世界で最も強大な権力を持つ人物であるトランプ米大統領と、世界一の富豪であるイーロン・マスク氏が対立している。これは良いニュースではない。マスク氏からはその後、いったん事態の沈静化を図る意向を示唆する投稿もあるなど、事態は急速に進展し、不安定で複雑だ。

  ブルームバーグ・エコノミクス(BE)のエコノミストとアナリストは、現時点で次のような分析をまとめた。

  まず、トランプ氏の政治的な求心力とビジネスの本能、マスク氏の起業家としてのダイナミズムと技術的天才の組み合わせは、米経済の再生と国際的地位の強化という希望を両氏の支持者に抱かせるものだった。

  全てが計画通りに進めば、減税と規制緩和によって経済成長が加速し、マスク氏が主導する「政府効率化省(DOGE)」が政府を一段と賢く効率的にし、米国民には良いことずくめになるはずだった。

  しかし、トランプ、マスク両氏の取り組みには懸念も浮上した。トランプ氏の気まぐれな本能は、減税効果を上回るほどの新たな問題を引き起こすのではないかという心配や、DOGEにこれほど多くの政府情報へのアクセスを与えることは、安全保障上の脅威になるのではないかという不安だ。

  今では、マスク氏がトランプ氏の弾劾を求める投稿をリツイートし、トランプ氏はマスク氏の企業との政府契約を打ち切ると脅すなど両氏の関係は劇的に崩壊し、当初の懸念が表面化している。

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  マスク氏の企業に対する攻撃は、米国の技術的優位を危険にさらすことになる。宇宙開発企業スペースXの衛星、人工知能(AI)開発会社xAIの生成AI「Grok」、テスラの電気自動車(EV)など、マスク氏の企業は戦略的分野で米国に競争優位をもたらしてきた。これらに打撃が加えられればあまりも大きな代償を伴う。

  衛星通信サービス「スターリンク」は宇宙を利用したインターネットサービスで事実上の独占状態にあり、米国およびウクライナを含む同盟国の軍事作戦にますます不可欠となっている。スペースXがなければ、米国は軍事・情報機関のミッションの主要な打ち上げ手段を失うことになる。宇宙船ドラゴンがなければ、米国には有人宇宙飛行のための現実的な打ち上げ手段が国内に存在しない。

  一方、税制や社会保障から政府契約に至るまで、マスク氏とDOGEのチームは機密性の高い政府情報やシステムにアクセスできるようになっていた。マスク氏がトランプ陣営の内側にいた時でさえ、データが悪用されるのではないかという懸念があった。マスク氏がその外に出たことで、そうした懸念はさらに増大している。

  マスク氏は世界で最も影響力のあるSNS企業の一つであるX(旧ツイッター)を所有しており、自身もXで2億2000万人余りのフォロワーを持つ有力な発信者だ。これにより同氏は強力な影響力の手段と、膨大に拡大し続けるデータの宝庫を手にしている。既にマスク氏がその影響力を行使し、トランプ氏の税制法案を阻止しようとしている様子がうかがわれるが、これが物語の終わりとは考えにくい。

  今回の対立とそれに伴う潜在的な影響は、産業と政府の権力をそれぞれ1人の人物に集中させることで生じる脆弱(ぜいじゃく)性を浮き彫りにしている。

  トランプ政権2期目の多くの事柄と同様、トランプ氏とマスク氏の関係の見通しも引き続き不透明だ。5日の取引でテスラの株価が14%下落したことは、市場が両氏の亀裂の影響を深刻に受け止めていることを示している。仮に米国が戦略的技術におけるリーダーシップを失ったり、新たな国家安全保障上のリスクに直面したりすれば、影響を受けるのはテスラの投資家だけではない。

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原題:US INSIGHT: What’s at Stake in Trump vs. Musk? A Lot (1)(抜粋)

(マスク氏の最新の投稿に関して本文1段落目に情報を追加して更新します)

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