ナイアガラの名門ワイナリー、シャトー・デ・シャルムで18年にわたり活躍する松本有奈さん。日本からカナダへ渡り、言葉も文化も異なる地でゼロから歩んだワインの道。今では国際営業の要として、アジアとカナダの架け橋となっている。そんな彼女に、仕事のやりがいとナイアガラワインの魅力について伺った。
シャトー・デ・シャルム独自の哲学について
ーシャトー・デ・シャルムは、エステート・ワイナリーの先駆けとして知られています。創業以来、大切にされてきた価値観やワイン造りの哲学を教えてください。また、それが他のナイアガラのワイナリーとどのように異なるとお考えですか?
昨年の夏から新たな経営陣を迎え、ポール・ボスク(Sr.)が築いた伝統を大切にしながら、彼から技術を引き継いだフランスからの女性醸造家、アメリーが常に入念に畑と工場を見回っています。
様々なバックグラウンドの醸造家が活躍するカナダで、弊社ではフレンチオークの樽を使用し、フランス系のワイン作りにこだわっています。
ーシャトー・デ・シャルムは持続可能な葡萄栽培を実践されています。地球温暖化や気候変動といった環境問題に対して、どのような対応や取り組みを行っておられますか?
気候に関しては毎年様々な問題が生じますが、暖かい年は葡萄の生育期間が長くなり、収穫時に熟し、ワインの風味がより深くなります。寒さ対策としては冬には葡萄の木を保護し、春には柔らかい芽を保護するために、風力発電機が使用されます。エンジン駆動のファンは、激しい温度反転で暖かい空気を下に引き込み、作物近くの冷たい空気を入れ換えます。雨が多い年は根腐れしないように畑にドレインシステムが設けられています。
ナイアガラワインの魅力と国際的な可能性
ーナイアガラ地方で生まれるワインの魅力とは何だと思われますか? また、世界のワイン市場において、今後どのような可能性があるとお考えでしょうか?
シャルドネやリースリングをはじめ、ガメ・ノワール、カベルネ等の冷涼な気候に合う品種がこの辺りの土地で盛んに栽培されています。現在の世界情勢の中では、カナダ国内では自国の物を応援しようという動きがあるので、カナダ産ワインの人気も高まる傾向にあると思われます。地元産のワインが活気づく良いチャンスですので、ナイアガラのワインもこれを機に国内だけでなく、世界へ進出できる事を願います。
アイスワインの現状とこれから
ーアイスワイン造りには高度な技術と自然条件が求められると伺います。御社ではどのようなこだわりを持って製造されていますか?また、ナイアガラの気候や土壌(テロワール)はその品質にどう影響しているとお感じでしょうか?
この地域の冷涼な気候は、オンタリオ湖によって緩和され、アイスワインには欠かせません。暖かい夏は葡萄を熟させ、寒い冬は自然に凍結させます。栄養分が豊富なナイアガラの変化に富んだ土壌とこの地域の冷涼な気候は、アイスワイン生産に理想的な環境を作り出しています。
アイスワイン用の葡萄の収穫時の規定気温はマイナス8℃ですが、弊社では糖度が更に増すのを待つため、マイナス10℃以下としています。そして収穫された葡萄は即座に圧搾機にかけられ、濃厚な果汁を絞り出します。
ーアイスワインはカナダを代表するワインとして知られ、アジアやヨーロッパなど、カナダのアイスワインは世界中で高く評価されていますが、近年の消費者の嗜好や市場動向に変化はありますか?今後、どのような展開をお考えでしょうか?
アイスワインは珍しい事もあり、高価な物というイメージがありますが、ナイアガラならではのお土産として、弊社では50ミリの小さなボトルの生産も始めました。観光でワイナリーを訪れて下さった方々にお持ち帰りしていただき易いサイズを作ることで、小さなギフトとしても世界に広まればと思い、今後はその種類も増やしていけたらと思っております。
ー近年、温暖化の影響で収穫のタイミングや気候条件が変わってきていると聞きます。アイスワインの生産における具体的な影響や、それに対する対応策があれば教えてください。
近年は温暖化の影響も常に話題になっており、実際にアイスワイン用の葡萄の栽培はリスクを伴うため、ナイアガラエリアでも減少傾向にあります。そのため、ますます希少価値として注目されるのではないかと思います。弊社の醸造家・アメリーは冬の気温や天候を常時確認し、最適の収穫のタイミングを逃さないように常に気を配っています。
Arina Matsumoto-Fedorowichさんに聞く
ワイナリーで働くことになったきっかけについて
ーまず最初にお伺いしたいのですが、有奈さんがこのワイナリーで働くことになったきっかけ、またナイアガラワインとの出会いについて教えていただけますか?
2008年の春、私が転職を希望していたことと、その時たまたまこのワイナリーが日本語対応できるスタッフを募集していたことがきっかけでした。その時点では私にはワインや葡萄に関する知識はなく、ゼロからのスタートでしたが、トレーニングを受け、ワイン好きが集まる職場で日々影響を受け、今ではワインに囲まれる生活が普通の環境となりました。
ースバリ有奈さんにとってナイアガラのワインの魅力は何だと思われますか?
フルーツ作りが盛んなこのエリアで作られるワインは、アロマも豊富で初心者でも飲み易いものが多いと感じます。テーブルワインからデザートワインまで幅広い分野のものが生産され、それぞれのワインメーカーの持ち味も活かされているので、ワイナリー巡りをするのも楽しみの一つです。
シャトー・デ・シャルムでの役割と日々のやりがい
ーアジア・パシフィック地域を担当されているとのことですが、具体的にどのような業務に携わられていますか?その中で特にやりがいを感じる瞬間があれば教えてください。
アジアからのグループツアーや個人旅行でワイナリーにいらっしゃる方々の工場見学&試飲、またはその他のプログラムの予約管理とご案内、取材の対応、日本からの個人的なご注文の対応と発送、特別なイベントの計画やアジアに向けてのInternational Salesとして情報収集と発信をしております。
このワイナリーでの仕事は今年で18年目に入りましたが、やりがいを感じるのは様々な分野の方とお会いした時です。そしてその方々に私がお勧めしたワインを「これは美味しい!」と言っていただけた瞬間ですね。
ー日本(アジア)とカナダという文化の架け橋のようなお仕事をされていますが、多文化の中でワインを伝える際に意識していることや、大切にしている視点はありますか?
シャトー・デ・シャルムには、様々な言語を話すスタッフが揃っております。そんな中で日々、文化や言語、習慣についての新しい発見があり、日本の事にも興味を持ってもらえる職場です。スタッフやお客様を通して様々な世界の料理とワインのペアリングについても知る事ができます。昔はワインは洋食と合わせるイメージが強かったのですが、自分自身が幅広い和食との相性も試して、日本の食文化とワインの組み合わせも広めていけたらと思っております。
【プロフィール】
Arina Fedorowich(アリナ・フェドロウィッチ / 松本有奈)カナダ在住歴25年、愛媛県出身。2000年に結婚のため渡加。一年目は夫の仕事の関係でマニトバ州北部に住み、2001年からナイアガラへ。ギフトショップで働く傍らCatholic School Boardを通じて子供向けの日本語学校を開く。2008年の春、当ワイナリーへ入社。Asia-Pacific部門を担当し、傍らでナイアガラ・カレッジの非常勤講師として日本語クラスを受け持つ。後にワイナリーでオンラインストアの責任者を務める。勤続18年目を迎えた今春、新たにInternational Salesを担当する。