アメリカのトランプ政権が輸入される自動車に25%の追加関税を発動してから1か月あまり。日本の製造業の屋台骨とも言える自動車産業に強烈な逆風となることが懸念されています。
アメリカを重要市場とする自動車メーカー各社の今年度の業績見通しにもその影響が色濃く反映されました。
この逆風に各社はどう向き合うのでしょうか。
(自動車取材班)
トランプ関税が逆風、業績見通しは「未定」や「大幅減益」
自動車メーカー各社が公表した今年度1年間の業績見通しは、アメリカのトランプ政権の関税政策が波乱要因となり、厳しい見通しが相次ぎました。
日産自動車とマツダ、SUBARUの3社は、関税措置の影響の合理的な算定が難しいとして、業績見通しを「未定」としました。(日産は売り上げのみ見通しを開示)
また、関税措置の影響も踏まえて業績見通しを開示した3社は減益予想となりました。
最終的な利益の見通しは関税措置に加え、為替が円高方向に変動することなども重なり、▼トヨタ自動車が3兆1000億円で34%余り、▼ホンダが2500億円で70%余りと、いずれも大幅な減益を見込んでいます。
このうち、トヨタは関税措置の影響を4月と5月の2か月に限って織り込んでいるため、25%の追加関税が1年間続いた場合には、業績のさらなる下押し要因となるとみられています。
関税影響 年間なら6社で数兆円規模
関税の支払いや需要の落ち込みなどを踏まえて、各社が公表した関税措置の影響額の見通しは巨額にのぼります。(関税影響の対策を取らない場合)
営業利益への年間のマイナス影響を示したメーカーでは、▼ホンダが6500億円、▼日産が4500億円、▼SUBARUが25億ドル(日本円でおよそ3600億円)、▼三菱自動車工業が400億円となっています。
また、関税政策の動向を見極めようと期間を限って影響額を示したメーカーでも▼トヨタが1800億円(4月と5月の2か月のみ)▼マツダが90億円から100億円(4月のみ)となっています。
決算会見での各社のトップの発言からは対応の難しさがかいま見えました。
トヨタ 佐藤恒治社長
「関税の詳細はまだまだ流動的なので、先を見通すのは現段階では難しい。いま1番大事だと思っていることは、とにかく軸をぶらさずに、じたばたせずに、しっかりと地に足をつけてやれることをやっていくことだ」
SUBARU 大崎篤社長
「2025年度は私どもが主戦場とするアメリカにおける通商政策の影響などで不透明。本当に厳しい状況が想定される」
三菱自動車工業 加藤隆雄社長
「円高基調への転換に加え、アメリカの関税政策で世界経済の混乱が始まっている。経営環境は特に自動車業界にとって逆風が強く、今後も変化が大きくなると思われるが、業績の維持に努めていきたい」
トランプ関税にどう向き合うか 各社は?
今の関税措置がそのまま続くのか、それとも日米交渉の結果、引き下げや撤廃につながるのか。
各社とも不確実性と向き合いながら対策の検討を迫られています。
もともと、自動車メーカーはグローバルで生産の効率化を進めるため、できるだけ消費者の近くで生産してきました。
関税の影響を避けるために一部車種をアメリカに生産移管するメーカーや現地工場での増産を検討するメーカーもあります。
しかし、ある自動車メーカーの幹部は「アメリカでは人件費の高さに加えて、従業員を集めることにも苦労している。仮に投資をして工場を作っても人がいないので作れないということになりかねない」と打ち明けます。
大がかりな生産能力の増強や移管となれば、部品の調達なども課題となり、サプライヤーも含めた調整が必要です。
こうした中で、各社とも日米交渉も含めて関税措置の動向をにらみながら対応を検討する構えです。
ホンダ 三部敏宏社長
「3月まではカナダやメキシコから輸出を促進して、アメリカの在庫を積み上げてきた。関税措置が長引く場合にはアメリカ国内で勤務のシフトを増やすなど、生産能力を増やすことを検討したい。その先に設備投資を考えるが、雇用の確保、サプライチェーンへの影響も大きいので動向をみながら慎重に判断していきたい」
SUBARU 江森朋晃専務
「サプライチェーンをどう維持していくか、日本のものづくりをどう守っていくかということを両立させながら、アメリカの生産の拡張も考えていかないといけない。そういう意味では非常に難しい解だ。現状を考えると、アメリカでの生産を拡大しないという手はないだろうし、当然、生産拡大を視野に入れながら考えていかなければならない」
こうした中、トヨタとマツダは今の国内生産の規模を維持すると改めて強調しました。
