5月20日、ウクライナとロシアの戦争を巡り、ウクライナや欧州の同盟諸国は自分たちの方に大義があるのだとトランプ米大統領を説得し続けてきたが、そうした努力が実を結ぶことなく事態は振り出しに戻ってしまった。 写真は2月にクリミアのヤルタで開かれた展覧会に展示された、トランプ米大統領とロシアのプーチン大統領を描いた作品を見る人々(2025年 ロイター/Alexey Pavlishak)
[キーウ/ベルリン/パリ 20日 ロイター] – ウクライナとロシアの戦争を巡り、ウクライナや欧州の同盟諸国は自分たちの方に大義があるのだとトランプ米大統領を説得し続けてきたが、そうした努力が実を結ぶことなく事態は振り出しに戻ってしまった。
トランプ氏は19日に行ったロシアのプーチン大統領との電話会談で、それまで主張してきた無条件の30日間停戦要求を取り下げた。これはウクライナが支持し、ロシアが拒否してきた内容だ。 もっと見る
また24時間以内に戦争を終わらせるという公約を掲げていたトランプ氏は、もはや仲介は自分の仕事ではないとの考えも示唆し、ウクライナと欧州の同盟諸国を不安にさせている。
2月のウクライナのゼレンスキー大統領とトランプ氏の会談が口論に発展する結果となって以来、欧州各国首脳が両者の関係修復に急いで尽力してきた矢先に、ウクライナにとって新たな頭痛の種がもたらされた格好にもなった。
米ロ首脳電話会談の数週間前から、トランプ氏はロシアがウクライナ和平を推進する姿勢を見せなければ、より厳しい制裁を科す方針を示し、ウクライナ側はこれがプーチン氏に過大な停戦条件を引っ込めさせる力になると期待していた。
しかし今や、米国のロシアに対する「ムチ」は消えてしまった。その代わりに戦争終結後に米国との経済協力が用意されるという「アメ」が登場している。
ある欧州の外交官は「トランプ氏は18日の欧州首脳との電話会談では、無条件停戦案と、進展がなければ(新たな)制裁を適用することに同意していた」と明かす。
ところが「トランプ氏はプーチン氏との会談でこの考えを放棄したのは間違いない。彼を一日以上信用するのは不可能で、彼はウクライナに全く関心がないように見受けられる」とこの外交官は説明した。
事情に詳しい関係者の1人は、米ロ会談後にトランプ氏と会話した欧州首脳の反応は「ショック」の一言だったと述べた。
<時間稼ぎ>
米ロ会談後、ウクライナと欧州の同盟諸国は改めて結束し、ロシアへの新たな制裁を発表するとともに、米国へ協力を働きかけ続けると表明。またトランプ氏の気が変わる可能性への望みを捨てていない。
しかしプーチン氏への不信感は根強い。ロシアはこの1年余りで1000キロに及ぶ前線の各方面で占領地域を増やし、どんな合意においても戦場の現実が反映されるべきだと主張している。
ドイツのピストリウス国防相は20日に「プーチン氏はわざと時間稼ぎをしている。残念ながらプーチン氏は和平に全く興味がないと言わざるを得ない」と語った。
英王立国際問題研究所(チャタムハウス)の「ウクライナ ・フォーラム」責任者を務めるオリシア・ルトセビッチ氏も、プーチン氏は和平交渉を急いでいないと認めた上で「ロシアにとって戦場と外交はコインの裏表の関係にある。プーチン氏は外交を先延ばしにして、欧州が組織的に動く機会を与えないことで、戦場における優位を確保している」と指摘した。
こうした中でウクライナとしては、ロシアに敗北しないためには米国の支えは欠かせない。米国は数百億ドルに上る軍事支援を通じてウクライナの戦争遂行に最も大きく貢献している国で、ウクライナはリアルタイムでの作戦行動や敵の標的を定める際に米軍からの情報提供に頼っている。
ただトランプ政権は、バイデン前政権が決めた軍事支援が夏にかけて途絶えた後、引き続き支援をするかどうかまだ態度をはっきりさせていない。
欧州諸国は直接支援と兵器購入の継続を約束しているとはいえ、米国がその兵器の売却を承認しないと話は進まない。さらに防空ミサイルや短距離誘導ミサイルなどの米国製装備は代替が不可能だ。
ロシア経済はエネルギーや銀行の分野に対する西側の制裁を何とかやり過ごしているが、膨大な軍事費の負担でほころびが見え始めているだけに、米国が経済面で圧力を加えれば、ウクライナにとっては追い風になる。
<天国から地獄>
ウクライナと欧州の同盟諸国は、ロシアに圧力をかけてほしいという対トランプ氏の説得が功を奏し始める兆しが見えたと思っていただけに、今回の米ロ会談の結果は受け入れがたいだろう。
トランプ氏は3月から4月にかけて、停戦に後ろ向きなプーチン氏の態度に不満を示し、自分は同氏にもてあそばれているのではないかと疑問を呈しつつ、ロシアへの制裁強化をちらつかせていた。
領土を含む幾つかの重要な問題で米国と欧州の立場には隔たりがあったものの、ウクライナ政府はトランプ氏のこうした発言を好材料だと受け止めた。先月にはウクライナと米国が鉱物資源開発を巡る協定に調印し、最近ではイスタンブールでロシアとウクライナの代表団が約3年ぶりに直接協議をしたことも、停戦への進展期待を高める形になった。
それだけにウクライナと欧州諸国が米ロ会談後に味わった失望感はあまりに明白だ。
別の欧州の外交官は「一歩進んで二歩、あるいは十歩下がった。われわれはトランプ政権にロシアへの圧力をかけてというメッセージを送り続ける」と述べた。
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