台湾の生命保険会社は米国の公社債への大規模投資を数十年続け、平均を上回るリターンを得てきた。しかし、今やその集中投資が7000億米ドル(約102兆円)を超える海外資産を脅かす重大なリスクとなっている。
日本などの生保が分散投資を進める中、台湾勢は海外資産の9割以上を米ドル建てで保有。この偏りが、米国の突出した経済的地位が揺らぐ中で、米ドル建て資産の長期的な値下がりリスクを高めている。
さらに深刻なのは、約1兆2000億米ドル規模のこの業界が、投資モデルの大きな転換に向けた動きを見せていない点だ。台湾金融市場の規模が小さい上、苦境時には当局の支援に頼る体質が根強いことが背景にある。
1-4月に発生した40億米ドルの為替差損や大手各社の業績悪化は、その序章に過ぎない可能性があり、台湾の金融システムや退職後資金の安定性に対する懸念が強まっている。

台湾生保各社の苦境は、台湾内の投資先が限られる一方で経常黒字を抱える輸出主導型経済に見られる共通のジレンマを象徴している。
また、輸出競争力のある為替水準を維持しようとする台湾の政策にも注目が集まっており、これは米国との通商交渉の焦点の一つでもある。
米シンクタンク、外交問題評議会(CFR)のブラッド・セッツァー上級研究員は「生保の外国債券ポートフォリオや為替ヘッジなしでの運用規模、米ドルへの集中度において極端な例が台湾だ」と指摘。
「台湾の中央銀行が長きにわたり為替の変動を抑え、時には大規模介入で通貨高を阻止してきたことで、米ドル建て資産をヘッジなしで保有しても大きなリスクにはならないとの見方が定着してしまった」と述べた。
急成長
台湾経済の1.5倍に相当する規模まで成長したこの業界は、規制緩和と人口高齢化という追い風を受け、20年間にわたり拡大を続けてきた。1940年代には2社しかなかった保険会社は、公式統計によれば、20社を超えるまでになっている。
台湾ドル建て債市場の小ささや為替レートの管理体制、そして米国の高金利が重なり、保険会社は利回りを求め巨大な米債券市場に殺到した。この旺盛な米ドル需要は、台湾中銀による台湾ドル上昇を抑え続けるための市場介入の必要性をも減らしていた。

台湾金融監督管理委員会(FSC)によると、3月末時点で生保の7780億米ドルに上る海外資産の90%超が米ドル建てで、その大半は米国の企業債務に投資されていた。
ムーディーズ・レーティングスのアナリスト、ケルビン・クォック氏によれば、保険料収入は主に台湾ドルで得ているため、少なくともアジアで「最大の資産・負債の通貨ミスマッチ」が生じているという。
ヘッジ不足
米ドルが強ければ、このビジネスモデルは問題なく機能する。
資産規模で台湾最大の生保、国泰人寿保険は3月末時点で資産の68%を海外資産が占めており、2011年の40%前後から大幅に増加。海外資産1800億米ドルの97%が米ドル建てだ。
同社の年次報告書およびブルームバーグの集計によれば、16年以降の平均年間投資リターンは約5%で、台湾公債10年物の利回り(0.9%)を大きく上回っている。
台湾人寿保険の許舒博会長は「政治的にも経済的にも安定した地域に多く投資しており、台湾は米国との関係も近い」と述べ、「他市場への投資もあるが、米国の投資先は他より成熟しているものが多い」と説明した。
だが、その安心感は5月初めに打ち砕かれた。台湾ドルが米ドルに対し37年ぶりの急騰を見せ、今年に入ってからの上昇率は9%超と、アジアで最もパフォーマンスの良い通貨となった。
米ドル安によって保険会社の米ドル建て資産の価値が下がる一方で、リスクヘッジの不足が影響をさらに深刻化させた。FSCによると、3月末時点で生保の通貨ヘッジ比率は平均61.5%にとどまっていた。
ゴールドマン・サックス・グループのアナリストは、台湾ドルが10%上昇するごとに保険会社が180億米ドルの含み差損を被る可能性があると試算している。フィッチ・レーティングスはこの業界の見通しを「中立」から「悪化」へと引き下げた。
FSCの彭金隆主任委員は先月、「保険会社は手元資金に余裕があり、流動性の問題はない」と語った。FSCおよび台湾中銀の当局者から、コメントは得られていない。
パソコン大手エイサーの創業者で南山人寿保険の取締役でもある施振栄氏は、「台湾の保険会社が運用すべき資金が多過ぎる一方で、台湾内の投資先が少な過ぎることが最大の問題だ」と述べた。
実際、台湾政府による昨年の公債発行額は5380億台湾ドル(約2兆6100億円)と、保険会社の資産規模に比べるとごくわずかだ。

原題:Taiwan Life Insurers’ $700 Billion Bet on the US Is Backfiring (抜粋)

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