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2024.09.09


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チリ中銀の景気減速による政策迷走と銅価格低迷でペソ相場は?
~インフレ加速にも拘らず中銀は利下げ、銅価格低迷でペソ安懸念のなかで迷走状態が続くか~



西濵 徹



要旨

南米チリ経済は銅の国際価格の影響を受けやすい特徴がある。中国の景気減速懸念が銅価格の重石となる展開が続くなか、ここ数年は物価高と金利高の共存も景気の足かせとなってきた。一昨年後半からインフレが頭打ちに転じ、中南米での利下げドミノの動きも追い風に中銀は昨年7月から利下げに転じた。しかし、年明け以降のインフレは底打ちしており、通貨ペソ安懸念も高まり、中銀は7月に利下げ局面を休止した。他方、4-6月の実質GDP成長率はマイナス成長に転じるなど躓きが確認されたため、中銀は3日の定例会合で2会合ぶりの利下げに踏み切り、先行きの一段の緩和に含みをもたせる。ただし、インフレ加速にも拘らず利下げに動くなど金融政策の迷走が懸念され、米ドル安にも拘らず銅価格の低迷も重なりペソ安圧力が強まっている。政治、経済の両面で停滞が続くなかでペソ相場も見通しが立ちにくい展開が続こう。


南米チリ経済を巡っては、輸出はGDPの4分の1程度に留まるなど新興国のなかでは外需依存度は相対的に高くはないが、財輸出の半分近くを銅が占めるなど、銅の国際価格の動向が景気を大きく左右する傾向がある。このところの同国経済においては、中国の景気減速懸念が銅価格の重石となる事態に直面してきた。さらに、ここ数年はコロナ禍一巡による経済活動の正常化に加え、商品高や米ドル高を受けた通貨ペソ安による輸入インフレも重なりインフレが大きく上振れしたため、中銀は物価と為替の安定を目的に累計1075bpもの利上げを実施した。しかし、その後もインフレが高止まりするなど物価高と金利高の共存状態が長期化したため、銅鉱山においてストライキが頻発するなど経済活動の足かせとなる状況に見舞われてきた。なお、商品高の動きが一巡したことを受けてインフレ率は一昨年後半以降に頭打ちに転じる動きをみせたほか、昨年以降の中南米諸国ではインフレ鈍化を理由に利下げに動く流れが広がる『利下げドミノ』とも呼べる動きがみられた。こうしたことから、チリにおいても昨年7月に中銀が一転して利下げに舵を切るとともに、その後も景気下支えを目的に断続的な利下げに動く姿勢をみせてきた。なお、年明け以降のインフレは前年に頭打ちの動きを強めた反動で底打ちに転じるとともに、銅価格の低迷を受けたペソ安による輸入インフレ懸念も高まったことも重なり、インフレが中銀目標(3±1%)の上限を上回る伸びとなっている。よって、中銀は景気に不透明要因が山積しているにも拘らず、7月の定例会合において9会合ぶりに政策金利を据え置くなど慎重姿勢に転じる動きをみせた(注1)。昨年の経済成長率は+0.2%と低水準に留まるなど勢いの乏しい展開が続く一方、年明け直後には底入れが確認されたものの、4-6月の実質GDP成長率は前期比年率▲2.45%と2四半期ぶりのマイナス成長に転じているほか、中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率も+1.63%と前期(同+2.45%)から伸びが鈍化するなど頭打ちが確認されている。よって、中銀は3日に開催した定例会合において政策金利を2会合ぶりに25bp引き下げて5.50%とするなど再利下げに舵を切っている。会合後に公表した声明文では、先行きの政策運営を巡って「中立金利への引き下げペースは6月会合時点の想定より前倒しされるであろう」との見方を示すとともに、向こう2年以内にインフレ率を目標(3%)に収束させる方針を再確認する考えを示している。ただし、上述のように足下のインフレ率は前年に頭打ちの動きを強めた反動で加速している上、先行きについてはラニーニャ現象など異常気象による食料インフレの発生が懸念されるなど、生活必需品を中心に物価上昇圧力が高まる兆しもうかがえる。そして、このところの国際金融市場においては米FRB(連邦準備制度理事会)の利下げ観測を反映して米ドル安の動きが強まっているにも拘らず、ペソの対ドル相場については銅の国際価格の低迷が重石となっているほか、景気に対する不透明感も足かせとなっている可能性が考えられる。さらに、上述のようにインフレが加速に転じているにも拘らず、中銀が利下げを決定するとともに一段の金融緩和に舵を切る可能性を示唆するなど『政策の迷走』が懸念される動きもペソ安の動きを加速させる可能性があり、そのことがインフレ圧力を増幅させることが懸念される。チリにおいては、2年前に発足した急進左派のボリッチ政権は1期目の任期の折り返しを迎えるなかで事実上の『死に体』状態となるなど政治の停滞が懸念される状況が続いているが、経済についても同様に明るい材料が見出しにくいなかで通貨ペソを取り巻く環境は厳しさを増すことに留意する必要がある。

図表図表
図表図表
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以 上



西濵 徹

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