
6月5日、中国北京の天安門広場からすぐ東にある巨大ビルの一角で仕事をしている中国商務省の小規模なチーム「産業安全輸出入管理局」が、世界の自動車産業の運命を左右しつつある。北京の同省前で4日撮影(2025年 ロイター/Florence Lo)
[北京 5日 ロイター] – 中国北京の天安門広場からすぐ東にある巨大ビルの一角で仕事をしている中国商務省の小規模なチーム「産業安全輸出入管理局」が、世界の自動車産業の運命を左右しつつある。レアアース(希土類)磁石の輸出許可権限を一手に握っているからだ。
電気自動車(EV)から風力発電、米軍の最新鋭ステルス戦闘機F35にいたるまで使われるレアアース磁石は、中国がほぼ独占的に供給する。中国は4月、米国との貿易戦争の一環として、レアアース磁石を輸出管理リストに加え、全ての輸出に政府の許可を義務付けた。
その実務を担うのが産業安全輸出入管理局だ。
4月以降、世界各地の自動車メーカーや半導体企業、航空宇宙関連企業などからレアアース磁石の輸出許可申請が殺到したものの、実際に許可されたのはごく一部の案件にとどまっている、と業界関係者やロビイスト、外交官らは口をそろえる。
米政府は、こうした手続きの遅れは中国が5月にスイス・ジュネーブで米国と合意した取り決めに違反している証拠だと反発し、報復として航空機エンジンなどの輸出に制限を設けた。
この問題では5日にトランプ米大統領と中国の習近平国家主席が電話で会談。その直後トランプ氏は自身のSNSに「レアアース製品を巡る複雑さに関する疑問はもはやなくなるはずだ」と投稿したが、習氏との具体的な合意内容は明らかにしていない< もっと見る >。
一方、中国側の声明文にレアアースについての具体的な言及はなかった。ただ国営メディアは中国政府が「(ジュネーブでの)取り決めを真剣かつ熱心に履行した」と伝えた。
関係者2人によると、レアアース磁石の輸出許可制が導入された際にわずか30人だった産業安全輸出入管理局の人員は、それから拡充されて60人前後と2倍に増えている。
しかし、在中国欧州連合(EU)商工会議所のアダム・ダネット会頭はレアアース磁石について「中国商務省が資源を増やして需要に対応し、職員がこの問題で長時間懸命に働いていることに感謝している。だが現実は幅広い産業分野に甚大な影響が広がっており、もっと計画的で段階的にできたのではないか」と、輸出許可が滞っている事態に苦言を呈した。
 Graphic: Flow chart explaining China’s dual-use item export licensing process
Graphic: Flow chart explaining China’s dual-use item export licensing process
<複雑な手続き>
レアアース製品の供給不足には世界中から悲鳴が上がっており、中国が供給市場を牛耳っている構図が改めて浮き彫りになっている。また中国の行政組織内部での非常に複雑な事務手続きが円滑な処理を阻んでいる様子もうかがえる。
ドイツ自動車部品大手ボッシュの広報担当者は「4月以来、当社のサプライヤーがさまざまなレアアース類の輸出許可のために行った申請のプロセスは複雑で時間がかかっている。その一因は数多くの情報を収集して提供しなければならない点にある」と明かす。
商務省が3月下旬に公表した中国語の許可申請手引きには、1万4000字に迫る文章が連ねられている。
欧州の自動車サプライヤーだけでも4月上旬以降に数百件の輸出許可を申請したものの、許可されたのはおよそ25件でしかない。
商務省による公式の手引きは、技術的な製品説明や署名された契約書などの情報を要求。生産設備の説明や製品の写真を添付することも奨励されている。
中国政府はその目的として、軍事と民生両方に使用可能な製品(両用品)が最終的に軍事転用されない道筋を確保することを挙げる。しかしダネット氏は、多くの申請書で民生用と明記しているにもかかわらず、複数の当局者が過度に警戒するケースが少なくないと解説した。
ダネット氏は、一部の企業からは知的財産に含まれる機密情報まで提供を求められていることも懸念事項で、それが申請手続きの遅れにつながっているとの声があると付け加えた。
商務省は、許可申請を45営業日で処理するとしているが、国家安全保障に関する申請にはもっと長い時間が必要になると説明する。具体的な追加審査期間は明らかにしていない。
<建前と本音>
政策調査グループ、トリビウム・チャイナの重要鉱物・サプライチェーン調査責任者を務めるコリー・コームズ氏は、許可の遅れが事務手続きのせいなのか、意図的に「武器化」しているのか判然としないと述べた。
コームズ氏は「米国のエンドユーザーの申請が軍事用でなければ他の国からの申請と同条件で審査されると期待している。問題は、トランプ政権が中国政府はジュネーブでの取り決めに違反していないと信じるほど迅速かどうかにある」と指摘する。
米国の産業界からは、事務手続きの滞りは「戦略的な口実」だとの見方も出ている。
ある米レアアース業界関係者は「中国はやろうと思えば人員を可及的速やかに増強できる。あくまでその気持ちがあればだが」と含みを持たせる言い方をした。
中国側は表向き、レアアースの輸出管理は全ての国に適用しており、米国を狙い撃ちにしていないと強調している。
しかし、関係者によると、ジュネーブにおける協議で中国は非公式にはレアアース輸出管理を米国への非関税の対抗措置だと認めた。中国の研究者も、レアアース輸出管理は米国の対中半導体輸出規制への報復だと公然と口にしている。
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