6月5日、米国株の最近の底堅さには、どの尺度で見ても目を見張るものがある。ウオール街で3月撮影(2025年 ロイター/Kylie Cooper)
[オーランド(米フロリダ州) 5日 ロイター] – 米国株の最近の底堅さには、どの尺度で見ても目を見張るものがある。株価は数々の逆風を乗り越え、トランプ米大統領の関税措置がもたらした下落分を取り戻して年初来のプラス圏に入った。しかも、逆風が去っていないにもかかわらず上昇余地はまだ残っている可能性がある。
米国株はトランプ氏による「相互関税」の発表を受けて4月7日に底値を付けた後、S&P500種総合指数は23%、ナスダック指数は32%、それぞれ反発している。主導したのは「ビッグテック(巨大ハイテク企業)」で、ビッグテック7銘柄に投資する上場投資信託(ETF)の「ラウンドヒル・マグニフィセント・セブン」は35%余りも上昇した。
一見すると、これは注目すべき動きだ。なぜなら、株価暴落をもたらした高関税、米中間の緊張、混乱に満ちた型破りな米政権の政策といった要因の多くは今も残っているからだ。
株式強気派は実質的に、向こう数カ月間で多くの事態が正常化することに賭けている。つまり、米連邦準備理事会(FRB)は利下げを行い、景気後退は訪れず、関税にもかかわらずインフレ率は跳ね上がらず、米ハイテク企業の好決算は続き、米政府の財政懸念は和らぐだろう。そして最も重要なこととして、トランプ氏は極端な高関税の脅しを取り下げ続ける、すなわち「TRUMP ALWAYS CHICKENS OUT(トランプ氏は常にびびって退く)」ことを前提としたTACOトレードが今後も続くことに賭けている。
万事がうまく整うというわけだ。
しかし、金融界の大御所からは、特に米国の財政見通しについて懐疑的な声も出ている。長年の財政タカ派であるブリッジウォーターの創設者レイ・ダリオ氏とJPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は今週、米国の債務は持続不可能だと再度指摘した。だが、株式投資家にとって、これらの警鐘は馬耳東風だ。あるいは財政問題が現実化するのは何年も先だと踏んでいるだけかもしれない。
<押し目が短い訳>
一面では、投資家、特に現在の上昇相場のけん引役とみなされている個人投資家は、楽観的過ぎるようにみえる。ところが別の方向から見ると、米国株の投資家は根本的なリスクを無視しているのではなく、単に数カ月前ほど破滅的な状況ではなくなったと考えているだけかもしれない。実際、足元の相場反発の土台となったのは、数カ月前の過度に悲観的なムードだ。
米銀行大手バンク・オブ・アメリカの4月のファンドマネジャー調査を見ると、機関投資家の心理は「相互関税」発表直後に極端な悲観ムードに落ち込み、景気後退への懸念は過去最悪水準に膨らんでいたことが分かる。
一方、5月の調査によると、ファンドマネジャーは米国株を過去2年で最も大幅なアンダーウェートとしていた。心理とポジションがここまで悪化すると、反発は容易に起こり得る。
米個人投資家協会(AAII)による最新のセンチメント調査を見る限り、株価の反発余地はまだ残っているようだ。米国株に対する短期的な悲観心理は先週時点で「極端に高い」41.9%と、過去平均の31.0%をこの28週のうち26週で上回った。
HSBCのマルチアセット・ストラテジー・チームが今週指摘したように、こうしたセンチメントとポジションの指標がまったく上向かないからこそ、相場の押し目は現在短命に終わっているのだ。
米国株が数カ月前の下落分を取り戻し、バリュエーションが直近高値に向けて戻りつつあるにもかかわらず、米国株は今年、他市場に比べて出遅れたままであることにも留意する必要がある。
S&P500は年初から1.5%しか上昇していないのに対し、MSCI全世界株価指数は約6%上昇し、4日には過去最高値を付けた。このことを踏まえれば、米国株には今後数週間から数カ月中に相対ベースで他市場をアウトパフォームする余地があるのかもしれない。
もっとも当然ながら、相対的価値を示す指標は依然として米国以外の市場の方が有望なことを示している。
上記の情勢を考えても、大量の資金が再び米国に戻ってくると期待すべきではない。国際的な機関投資家は今後も米国資産への投資配分を再考し続け、米国株にとって長期的なリスクとなる可能性がある。ただ、目下のところは国内の投資家がその穴を埋めている。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。