米銀大手シティグループは、同社のアジア部門が関わった不正な取引慣行を巡る数年間の係争の末、不当解雇の訴訟で和解し、東京在勤のトレーダー、ケン・オオタカ(58)氏の解雇を撤回した。

  ブルームバーグが入手した和解文書によると、オオタカ氏の解雇は4月に撤回された。東京でシティのトレーディングの責任者を務めた同氏は、自身が「スケープゴートを探すための世界的な魔女狩り」と形容した調査について明らかにするため、和解時の機密保持条項は拒否した。この調査はアジア域内での複数の解雇につながった。

  同氏は2018年にクリフォードチャンス法律事務所が開始した内部調査には「不備があり」、その結果は「事前に決められていた」ように感じられ、問題のある取引の責任をアジアの株式トレーダーらになすりつけるためだったと述べた。

  オオタカ氏は「懲戒事由が存在しないのに、被告から一方的に解雇されたことによって大きな精神的苦痛を受けた」と、不当解雇訴訟に関する裁判所の書類の中で主張している。

  シティは個人の行動が同社の高い基準を満たしていなかった場合の手続きに従って、適切な措置を講じていたと主張。

  「すべてのシティの調査は、必要に応じて独立した専門家からの支援を受けながら事実と証拠に基づいて行われている」と、在香港の広報担当者は電子メールで述べた。「この過去の問題に対処するため、コンプライアンスと内部統制を強化するための重大な是正措置を実施しており、引き続き市場のベストプラクティスを反映し、規制当局の期待に応えるべく継続的にプロセスを改善している」としている。

  香港のクリフォードチャンスにも繰り返し電子メールと電話でコメントを求めたものの、回答は得られていない。

不正行為

  オオタカ氏の和解は、シティのアジア市場部門のトレーダーが、10年以上にわたり銀行の自社株式ポジションを顧客の取引意向として誤って表示していたことを香港の証券監督当局が摘発した事件に関連したもの。特定の株式の売買に対し、実際には存在しないのにもかかわらず実在する顧客の需要があるかのように示していた。

  証券先物委員会は、この「広範な不正行為」は08年までさかのぼると結論付けた。当局はシティに内部管理と管理監督の不備を指摘し、4500万ドル(現在のレートで約65億円)の罰金を科した。

  シティは同委員会による調査の開始後に自社でも調査を開始。それはオオタカ氏が18年にシティに入社した数カ月後のことだった。調査の結果、19年には香港とシンガポールで12人のトレーダーが解雇され、その後20年末にはオオタカ氏も解雇された。オオタカ氏によると、東京では6人のトレーダーが、自主的に退職するか、あるいは解雇を避けるために退職を促された。また、4人が懲戒処分を受けボーナスが削減されたという。

 

 

  解雇を巡ってシティを提訴したのはオオタカ氏だけではない。ロンドンを拠点とするアジア太平洋地域の元トレーダー、イアン・ウィアー氏は、10月にロンドンの裁判所で和解に合意。雇用審判所はそれより前にウィアー氏が銀行から不当かつ違法に解雇されたと判断してた。シティはウィアー氏の解雇が不当だったことを否定していた。

  元株式トレーダーのシンディ・ルイ氏は12月、香港の労働審判所で銀行に対する不当解雇訴訟で勝訴した。裁判官は、同氏に対して積み立てた未払い年金と解雇予告手当の支払いを認めたが、失われた雇用機会に対する補償の請求は却下した。

  香港の規制当局の調査中、オオタカ氏は同氏の日本のチームに対し、国内の金融関連規制と社内規定に完全に順守しており、調査は東京には及ばないと説明していたという。

  また、調査の最中にオオタカ氏はシティグループ証券の執行ガバナンス委員会の委員長に任命されていた。顧客と従業員をよりしっかりと保護するために複数の運用プロトコルを改訂するなど株式の執行ルールを強化していたと同氏は話す。しかし、香港支店は一部の措置が過度に制限的で、成長を阻害するものだとして拒んでいたと述べた。

  同行は、5年以上前に実施されたとされる香港での措置についてのコメントを控えた。

解雇

  オオタカ氏は2銘柄の株式取引において買い手が実在すると顧客に誤認させた疑いで解雇された。シティは、オオタカ氏が実際には顧客の注文は存在しなかったのにもかかわらず、「実在する顧客からの受注あり(Order in Hand Natural)」と表示された87件の意向表明(IOI)をまとめて投稿したと主張。こういったことが和解成立前に裁判所に提出された解雇通知書に記載されていた。意向表明は特定の株式について買い手と売り手が出す取引の意向を示すものだ。

  オオタカ氏は取材で、IOIに関するトレーニングを受けていない述べ、そういった投稿やアップロードした事実についても否定し、処理のプロセスが指導なしでは複雑すぎると述べた。不当解雇訴訟の裁判官は、オオタカ氏が注文を実際の需要と意図的に誤表示したとは考えにくいと判断した。

  裁判所はオオタカ氏の雇用契約は有効で、シティには解雇の正当な理由がないとの判決を下した。また、同行に対し判決が出される時点までにオオタカ氏が得ていたはずの給与と利息を支払うよう命じた。問題となったIOIの投稿は規則には違反しておらず、解雇は権利を濫用したものだと結論付けた。

  ブルームバーグ・ニュースが入手した11月1日付の内部文書によると、シティは控訴を申し立てており、地裁の判決が支持された場合にはオオタカ氏を再度解雇する可能性があると警告していた。

和解の成立

  オオタカ氏の弁護士が裁判所向けに要約した書面によると、控訴審が長引く中、高裁判事は11月に両者に和解交渉を試みるよう指示し、期限を12月24日に設定した。シティ側は合意に機密保持条項を盛り込むことを求めたがオオタカ氏が拒んだこともあり、和解交渉は4月まで続いた。一般的に和解合意時には機密保持条項が付帯されるが、最終的には同条項は盛り込まれなかった。

  オオタカ氏側が裁判所に提出した書面によると、同氏は公に謝罪することを条件に和解金減額の受け入れを申し出た。しかし、シティはこれを拒否した。オオタカ氏は和解金の金額を開示しないことに合意した。

  同氏は金融業界からは身を引き、和解金を基に優秀で恵まれない子供たちのための奨学金基金を設立したい考えだと語った。

原題:Citi Reverses Course on Firing of Japan Trader Five Years On(抜粋)

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