
山口県東部の瀬戸内海に面する上関町。
人口2000人余りの町は、原発でたまり続ける使用済み核燃料を一時的に保管するための中間貯蔵施設の建設計画で揺れています。
現在、中国電力が施設の建設が可能か調査を進めていて、「適地」と判断されれば、町は建設を認めるか判断を求められます。
過去には原発の建設計画をめぐり推進派と反対派が鋭く対立して二分された小さな町。中間貯蔵施設の計画をめぐって“再び分断するのではないか”という懸念が高まっています。
住民たちの苦悩と模索を取材しました。
(山口放送局 記者 篁慶一・記者 平浩史・ディレクター 渡部真一郎)
対立を目の当たりにしてきた住民は
上関町で中間貯蔵施設の建設計画が浮上したのは、おととし8月。
計画をめぐり、町が推進派と反対派で分断してしまうのではないかという不安が広がっています。

上関町で妻と3人の子どもと暮らす八木明広さんは、過去の原発建設計画をめぐって祖父が反対派、父が推進派という対立を目の当たりにしてきました。

幼い頃、祖父と一緒に暮らしていた八木さんは選挙が近づくと、祖父と父親が食事中にたびたび口論していたと言います。
八木明広さん
「反対派の祖父は若い子どもたちの未来を考えると、危険な原発があるよりも自然豊かなところで生活させたいという考えがあったと思います。賛成派の父親は生活をしなくてはいけないので活気が出る、お金を落とすといったら原子力だったんだろうなと思います」
こうした対立、分断は町のあちこちで起きていました。

上関町で原発の建設計画が持ち上がったのは1982年。計画をめぐり、推進派と反対派の間で長年、鋭く対立を続けてきました。
互いに口をきかなくなるだけでなく、激しいときには、反対派のデモとそれを阻止しようとした推進派が衝突したこともありました。
離島では意見の違う住民を島に入れないといった動きも出たといいます。
2011年の福島県の原発事故のあと、原発に関わる工事が中断し、いったん対立は弱まりましたが、今度は中間貯蔵施設の建設計画が明らかになりました。
原発について、最後までわかり合えなかった祖父と父親の姿をそばで見てきた八木さんは、再び対立することを危ぶんで、あえて中間貯蔵施設について明確な立場を示していません。
八木明広さん
「結果的に町が運営していければ、別に反対でも賛成でもよく、落としどころを見つければいいんじゃないかと思います。昔からの因縁があるということもわかるので、一概に推進か反対か言えません」
「中間貯蔵施設」とは

中間貯蔵施設は原発で出た使用済み核燃料を一時的に保管するための施設です。

原発から出た使用済み核燃料は、原発内のプールで一定期間冷却され、温度と放射線量が下げられます。

そして、高さ5メートル余りの金属製の容器「キャスク」に入れて中間貯蔵施設で保管します。
キャスクの外側に人が近づいても問題ないレベルまで放射線は抑えられるといいます。
そもそも、なぜ施設は必要なのでしょうか。

国の原子力政策「核燃料サイクル」が行き詰まり、全国各地の原発で使用済み核燃料がたまり続けているためです。
「核燃料サイクル」では原発で出る使用済み核燃料を再処理工場へ移してウランやプルトニウムを取り出し、再び原発の燃料として使います。
ところが、再処理工場はトラブルなどで完成の延期が繰り返されています。
そこで「中間貯蔵施設」を建設し、そこに使用済み核燃料をいったん移す必要が出てきました。去年、青森県で国内初の中間貯蔵施設の操業が始まり、仮に上関町で操業が始まれば国内で2例目となります。
なぜ上関町で建設計画が
なぜ上関町で原発や中間貯蔵施設の建設計画が持ち上がったのでしょうか。背景には急速に進む人口減少があります。

2025年5月1日時点の人口は2155人で、40年前と比べても3分の1にまで減少しました。
急速に進む人口減少に歯止めをかけて持続可能なまちづくりをしていくためにも、施設の建設計画が進むと得られる交付金や、施設建設などに伴う経済的な恩恵に頼りたいという実情があります。
町ではもともと原発の建設による経済的な恩恵を期待していましたが、福島原発の事故で頓挫し、町は新たな振興策を中国電力に求めました。

町では中間貯蔵施設が稼働し始めたむつ市を参考に交付金について独自に試算しました。
貯蔵する使用済み核燃料をむつ市の3分の1の1000トンと仮定して貯蔵期間を50年間とした場合、総額およそ360億円の交付金を受け取れるとしています。
「中間貯蔵施設」安全性は

原子力政策に詳しい、長崎大学の鈴木達治郎客員教授に中間貯蔵施設の安全性について聞きました。
長崎大学 鈴木達治郎客員教授
「ほかの原子力施設に比べれば、おそらく中間貯蔵施設は一番安全だと思います」

