公開日時 2025年05月18日 12:51更新日時 2025年05月18日 12:51

沖縄戦の漫画、イタリアで最優秀も「手放しでは喜べない」 県出身の比嘉慂さん
比嘉慂さん=9日、那覇市の琉球新報社

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赤嶺 玲子

 1日から4日にかけて、イタリアで開かれた国際ポップカルチャーフェスティバル「コミコン・ナポリ2025」で、県出身漫画家・比嘉慂(すすむ)さんの作品集「OKINAWA」(イタリア語版)が漫画競技「パルマレスアワード」の国際作品部門・古典カテゴリーで6作品の中から最優秀賞に輝いた。沖縄戦や米軍占領下に生きる人々を描いた作品集。比嘉さんは「戦争が身近になってしまった時代だからこそ、沖縄戦の物語が世界で受け入れられたのではないか。人々の心の傷に触れたのだと思う」と話した。

 古典カテゴリーには、「ゴーストワールド」で著名な米国の漫画家ダニエル・クロウズや、アンダーグラウンド漫画の先駆者・梵天太郎ら各国6人の作品がノミネートされた。その中から沖縄戦をテーマにした比嘉さんの作品集が最優秀賞に選出された。

イタリア語版『OKINAWA』に収録された短編漫画「母について」の一場面

 「OKINAWA」は約30年前の比嘉さんの短編漫画集「砂の剣」と「マブイ」を1冊に収録した作品集で、2023年に英語版が出版され、24年にはイタリア語版がRizzoli・Lizard社から刊行された。悲惨な戦場や戦後の沖縄を描きつつも抑制的で、人の優しさや愚かさ、民衆のたくましさを細やかにユーモラスに伝えている。

 比嘉さんは執筆時に沖縄戦体験者の証言を読み込み、戦場で必死に生きようとする一人一人の物語を表現しようと試みたという。「“人間”が描かれていなければ世界の人の心には届かない」と強調する。

 受賞の手ごたえがあると同時に、「手放しでは喜べない」とも話す。「今、時代の瀬戸際というか緊張した怖い時代に突入している実感がある。その中で僕の漫画は世界の人にリアルに受け取られているのかもしれない。受賞して万歳と喜べる状況ではなく、それぐらい切羽詰まった状況だと捉えている」と複雑な心境を語った。

 同作は今後、韓国など各国で翻訳版の出版が予定されているという。

 (赤嶺玲子)

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