とくにトヨタはかねてより「国内生産300万台」を掲げ、取引先も含めた製造業の基盤を維持していく姿勢を示してきました。
トヨタ 佐藤恒治社長
「国内生産が持っている意味を忘れてはいけない。サプライチェーンを守りながら、輸出することによって外貨を稼ぐ。その外貨がエネルギーなど日本国内に必要な取引に応用されていくという観点から考えたときに、国内での生産をしっかり守っていくことはものづくり産業に取り組んでいくうえで非常に重要なポイントだ」
マツダ 毛籠勝弘社長
「自動車産業はすそ野が広く、事業と雇用をしっかり守っていく基本的な方針を取引先にも伝えた。広島・山口で70万台程度のレベルは、一時的に切ることがあっても必ず押し戻していくことをしっかり話し合って、短期中期の必要な施策を取り組んでいきたい」
現地での増産は関税を回避し、利益を確保することには寄与するものの、日本での生産減少につながりかねません。
そして、それは取引先にも影響が及ぶことを意味します。
関税の影響は日本の中小企業、アメリカの自動車大手にも
自動車産業のすそ野は広く、部品や素材メーカーなど多くの企業が直接、間接の取引先となっています。
国内の自動車メーカー10社のサプライチェーンに連なる企業は6万8000社余りにのぼり、その76%を占めるのが売り上げが10億円未満の企業というデータもあります。(帝国データバンク調べ)
関税措置が長引けば、大手の自動車メーカーと比べて資金面などで体力が少ない中小・零細企業には深刻な影響が懸念されます。
そうした意味でも日米の関税交渉で事態の打開につなげられるか、日本政府の交渉力が問われています。
一方、関税の影響は“アメリカの製造業の復権”を掲げるトランプ政権の姿勢とは裏腹にアメリカの自動車メーカーの業績にも影を落としています。
GM=ゼネラル・モーターズやフォードは、人件費の低い隣国のメキシコをアメリカ向けの生産拠点として活用してきました。
GMは関税措置に伴う年間の追加費用が最大で50億ドル(日本円でおよそ7300億円)にのぼるとして業績見通しを大幅に修正。
フォードも業績へのマイナス影響はおよそ25億ドル(日本円でおよそ3600億円)にのぼるという見通しを明らかにしました。
トランプ関税 撤廃は困難? どう対応?
日本の自動車産業はもちろん、アメリカの自動車大手にも逆風となるトランプ関税。
自動車産業に詳しい専門家は、それでも関税の撤廃は容易ではないと見ています。
ナカニシ自動車産業リサーチ 中西孝樹さん
「サプライチェーンを含めてアメリカの製造業の復権を果たすというのがトランプ政権の関税政策の大本にある。25%は確かに高いが、一定の期間は高関税がなかなか避けられそうにないのが現実だ。政府も日米交渉に苦労しているが、そう簡単に自動車産業が『これでよかった』みたいな結末が来るという期待は持たない方がいいと思う」
その上で、中国に次ぐ世界第2位のアメリカ市場の大きさを考えれば、日本メーカーは新たな関税の枠組みでも戦える体制作りが重要だと指摘します。
ナカニシ自動車産業リサーチ 中西孝樹さん
「将来の投資を賄っていける市場は日本ではなくアメリカで、日本の自動車産業はアメリカから離れることはできない。新しい関税の枠組みの中で、最も高品質で魅力的な商品を届けていく仕組みとは何か、サプライチェーンも含めてしっかりと考えて対応していくいいチャンスだ。日本車の勝ち筋をアメリカにもう1回見いだしていくことが一番大切な議論だと思う」
関税で変わる世界 新たな秩序にどう向き合うか
ある自動車メーカーの幹部のことばです。
「トランプ政権のディールの裏で、新たな秩序が生まれつつある。その秩序がどこに落ち着くのかを見極めながら、これまでの自由貿易が当たり前という考え方をリセットしなければならない」
自由貿易体制という秩序のもと、国内外にサプライチェーンを構築し、発展してきた日本の自動車産業。
しかし、トランプ関税や米中の対立などを背景に世界は分断が進み、これまでの秩序は力を失いつつあります。
こうした変化の中、自由貿易のもとで輸出も前提にしてきた日本の生産拠点や雇用も関税政策の動向に応じた「適応」を迫られています。
一方で、日本の自動車産業は、アメリカとの貿易摩擦や1980年代の急激な円高といった試練も乗り越え、国内の雇用も守りながら基幹産業として発展を続けてきました。
トランプ関税という新たな試練に対しても「適応」していけるか、取材を続けて見届けたいと思います。
(5月8日「ニュース7」などで放送)
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