互いの関税を引き下げるという5月の合意を巡り、米中間の緊張が再び高まっている。主な争点はレアアース(希土類)や半導体とみられ、中国側が優位に立っているようだ。

  トランプ米大統領は5月30日、中国がジュネーブで締結した合意に違反していると非難し、問題解決のため、中国の習近平国家主席との電話会談を求めた。中国商務省も2日、米国が合意内容に違反したと非難し、自国の利益を守る措置を講じるとの報道官談話を発表した。

トランプ米大統領は中国の習近平国家主席との電話会談を求めている

Source: Bloomberg

  米国当局者は、中国が最先端の電子機器に必要なレアアース輸出を加速していないと不満を述べている。米国側は、関税の引き下げは、中国が一部のレアアースの輸出規制解除に合意することが条件としている。

  フォルケンダー米財務副長官は2日、ブルームバーグテレビジョンとの短いインタビューで、「両国首脳間の協議が必要になるだろう」と述べた。  同氏は、米中両国が引き続き協議を続けているとした上で、トランプ政権の当局者は中国側に対し「ジュネーブで約束した義務を果たし、輸出を解除するよう」促していると明かした。

互いに制限  

  中国が米国の国家安全保障に不可欠なレアアースの輸出制限を継続する一方、米国は自国の技術制限を強化している。この3週間で、米国は中国へのジェットエンジン部品輸出を禁止し、北京の半導体チップの設計ソフトウエアへのアクセスを制限し、華為技術(ファーウェイ)の半導体チップに対する新たな制限措置も課した。こうした措置は中国側の怒りを招いている。

  対立は、米国と中国のぜい弱な貿易停戦を、危険にさらしている。理論上は、90日間の交渉期間終了後、米中は互いに再び100%を超える関税に戻る可能性がある。

  長年、米国は半導体サプライチェーン(供給網)の支配権を握ることで、技術の競争で中国に対し優位にあると考えられてきた。習氏は、重要な鉱物の輸出規制を強化することで、米国に制限緩和を迫る姿勢だ。         

  トランプ政権は、半導体輸出制限の緩和を示す素振りはほとんど示していないが、中国に代わるレアアース供給源を置き換えるには数年かかり、主要産業に打撃を与える可能性があると認識している。中国は、戦闘機や原子炉制御棒、その他の重要技術に不可欠な金属の約70%を生産している。

  コンサルティング会社トリビウム・チャイナのサプライチェーン専門アナリスト、コリー・コムズ氏は、この対立では中国が優位に立っていると指摘する。同氏によると、米国が中国以外からレアアースを調達するのに10年かかる一方、中国企業は米国の半導体チップのほとんどで、代替可能な技術を開発しているという。

  コムズ氏は「中国の優位性は、現在の段階では米国の優位性よりも持続可能だ」と指摘した。

サプライチェーン戦争

  レアアース輸出業者は、中国商務省に許可を申請する必要がある。手続きは不透明で検証が難しく、当局が外部からの監視をほとんど受けずに、許可の付与や停止を自由に決定できる。

  この手続きに伴う書類作成が滞っており、このところようやく緩和の兆しが見え始めたという。

  米企業の一部は、不十分な金属の供給に悩まされている。フォード・モーターは5月、レアアースの不足を受け、シカゴの工場を一時閉鎖した。コムズ氏が最近出席した長年の米防衛航空会議では、レアアースが主要な議題となり、出席者はこの脅威を「非常に深刻に受け止めている」と述べたという。

  中国のレアアース規制で影響を受けるのが、米国の輸入業者だけではないという点も、習氏の立場を有利にしている。インド最大の電動スクーターメーカー、バジャージ・オートは先週、中国が輸出を再開しない場合、同国の車両生産が7月にも打撃を受けると警告した。

  中国による全ての国に対する圧力は、トランプ氏にとってもう一つのリスクを浮き彫りにしている。バッテリーや半導体など米国の戦略的産業は、韓国と日本から部品の輸入に依存している。中国がこうした米同盟国へのレアアース輸出を遮断した場合、米企業はさらに深刻な打撃を受けることになる。

余力

  米国が中国に追随できるかは、どれだけ投資に踏み込むかにもかかっている。トランプ氏は、すでに海外資本を活用している。5月の中東訪問の際には、米国唯一のレアアース生産企業MPマテリアルズが、サウジアラビアのトップ鉱業会社とサプライチェーンの構築に関する契約を締結した。

  米国は、中国以外で最大の分離型レアアース生産者であるオーストラリアのライナス・レアアースとの協力も強化する可能性がある。ただ、同社は生産物の一部を精製のためアジア諸国に輸出している。ブラジル、南アフリカ、日本、ベトナムでも生産能力は拡大しているが、米企業にとって即効性のある解決策とはならない。

Scandium

レアアースのスカンジウム

Source: iStockphoto/Getty Images

  一方の中国は、その影響力をまだ十分に活用していない。これまでの制限は、主に防衛用途に使われる中・重希土類を対象としている。ネオジムやプラセオジムといった軽希土類も対象になれば、消費財に広く使用されているため、米経済にさらに大きな打撃を与えかねない。

  アジア・ソサエティ・ポリシー・インスティテュート中国分析センターの中国政治研究員、ニール・トーマス氏は、ぜい弱な産業からの反発を招くリスクがあるため、今のところ習氏が極端な選択肢を取る可能性は低いとみている。ただ、同氏は「米中間の緊張が再び悪化した場合、中国は米国の防衛サプライチェーンに、真の打撃を与える可能性もある」と述べた。

原題:China’s Grip on Rare Earths Gives Xi Leverage in US Trade Duel(抜粋)

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