」向けの税制優遇措置を政府が廃止して以来、大手投資家や起業家が連日、ロンドンを後にしている。決済サービスのチェックアウト・ドット・コム創業者で億万長者のギヨーム・プーサズ氏やエジプトの大富豪ナセフ・サウィリス氏は、税負担の軽い欧州や中東の金融センターへ移住した。当初は小規模だった流出が、急速に大きな流れへと発展している。

富裕層への課税を求めるデモ(ロンドンで、6月7日)
Photographer: Henry Nicholls/AFP/Getty Images
損得勘定
ブルームバーグは500万件に及ぶ企業文書を分析。この結果、公表されているだけで過去1年間に4400件以上の企業幹部による英国からの海外移住があり、それがここ数カ月で急増していることが判明した。
多くのアドバイザーが予測するペースでノンドムの移住が進めば、英国は今後4年間で数千人の雇用と最大122億ポンド(約2兆3800億円)を失う可能性があると、最近の複数の研究が警告している。
かつて世界的なエリートの拠点であることを誇りにしていた英国だが、今や潜在的に深刻な経済的自滅のリスクを犯しており、近年では例がない規模の資産流出へと向かっている。政府はノンドム向け税制変更で約330億ポンドの追加税収を見込むが、雇用と経済成長への打撃についてはるかに厳しい予測を示す声もある。

今のところ、議論はほぼ一つの点に集約される。平均的なノンドム人口の4人に1人以上が英国から出て行けば、政策の損得はマイナスに転じ、労働党政権が直面する経済的な圧力は一段と増すということだ。最近の流出加速を踏まえれば、4人に1人以上という数字は現実的と見る向きは多い。
ロンドンを拠点とする法律事務所、チャールズ・ラッセル・スピーチリスのプライベート顧客パートナー、カトリン・ハリソン氏は「向こう数年でこの水準に達しないとしたら驚く」と述べ、「(4人に1人の)25%に届くだろう」と続けた。
最近のノンドム出国者数について信頼できるデータを得るのは難しい。税務当局が12日説明したところによると、新規則を理由に外国に転出したノンドムの数の推計値は、2027年に公表される。税制優遇措置が廃止された今年4月時点では、約7万4000人のノンドムがいた。

ここ数週間で増加している出国者の内訳は、テック系起業家から欧州の著名財閥の相続人、税負担の増加に直面する超富裕層の英国人まで、多岐にわたる。
今回分析した企業文書によると、4月の出国者数は前年同月比で75%増加し、4年ぶりの高水準だった。ノンドムの多い金融、保険、不動産業では、増加率はこれをさらに上回った。労働党がノンドムの海外資産を相続税の対象に含めると決定したことも、流出を加速させている。
英国でプライベート・ウェルスに関わる企業は、影響を肌で感じている。ブルームバーグの取材に応じた超富裕層向け弁護士やアドバイザーら十数人余りによると、ノンドム顧客の15%から3分の2が英国を離れたか、その計画を立てている。ブルームバーグ・ビリオネア・インデックスによると、すでに出国したノンドムの個人総資産額は、少なくとも1100億ドル(約15兆8000億円)に上る。
英国を拠点とする税務アドバイザー、マーク・デービス氏は「毎日、顧客が去っている」と明かした。同氏は「英国は、教育、ライフスタイル、多様性、そしてもちろん税金などの理由から移住先としてトップクラスの人気を誇っていたが、今では深い失望感が漂っている」とぼやいた。
ノンドムの海外資産に対し、英国の最高相続税率40%の適用対象にすると労働党政権が決定したことも、ノンドムに衝撃を与えた。ノンドムは概して海外に資産の多くを保有しているからだ。既に英国を離れたノンドムには、ベビーブーマー世代やX世代が多く、資産の相続に高い関心を持つ。今回の制度変更では4月初め以降の時点で英国に滞在している富裕層外国人は、外国への転出後も10年間、この相続税の対象となるリスクがある。
伝統
ノンドム向け税制優遇制度の導入は英国が世界各地に植民地を持っていた時代にさかのぼる。海外所得に対する英国の課税を回避しつつ、世界有数の都市であるロンドンをはじめ英国の魅力を楽しむことを可能にした制度に富裕層は飛び付き、英国に移住してきた。ロンドンと同等の都市で、当時このような制度を提供したところはほとんどなかった。
英国は歴史的に、身の丈を超える富を集めてきた。UBSグループの調査によると、同国には100万ドル以上の資産を持つ富裕層が世界で3番目に多く、300万人を超える。上位1%の超富裕層が既に個人所得税の4分の1を支払っているが、国の支出監視機関は超富裕層からさらにしぼり取ることができるだろうとみている。
ブルームバーグの試算によると、ノンドムは雇用税や資本利得税、所得税で平均して年間約12万ポンドを国庫に納めている。人口の約0.1%でありながら、その税負担は英国の総税収の1%余りに上る。財政への影響力がこれほど大きいため、少数が英国を去るだけで政府の歳入見通しに狂いが生じ得る。

英政府は、ノンドムの海外転出が相次ぐ中でも楽観的な姿勢を維持している。保守党政権時代にノンドムの優遇措置削減は既に始まっていたと指摘し、予算責任局(OBR)の数字を引用しつつ、制度変更により今後5年間で338億ポンドの税収増が見込まれると主張する。OBRはこの予測について、不確実性があると示唆している。
英国がノンドムを失う一方で、スイスやモナコ、イタリア、キプロスなどがこの受け皿となっている。こうした国の一部は、富裕層を引き付けようと独自の制度を導入した。
原題:Britain Counts the Mounting Cost of Taxing Wealthy ‘Non-Doms’ (1)(抜粋)

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