コラム:米国も日本に追随するか、国債発行の計画見直し

 5月28日、重債務を抱える先進諸国と、それに懸念を募らせる投資家との「にらめっこ」で、最初にまばたきしたのは日本だ。米議会前で2024年10月撮影(2025年 ロイター/Jose Luis Gonzalez)

[オーランド(米フロリダ州) 28日 ロイター] – 重債務を抱える先進諸国と、それに懸念を募らせる投資家との「にらめっこ」で、最初にまばたきしたのは日本だ。日本政府は超長期国債の需要が急減する中、国債発行計画の年限構成を再検討する見通しとなった。ほどなく米国も追随するかもしれない。

日本は主要7カ国(G7)の中で、国債の残存期間が9年前後と最も長い。数十年に及ぶ超低金利政策の下、政府は全ての年限にわたって非常に低い金利で巨額の国債を発行できていた。しかしここ数週間の国債入札では長期債の需要が減り、期間30年および40年国債の利回りが記録的な水準に急上昇。「ワンツーパンチ」を受けた当局は、超長期国債の発行を減らして年限のより短い国債の比重を増やすことを検討せざるを得なくなった。

債務に関して日本が味わっている重圧は、米国にも共通するものだ。ムーディーズ・レーティングスが今月、米国債の格付けを引き下げたことで米国は「トリプルA」格付けを失った。そして超党派の議会予算局(CBO)は、連邦政府債務が昨年の対国内総生産(GDP)比97.8%から、今後10年間で過去最高の118.5%に増えると予想している。利息の支払いは差し引きベースでGDPの3.1%から4.1%に上昇する見通しだ。

その上、CBOによるとトランプ米大統領の減税案によって連邦政府債務は今後10年間で3兆8000億ドル上乗せされる。

これら全てを考えれば、投資家が不安になるのも無理はない。米国債入札での外国人需要は堅調を保っているが、平均すれば需要は過去数年間で最も低くなっている。米財務省も日本に倣い、国債の年限構成を短期化せざるを得なくなるかもしれない。

<「大いなる安定」の終えん>

米財務省によると、米国債の「残存期間加重平均(WAM)」は71.7カ月と、G7諸国の中で最も短い。これは、1)財政赤字の拡大、2)米連邦準備理事会(FRB)による長期国債の保有、3)利回り曲線(イールドカーブ)の短い部分における流動性および需要の高さ──が相まった結果だ。

しかし、過去に米国債のWAMが今より長かったことはほとんどない。2023年には一時、過去最長の75カ月に達したし、新型コロナ禍後の期間には高止まりしていたが、それ以外の期間に70カ月を超えたことはまれだ。1980年からの平均を見ると、61.3カ月となっている。

この半世紀における米国債のWAMの変遷は、主に金利環境や経済・金融危機、投資家の好みの変化によるものだった。現在の市場、経済、地政学的トレンドの組み合わせは独特だが、投資家の長期債需要を高めるものではない。

「大いなる安定」期と呼ばれた新型コロナ禍前の数十年間はおおむね、金利の低下、イールドカーブの平たん化、低インフレに特徴付けられていた。その時代は終わった。もしくは少なくとも、終わったという共通認識が投資家と政策当局者の間に広がっている。

この認識の背景にあるのは、今後数十年間のインフレ圧力が「大いなる安定」期に比べて高まり、金利が長期間高止まりするとの予想だ。特に、関税引き上げと保護主義の高まりを考えると、そうした見通しになる。

同時に、米国が孤立主義に向かっており、政治が不安定さを増すように見えることから、グローバルな投資家は、多額のドル建て資産への投資を削減する方向に傾いている。そうなると米財務省は、許容できる金利水準での長期国債発行が難しくなりかねない。

<タームプレミアム>

もちろん、これまで書いたことはおおまかな想定であり、変化している部分も多い。景気がひどく減速したり景気後退に陥ったりすれば、イールドカーブは平たん化して長期国債の発行が増えるかもしれない。

しかし現時点でイールドカーブは急勾配化(スティープ化)しており、米国債の「タームプレミアム」は10年ぶりの高水準に達してなお上昇を続けている。タームプレミアムとは、投資家が財務省に長期間資金を貸し出すリスクの対価として要求するプレミアムだ。

このことは、2つの問題を生む。1つ目として、財務省は長めの国債を発行したいかもしれないが、それは利回りが許容できないほど高くないことが条件だ、ということだ。

第2に、イールドカーブがスティープ化していれば政府は短期資金をより安く借りられるかもしれないが、「ロールオーバーリスク」が高まる。つまり、政府は突然の金利変動によって打撃を被りやすくなる。

米国債発行残高に占める米財務省短期証券(Tビル)の割合は22%と、財務省借り入れ諮問委員会(TBAC)が推奨する15―20%を既に上回っているが、近い将来に低下するとは予想しづらい。モルガン・スタンレーのアナリストチームは今月、Tビルの割合が2027年までに30%に達するという「思考実験」を示した。

米国債の供給は、究極的には投資家の需要によってほぼ決まる。プライマリーディーラーが短期国債の方が望ましいと示唆すれば、WAMは短期化するだろう。国債発行計画を再考する先進国は、日本だけではなくなるだろう。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

Jamie McGeever has been a financial journalist since 1998, reporting from Brazil, Spain, New York, London, and now back in the U.S. again. Focus on economics, central banks, policymakers, and global markets – especially FX and fixed income. Follow me on Twitter: @ReutersJamie

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