米国と中国の貿易協議はどうやら決裂はしなかったが、なお険しい道のりを歩み続けている。写真は、協議が行われたロンドンのランカスター・ハウスの米中国旗。6月10日、ロンドンで撮影(2025年 ロイター/ Toby Melville)
[ワシントン 11日 ロイター BREAKINGVIEWS] – 米国と中国の貿易協議はどうやら決裂はしなかったが、なお険しい道のりを歩み続けている。両国が10日に英ロンドンで合意した内容は、1カ月前にスイスのジュネーブで交わした報復関税の連鎖に関する「休戦」の約束のほぼ焼き直しに過ぎない。この間、双方は相手の急所を発見した。米国にとって痛いのは、中国がレアアース(希土類)の供給を完全にコントロールしていること。逆に中国は、米国のハイテク製品輸出規制と中国人留学生受け入れ問題が重大だ。そして両国は、許容できないほど対立を激化させないよう自制するかもしれないが、危機の火種は消えていない。トランプ政権が中国製品に課している55%の関税引き下げに至る最終的な協議の「出口」は、はっきりしまいままだ。
Line chart showing tariff levels on US imports on goods from China
世界の経済大国トップ2が完全に袂を分かつ恐れがあったものの、今回の合意によって両国とも互いに貿易面でのアルマゲドン(世界最終戦争)は甘受できない現実が示された。中国のレアアース資源供給での絶対的な支配力は、間違いなく大きな武器になり得る。アリックスパートナーズのデータによると、世界全体におけるレアアース採掘量の70%、精製能力の85%、合金・磁石生産の約90%を中国が握っている。実際、米政府は中国がジュネーブでの合意を守らず、レアアース供給を制限していると非難し、ロンドンでの協議につながった。
米国にも明らかな武器がある。最先端半導体分野ではファーウェイ(華為技術)などの中国企業の技術が急速に進んでいるとはいえ、エヌビディア(NVDA.O), opens new tabを含めた米企業が人工知能(AI)に不可欠な半導体生産で引き続きリードしている。そうした優位は、最近米政府が輸出規制を強化している半導体設計ソフトウエアにも及ぶ。米国の大学が中国人留学生を受け入れるかどうかもカードの1つで、トランプ大統領は今回の米交渉団が受け入れ再開に合意したと明かした。
10日の合意は、トランプ大統領が打ち出した「相互関税」の上乗せ分の90日間停止措置が失効する7月9日を前に、状況が進展しているという幻想を生み出している。実際には、ナバロ米大統領上級顧問が掲げたような「90日間で90件の(包括的)取引」を成立させるどころか、米政府がこれまで貿易交渉で合意できたのは英国と中国にとどまる。しかも中国との取り決めは足場がもろいかもしれない。なぜなら米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)によると、中国は新たなレアアース輸出許可の期間を半年に限定しており、今後の交渉カードとして維持している。結局さらなる対立激化の道から引き返した以外、重要な問題は未解決で、事態は何も変わっていない。
●背景となるニュース
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(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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