根拠としているのは「乾式貯蔵」と呼ばれる保管方法です。
「乾式貯蔵」では、水や電気を使わずに空気の流れだけでキャスクの表面を冷却します。プール貯蔵に比べ、災害などで電源を喪失しても安全に保管が続けられるとされています。
一方で、運搬時の事故などで回収が難しくなるケースやテロの標的となるおそれがあり、「リスクはゼロにはならない」と指摘します。
さらに使用済み核燃料を入れるキャスクは前提として「頑丈に設計されリスクは非常に低い」とした上で、万が一、壊れた場合、影響は大きいと指摘します。
長崎大学 鈴木達治郎客員教授
「福島事故と同じことが起きます。万が一、使用済み燃料が出てきたら、大量の核物質が出ていってしまうので、それは避けないといけない。原子力施設で一番リスクが少ないのは中間貯蔵施設かもしれませんが、そもそも原子力施設がなければリスクが全くないわけですから、地元の方々がどう考えるかですよね」
立場の違いを乗り越えて
長年の推進派・反対派の立場の違いを乗り越えようという動きも出ています。

上関町に住む漁業者の小濱鉄也さんは、高校卒業後、地元で50年近く漁業を続けてきました。
原発や中間貯蔵施設については推進の立場ですが、長年の分断を解消しなければならないと考えています。
小濱鉄也さん
「どんどん分断が進んでいって何にも物事が進みません。そんな時代じゃないじゃないですか。どっかでお互いが変わらないと」

小濱さんは現在、施設建設に反対する高島美登里さんと手を携えて町の活性化に取り組んでいます。
高島さんは美しい上関の自然を守ろうと長年、原発の建設に反対し、中間貯蔵施設にも反対しています。
高島美登里さん
「核にただ頼るんじゃなくて、未来を切り開くときに自然を生かしたまちづくりも1つの方法ではないでしょうか」
福島の原発事故以降、工事が中断した町で、2人は2017年、「上関ネイチャープロジェクト」を立ち上げました。

団体では地元で穫れたタイなどの新鮮な魚を客へ直送するサービスや船を出して自然体験ができるイベントを開催。
「上関町の豊かな自然の魅力を発信する」という共通の目標に向けて二人三脚で歩みを進めています。
小濱さんと高島さんは活動を通して対話を重ねるうちに互いの考えも理解できるようになったといいます。

小濱さん
「(美登里さんとの会話で)中間貯蔵施設などの工事で、自然は破壊しちゃいけないかなと気持ちが揺らぐことはありますよね。私の気持ちが揺らぐのは、美登里さんとしては、してやったりの思いかもしれませんけど」
高島さん
「漁師さんも生活が大変になっている。だからいろんな形でお金が欲しいっていう気持ちもわかるし、皆さんの悩みに応えられるような形をつくっていきたいというのがすごくありますね」
こうした活動を進める中で、町が中間貯蔵施設の立地に適しているか、中国電力の調査の結果が今後示されます。
小濱さんは、施設を作るにしても作らないにしても後世に“分断”を残さないことを望んでいます。
小濱さん
「対立だけじゃ物事何も進みません。ゴリゴリに推進・反対と言っていたら40年前にまた戻ります。尾を引くような戦いはもう止めてほしいです」
分断は乗り越えられるのか答えはまだ出ていませんが、乗り越えたいと願う人たちが確かに動き出しています。
取材後記
取材を通して根深い対立が続いてきた小さな町で、再び対立を繰り返したくないという住民の切実な思いを感じました。
“分断”はこの小さな町だけでなく、日本や世界中で現在、大きな問題になっています。小濱さんや高島さんのように対話を通して互いの主張を認め合いながらわかり合える部分を模索することは難しくなっているのかもしれません。
中間貯蔵施設の計画をめぐっては周辺の自治体でもさまざまな声があがり、近くの田布施町の町議会では「中間的な貯蔵施設とはならず、最終的な貯蔵場所となるおそれが高い」などとして施設建設に反対する決議が可決されました。
一方、交付金などの恩恵を期待して建設に賛成する意見も聞かれます。上関町では今後、「適地」という判断が出た場合、町の人たちは再び選択を迫られることになります。
“分断”を経験してきた人たちが意見の違いを抱えながらも今後、乗り越えていけるのか、引き続き取材していきたいと思います。
(5月16日 「Yスペ!」で放送)

山口放送局記者
篁慶一
2005年入局
初任地は青森局
沖縄や北海道を経て2024年4月より山口局で勤務

山口放送局記者
平浩史
2017年入局
初任地は仙台局
2022年より山口局
現在は山口県東部にある岩国支局に勤務

山口放送局ディレクター
渡部真一郎
2022年 民放局から転職
初任地は広島局
2023年8月より山口局
最近の趣味は山口県内の豊かな自然をカメラで撮ること

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