コラム:欧州はウクライナ支援の増額確約を 今が停戦に向けた正念場

 ドナルド・トランプ氏は米大統領選挙戦で、ウクライナ戦の早期終結を公約に掲げた。トランプ氏がこうした政策を打ち出した理由の1つは、ウクライナ防衛費用を米国が負担するのはごめんだという気持ちがあるからだ。写真はドネツク地方で多連装ロケットシステムを発射するウクライナ兵。2022年11月撮影。Radio Free Europe/Radio Liberty/Serhii Nuzhnenko via REUTERS(2024年 ロイター)

[ロンドン 25日 ロイター BREAKINGVIEWS] – ドナルド・トランプ氏は米大統領選挙戦で、ウクライナ戦の早期終結を公約に掲げた。トランプ氏がこうした政策を打ち出した理由の1つは、ウクライナ防衛費用を米国が負担するのはごめんだという気持ちがあるからだ。

例えば、ウクライナ戦開始時に西側諸国が凍結した3000億ドルのロシア外貨準備を活用する形でウクライナの防衛資金を捻出すると欧州諸国が確約すれば、来年大統領に就くトランプ氏はロシアのプーチン大統領との交渉で、西側にとってより有利な条件を引き出そうと粘り腰を見せるだろう。

トランプ氏がプーチン氏に有利な条件で停戦合意を結ぶのではないかと懸念しているのはウクライナだけではなく、欧州連合(EU)や英国、他の欧州諸国も同じだ。ウクライナを脆弱(ぜいじゃく)な状態のままにするような合意は、自分たちの安全保障にとって好ましくないからだ。

したがって欧州には、「妥当な合意」を目指すようにトランプ氏を説得する強い動機がある。欧州が、たとえ戦争が長引いてもウクライナを守る資金を自ら確保するという意志を示せば、著書で「取引の達人」を自称するトランプ氏が欧州寄りに動く可能性を高めることができるかもしれない。

トランプ氏は、一部の欧州諸国が防衛費を十分に負担していないと批判してきた。また、欧州は域内の防衛産業育成で遅れを取っているため、欧州諸国が防衛支出を上積みすればその大部分が米国の防衛企業に向かうという事実も、トランプ氏にとって魅力的に映りそうだ。

トランプ氏がロシアに圧力をかける方法の1つとして、西側諸国はウクライナに財政と軍事の両面で大規模な追加支援を行い、ウクライナが前線を維持できるようにする用意があるとプーチン氏に伝えるという進め方がある。トランプ氏はその上で、ロシアはいずれ兵力と資金を使い果たすから、今のうちに妥当な条件で合意するのがロシアの利益になると主張するだろう。

ウクライナ戦を24時間で終わらせると豪語するトランプ氏の実際のアプローチはおおむねこのようなものだろう。こうした進め方は、トランプ氏が掲げる「力を通じた平和」という外交方針を実証する機会になり、中国など米国のライバル国に対する「われわれの国益に異を唱えるな」という警告にもなるだろう。

<3000億ドルを捻出できるか>

この計画を成功させるには、まず欧州が多額の資金を確保する必要がある。金額としては、ウクライナを3年間支援するには3000億ドル程度あれば十分だろう。

これほどの巨額資金を確保するめどを付ければ、欧州はついに自らの「裏庭」で十分な責任を果たしているとトランプ氏に印象づけるだけでなく、これまでの小出しの資金支援にはあまり注意を払ってこなかったプーチン氏も、ウクライナは消耗戦に耐えられると認識を改めるかもしれない。さらに欧州が3年間の支援を約束すれば、西側の兵器メーカーにとっても設備投資を増やし、生産を拡大するインセンティブになる。

A bar chart showing monthly support to UkraineA bar chart showing monthly support to Ukraine

理屈の上では、欧州諸国はウクライナに直接3000億ドルを提供することも可能だ。この金額を3年間で分割すれば、EUと英国の合計域内総生産(GDP)に対する比率はわずか0.4%で、金額は現在の約2倍に過ぎない。ただ、財政状況は厳しく、自国防衛力強化など他の優先事項もあるため、欧州諸国が簡単に支援増額に合意することはないだろう。

もう1つの選択肢として、2022年に西側諸国が凍結したロシア中央銀行の資産の活用がある。この大部分、約2100億ユーロはEU域内に保管されている。しかし特にドイツ政府や欧州中央銀行(ECB)の多くの当局者は、凍結ロシア資産の没収に消極的な姿勢を取っている。国際法に違反する可能性があり、ユーロ離れを招くのではないかと懸念しているためだ。

没収よりも法的に堅実な代替案として、今年初めに私と共著者が提案した「賠償ローン」という仕組みがある。このスキームでは主要7カ国(G7)がウクライナに3000億ドルを貸し付け、その見返りにウクライナ政府がロシアに対する戦争賠償請求権をG7に譲渡する。ロシア政府は支払いを拒否する可能性が高いが、その場合にG7はウクライナからロシアに対する請求権を継承し、凍結ロシア資産で相殺し、凍結資産を手に入れる。

このスキームを復活させるには、G7が既にウクライナ政府に対して凍結ロシア資産の利子を担保に500億ドル融資することに合意しているという事実を考慮に入れ、調整を行う必要がある。EU加盟国がロシア資産の大半を保管しているため、融資の大部分はEUが担うだろう。しかし米国も連帯を示し、ユーロへの脅威を軽減するために、保管するロシア資産50億ドル程度に相当する額を融資すべきだ。

<プーチン氏を説得できるか>

トランプ氏が大統領に返り咲き、ウクライナが戦場で劣勢に立たされている今が、まさに正念場だ。欧州がウクライナへの資金提供を怠れば、戦略的にも財政的にもさらに不利な立場に追い込まれるだろう。

来年2月に予定されているドイツの総選挙が戦略見直しのチャンスだ。次期首相の有力候補で最大野党キリスト教民主(CDU)のメルツ党首は、現職のショルツ首相よりもウクライナ支援に積極的な立場であるだけに、この総選挙は重要な分岐点になる。

欧州がウクライナへの資金提供を確約した場合、トランプ氏がプーチン氏との間で「妥当な取引」をまとめられるかが次の課題になる。最前線の状況が大きく変化する可能性は低く、交渉では停戦後にウクライナがどのような安全保障上の保証を受けるかが争点になるだろう。

ウクライナは北大西洋条約機構(NATO)への加盟を希望している。一方、ロシアはウクライナがNATOに加盟することも、NATO軍がウクライナ国内に駐留することも容認しない姿勢で、場合によってはウクライナの軍事力の制限を求める可能性があると、ロイターが最近報じた。

この2つの立場の隔たりは大きい。停戦が信頼に足るような安全保障上の保証を伴うものなら、現在ロシアの占領下にない約80%のウクライナ領土は主権を維持できる。この場合、ウクライナは最終的にEUに加盟し、経済再建への道筋をたどることが可能だ。一方、ウクライナが実質的に防衛体制を放棄せざるを得ないような合意になれば、同国は貧困にあえぎ、苦境に陥ってロシアの勢力圏内に留まるだろう。

前者に落ち着けばプーチン氏にとって部分的な敗北、後者ならプーチン氏の勝利とみなされる。欧州がトランプ氏を説得し、粘り強い交渉を行わせるために全力を尽くすべきなのはこのためだ。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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