コラム:米国債格付け、市場の評価はほぼ投機的 冷静な反応と裏腹

 5月20日、市場がムーディーズによる米国の信用格付け引き下げを冷静に受け止めたことには十分な理由がある。写真は米ドル紙幣。4月撮影(2025年 ロイター/Dado Ruvic)

[ロンドン 20日 ロイター] – 市場がムーディーズによる米国の信用格付け引き下げを冷静に受け止めたことには十分な理由がある。しかし、悪化する米国の財政状況を警戒する投資家にとってはあまり慰めにならないだろう。

S&Pグローバルが米国債の格付けを最上位から引き下げ、投資家に衝撃を与えてから14年、ムーディーズが16日に米国に残されていた最後の「AAA(トリプルA)」格付けを剥奪した。ベセント財務長官はこの決定について、「時代遅れだ」と主張してきた。この点について異論はほとんどないだろう。

さらに、この動きは事前に十分予告されていた。ムーディーズは2023年11月の時点ですでに米国債の格下げの可能性を示唆していた。それ以降、財政を巡る懸念への対応はほとんど変わっていない。実際、今年の主要な政策変更には減税延長計画が含まれており、状況はむしろ悪化している。

加えて、米国の債務不履行(デフォルト)が現実的に起こりそうにない限り、信用格付けのわずかな変動はそれほど重要ではないという長年の議論がある。米国債に代わる十分な規模と流動性を備えた世界的な貯蓄手段は存在せず、大手機関投資家の間で運用先をトリプルA格付けの資産に限定する厳格なルールも、ほぼ過去のものとなっている。

そのため、19日の債券、株式、為替市場の反応が比較的落ち着いていたのは理解できる。30年物国債利回りは19日朝に一時5%を超え23年以来の高水準を付けたが、その後すぐに上げ幅を縮小した。また、ドル指数(.DXY), opens new tabとS&P500種株価指数(.SPX), opens new tabは序盤の下げからほぼ値を戻した。

モーニングスターのストラテジスト、デーブ・セケラ氏は「こうした動きは市場を動かす材料というよりは、市場が材料を探していることを示唆しているようだ」と述べた。

<市場の評価は投機的等級の一歩手前>

しかし、ベセント氏の「誰が気にするのか」という見解の問題点は、米国の信用格付けはもっと低いはずと市場が考えている事実を見過ごしていることだ。結局のところ、投資家は実際に「気にしている」のだ。

S&Pグローバルの「Capital IQ」モデルは、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場の価格に基づき、米国債格付けを現行水準より6段階低い「BBB+(トリプルBプラス)」に相当すると示唆している。これはトリプルAどころか、かろうじて投資適格級にとどまる水準だ。

Credit default swap markets price US as if BBB+ pointing to sizeable downgrade expectationsCredit default swap markets price US as if BBB+ pointing to sizeable downgrade expectations

確かにCDS価格は、連邦政府の債務上限を巡る政治的対立が再燃し、テクニカルデフォルト(技術的債務不履行)に陥るリスクによってゆがめられている可能性はある。しかし、信用力への悪影響は現実のものであり、主要な格付け会社も繰り返し指摘してきた。

The chart shows that US government five-year credit default swaps have been rising, with momentum increasing after President Donald Trump's April tariff announcementThe chart shows that US government five-year credit default swaps have been rising, with momentum increasing after President Donald Trump’s April tariff announcement

議会が債務上限引き上げに合意しなければ政府は8月中にも資金が枯渇する恐れがあるため、債務上限問題は夏場に再び表面化する可能性が極めて高い。1月に法定借り入れ限度額に達して以来、政府は上限超過を回避するための「異例の措置」を講じてきた。

これまでの多くの対立とは異なり、今回の財政を巡る混乱は極めてデリケートな時期に起きている。先月は米市場からの資本逃避懸念が高まり、米国債の安全資産としての地位が揺らいだ。4月の米国債売りは株価とドルの下落と同時に起きている。

ドイツ銀行のジョージ・サラベロス氏が最近繰り返し指摘しているように、ドルと米国債価格の相関関係は著しく高まっており、利回りが上昇すればドル高、利回りが低下すればドル安という長年の市場のパターンが崩れている。この傾向は19日朝に再び鮮明となり、長期国債利回りが上昇する一方でドルが下落した。

サラベロス氏は「米資産への投資意欲の低下と、高水準の財政赤字を固定化させている米国の財政制度の硬直性が相まって、市場は非常に神経質になっている」と分析した。さらに、来年の中間選挙で連邦議会の勢力図が変わる可能性があるため、議会で審議中の財政法案が、現政権にとって深刻な財政赤字と債務増大の傾向を修正する唯一の機会かもしれないとの見方を示した。

この法案の詳細からは、今後10年間で着実に増加する財政赤字と債務負担を軽減する効果はほとんど期待できないことがうかがえる。予算監視機関や銀行の推計によると、米国は今後2年間で国内総生産(GDP)の6─7%に相当する財政赤字を計上し、債務が10年間でさらに3兆─5兆ドル増加する可能性が高い。

サラベロス氏はまた、「ベセント氏自身が示唆したように、米国が自国の不均衡を是正する意思がないのであれば、他国に米国との不均衡是正を求めることはできない」と指摘し、「世界各国が米国に対し、市場の混乱などを通じて無秩序な形で是正を強いるリスクがある」と警告した。

外国人による米国債保有動向は実際にそれほど重要なのだろうか。

アポロのチーフエコノミスト、トルステン・スロク氏によると、海外投資家は米国債市場全体の30%に当たる約7兆2000億ドル相当の米国債を保有している。さらに同氏は、30年国債の入札における海外勢の参加も最近は減少傾向にあると指摘している。

また、3月の最新の財務省データによれば、外国人保有者の構成に変化が見られる。比較的投機的なヘッジファンドの代理となることが多い英国拠点の投資家による保有額が、中国を抜いて2位に浮上した。

国債市場が不安定な中、債務不安や信用格下げは事態をさらに悪化させる要因となり得る。それでも米政府は選択肢がなくなるまで気にかけないかもしれない。

The triple A-rated bond club is getting smallerThe triple A-rated bond club is getting smaller

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

Mike Dolan is Reuters Editor-at-Large for Finance & Markets and a regular columnist. He has worked as a correspondent, editor and columnist at Reuters for the past 30 years – specializing in global economics and policy and financial markets across G7 and emerging economies. Mike is based in London but has also worked in Washington DC and in Sarajevo and has covered news events from dozens of cities across the world. A graduate in economics and politics from Trinity College Dublin, Mike previously worked with Bloomberg and Euromoney and received Reuters awards for his work during the financial crisis in 2007/2008 and on Frontier Markets in 2010.

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