コラム:米貿易赤字解消に必要な歴史的ドル安、実現可能性は不透明

 米国が貿易赤字を大幅に削減、あるいは解消するためにはドルが大幅に下落する必要がある。写真は、米ドル紙幣と下降する株価グラフ。4月25日、ボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボ市で撮影(2025年 ロイター/Dado Ruvic)

[オーランド(米フロリダ州)27日 ロイター] – 米国が貿易赤字を大幅に削減、あるいは解消するためにはドルが大幅に下落する必要がある。だが歴史が示すように、大幅なドル安はまれであり、貿易に予測不可能な結果をもたらす中で、実際どれだけ下がるかは分からない。

米貿易赤字の削減はトランプ大統領の経済アジェンダの重要な目標だ。なぜならば、貿易赤字は何十年にもわたって他国が米国から毎年数千億ドルもの「ぼったくり」をしてきたことを反映しているとトランプ氏は考えているからだ。

大統領経済諮問委員会(CEA)のスティーブン・ミラン委員長は昨年11月、「世界貿易システムの再構築に向けたユーザーズガイド」と題する論文を発表し、貿易の観点からドルは「過大に評価され続けている」と主張した。「包括的な関税と強いドル政策からの転換」は世界の貿易と金融システムを抜本的に再構築する可能性がある。

トランプ政権の目標が外国為替相場でのドル安だとすれば、それは軌道に乗っている。米政府の財政の行方と政策の信頼性に対する懸念の高まりに加えて「米国例外主義」と「安全な避難先」としての米国債の地位が終止符を打ったことを背景に、ドルは外国為替相場で今年に入ってから10%弱も下落している。

しかし、トランプ氏は1期目にドルが15%下落しても貿易赤字には何の影響もなく、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が起こるまで米国内総生産(GDP)成長率が2.5―3.0%の間で推移していたことを忘れてはならない。したがって米財政赤字を縮小させるには、もっと大きな動きが必要になる。

<歴史の重み>

貿易赤字の削減は困難であり、景気後退なしに赤字を解消できれば歴史的な偉業となる。米国は過去半世紀にわたって恒常的に赤字を垂れ流してきた。飽くなき消費者需要が世界中からモノ(商品)を吸い上げ、外国からの米国資産に対する旺盛な購買意欲が資本を国内に呼び込み続けてきたからだ。

唯一の例外は1980年第3・四半期で、米国はGDP比で0.2%というわずかな貿易黒字を計上した。

だが、この時期は最終的に景気後退に至った米国の経済活動の急減速と重なるか、その結果であった。経済成長が収縮するのに伴い、輸入需要が低迷し、貿易不均衡は縮小した。

ドルは、そうした流れに重要な役割を果たした要因の一つに過ぎない。1987年の貿易赤字は、当時としては過去最低となるGDP比3.1%にとどまった。これは85年から87年にかけてドルが約50%下落し、過去最大の下落幅となったことが主因だ。

この間のドル下落は、85年9月のプラザ合意によって加速された。80年代前半にドルが放物線を描くように上昇したことを受け、世界の経済大国が協調してドル安に取り組んだのがこの取り決めだ。

だからといって、ドルの大幅下落が必ずしも米貿易赤字縮小と一致するわけではない。

ドルの下落が2番目に大きかったのは、リーマン・ショック前の2002年から08年半ばにかけての約40%下落だった。しかしながら、米貿易赤字はそのうちの大部分の期間を通じて拡大し、05年にはGDP比で6%と過去最高を記録した。09年までに3%ポイント超縮小したが、これは為替レートよりも大不況時の輸入急減が要因だった。

過去50年間で、20%を超えるドル下落があったのは1977―78年と90年代早期の2回だけで、他には15―20%の下落が数回あっただけだ。いずれも米国の貿易収支に明確な影響は与えなかった。

<貿易赤字の「消滅」は>

いくつかの広範な指標から見て、ドルが歴史的な高水準にあるというトランプ政権の認識は正しい。トランプ氏とベセント財務長官が世界貿易のバランス再構築を意図していると考えると、ドルへの圧力がすぐにも解消されることはなさそうだ。

しかし、2024年にGDP比で3.1%の9180億ドルに達した貿易赤字を削減するには、ドルはどの程度下落しなければならないのだろうか。

ヘッジファンドのマネジャー、アンドレアス・ステノラーセン氏は、今後2年間にドルが20―25%下落すれば貿易赤字が「消滅」すると見ており、ドイツ銀行のピーター・フーパー氏はドルが20―30%下落すれば「最終的に」貿易赤字をGDPの約3%に縮小させることができると考えている。

フーパー氏は先週、「2010年以降、幅広い通貨に対して実質(物価調整後)ベースでドルが約40%上昇したのを著しく反転させれば、現在の赤字をゼロバランスに戻すのに十分だということだ」と記した。

歴史を振り返ると、深刻な景気減速がなければ実現は難しいかもしれない。しかし、トランプ政権はそのリスクを受け入れる用意があるようだ。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

Jamie McGeever has been a financial journalist since 1998, reporting from Brazil, Spain, New York, London, and now back in the U.S. again. Focus on economics, central banks, policymakers, and global markets – especially FX and fixed income. Follow me on Twitter: @ReutersJamie

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