5月27日、トランプ大統領(写真)は、自身の関税政策はTシャツやスニーカーでなく、より洗練された製品の米国生産を促進することが目的と表明した。メリーランド州のアンドリュース基地で25日撮影(2025年 ロイター/Nathan Howard)
[香港 27日 ロイター BREAKINGVIEWS] – トランプ大統領は、自身の関税政策はTシャツやスニーカーでなく、より洗練された製品の米国生産を促進することが目的と表明した。電子機器のサプライチェーン(供給網)も標的となるなか、実際にスマートフォン(スマホ)やPC(パソコン)といった消費者向けデバイス生産で果実が得られるかは疑問だ。
トランプ政権は、半導体について連邦通商法232条の調査に乗り出している。調査は半導体を使用する製品も対象としており、スマホなどのデバイスも入る。調査の目的は、海外サプライヤーへの依存など、輸入品が国家安全保障に与える悪影響を評価することだ。その観点からすると、最終製品を対象に含めることは一定の意味がある。昨年の米国の半導体輸入額は820億ドル、コンピューターの輸入額は1000億ドルだった。S&Pによると、現在ノートPCとタブレットの輸入の約80%が中国からだ。
しかし、汎用デバイスを製造する企業の最終利益を考えると、トランプ氏がその工場をTシャツや靴を作る工場よりも国内に置くことを望む理由に疑問符が付く。たとえば世界最大のノートPCメーカーのレノボ(0992.HK), opens new tab。同社が22日発表した通期業績は純利益が14億ドルで最終利益率はわずか2%だった。これは世界最大のブランドスポーツシューズメーカー、裕元(0551.HK), opens new tabの4.8%を下回る。汎用デバイスの生産ラインを米国内に置くことは、経済的観点でいうと、電子機器のバリューチェーンで米国にすでにある上流部門を育成することに比べて、最終的に価値が低い。ビジブルアルファによると、マイクロソフト(MSFT.O), opens new tabやグーグルの親会社アルファベット(GOOGL.O), opens new tabの昨年の利益は売上高の約3分の1、アップル(AAPL.O), opens new tabは25%だった。これに対し、アップルの「iPhone」や「AirPods」を受託生産する中国のゴアテック(歌爾)(002241.SZ), opens new tabや立訊精密工業(002475.SZ), opens new tabは5%未満の純利益率でやりくりしている。
確かに、サプライチェーンを米国に持ち込めば、製造業の雇用が拡大するだろう。レノボは24年時点で米国で働く社員が全体(6万9500人)の15%にとどまり、60%は中国だった。しかし米国での生産は、すでに低い純利益をさらに減らすか、価格を押し上げるだろう。UBSのアナリストは、ノートPCの生産を米国に移すと、労働コストが現在の約5倍に跳ね上がる可能性があると指摘。自動化がさらに難しいスマホの生産では、さらに高くなる可能性がある。
トランプ氏は、デバイスをスニーカーと一緒に分類した方が得策だろう。
Chart shows Lenovo reported a net margin of 2% for the financial year 2024, similar to other manufacturers but lower than Apple, Alphabet and Microsoft.
●背景となるニュース
*トランプ氏「Tシャツではなく戦車つくりたい」、関税の目的説明 もっと見る *中国レノボ、1─3月は64%減益 市場予想下回る もっと見る (筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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