5月22日、トランプ米大統領の次世代ミサイル防衛構想「ゴールデンドーム」は、数十年前から論争を呼んできた考えを復活させるものであり、実現すれば宇宙空間における規範は覆り、「宇宙大国」間の関係は一変する可能性がある。写真(左)は同構想を説明するトランプ米大統領。ホワイトハウスで20日撮影(2025年 ロイター/Kevin Lamarque)
[ワシントン 22日 ロイター] – トランプ米大統領の次世代ミサイル防衛構想「ゴールデンドーム」は、数十年前から論争を呼んできた考えを復活させるものであり、実現すれば宇宙空間における規範は覆り、「宇宙大国」間の関係は一変する可能性がある。
ゴールデンドームは地球の軌道上に衛星と兵器の巨大ネットワークを構築する構想で、1750億ドル(約25兆円)の費用が見込まれる。この10年間で激化した宇宙空間の軍事化を一層急速に加速させかねないと、宇宙アナリストらは指摘する。
世界トップの宇宙大国である米国、ロシア、中国は1960年代から軍事および諜報機能を軌道上に配置してきたが、そのほとんどは秘密裏に行われたものだ。
バイデン前政権下、米宇宙軍幹部らはロシアと中国からの脅威を理由に、宇宙における攻撃能力強化の必要性を強調するようになった。
トランプ氏は1月にゴールデンドーム計画を発表し、明確な戦略転換を示した。つまり巨額の費用を要する未検証技術を用いた大胆な宇宙進出に軸足を置く戦略であり、米防衛企業は金銭的な恩恵に預かる可能性がある。
構想には、地球から発射された通常弾頭や核弾頭のミサイルを、衛星から発射するミサイルで迎撃する案が含まれる。
米シンクタンク「セキュア・ワールド・ファウンデーション」の宇宙安全保障・安定化ディレクター、ビクトリア・サムソン氏は、宇宙空間でのミサイル使用は「パンドラの箱を開けるようなものだ」と指摘。「それがもたらす長期的な影響について、われわれは真剣に考えてこなかった」と語った。
同氏を含む専門家は、ゴールデンドームに触発されて他の国々も同様のシステムを宇宙に配備したり、ミサイル防衛網を回避できる高度な兵器の開発に走ったりして、宇宙における軍拡競争が激化しかねないと言う。
米国防総省はコメント要請に即座に応じなかった。
ロシアと中国はトランプ氏の発表に異なる反応を示した。中国外務省の報道官は構想に「深刻な懸念」を表明し、米国に開発を断念するよう要請。構想の発表は「強い攻撃的意味合い」を持ち、宇宙の軍事化と軍拡競争のリスクを高めたと主張した。
ロシア大統領府の報道官は、ゴールデンドーム構想の発表により米ロは近い将来、核軍縮に関する協議を迫られる可能性があると述べた。
ゴールデンドーム構想は、冷戦時代にレーガン元米大統領が打ち出した戦略防衛構想(SDI)、通称「スター・ウォーズ計画」を復活させるもので、ロシア、中国に加えて北朝鮮、イランなど米敵対国の通常兵器および核ミサイルの増加に対応するのが主目的だ。
SDIは、地球の低軌道にミサイルと強力なレーザー兵器を配置し、地球上のどこから発射された核弾道ミサイルであっても、発射直後のブースター段階または宇宙空間での高速巡航段階で迎撃する構想だった。
しかし技術的な課題や高コスト、その後無効化されたABM条約(弾道弾迎撃ミサイルの配備を制限する条約)違反への懸念から、実現しなかった。
<防衛企業は準備万端>
ゴールデンドーム構想は、防衛請負企業や成長著しい防衛技術企業から強い支持を得ており、その多くはトランプ氏の宇宙兵器推進を見越して準備を進めてきた。
軍用通信大手L3ハリス・テクノロジーズ(LHX.N), opens new tabのケン・ベディングフィールド最高財務責任者(CFO)は先月、ロイターのインタビューで「この日が来ることは予想していた。準備万端だ」と語り、「L3ハリスはゴールデンドーム機構の基盤を成すセンサーネットワークを早々に構築し始めている」と説明した。トランプ氏の盟友、イーロン・マスク氏のロケット・衛星企業スペースXは、ソフトウエア企業パランティア(PLTR.O), opens new tabおよびドローンメーカーのアンドゥリルと並び、ゴールデンドームの主要部分構築を担う最有力候補に浮上している、とロイターは先月報じた。初期のシステムの多くは、既存の生産ラインから供給される見通しだ。トランプ氏による20日の記者会見に出席した関係者らは、L3ハリス、ロッキード・マーチン(LMT.N), opens new tab、RTX(RTX.N), opens new tab(旧レイセオン・テクノロジーズ)を、契約企業候補に挙げた。
しかしゴールデンドーム構想の財源は依然として不透明だ。与党共和党議員らは、総額1500億ドルの包括的な国防支出関連法案の一環としてゴールデンドームに250億ドルの初期投資を行うことを提案しているが、財源は議会で協議が難航している財政調整法案と結びついている。
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab
WACOCA: People, Life, Style.