自由な旅がままならない状況だった2020年代の幕開けもいまや遠い昔のことのよう。誰もが旅する楽しさを取り戻し、海外旅のニーズも高まる中、注目のデスティネーションがオーストラリアです。オーストラリア政府観光局とビクトリア州政府観光局が主催するタスマニアとメルボルンの取材ツアーで体験した“おいしいとこどり”の旅 、そのメモをシェアします。第2回はオーストラリア最大級の都市、メルボルン。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

古い教会建築と現代的なビル、街路樹、トラム。CBDの象徴的な風景。

トラムを乗りこなせ。ストリートの散策こそが醍醐味。

タスマニアからメルボルンへ移動すると、一瞬、情報量の多さにクラクラするほど。空港から中心市街地へ向かうにつれ、大都市ならではの活気が車窓越しにも伝わってきて、一気にテンションが上がります。大自然もいいけれど、やっぱり大都市の魅力にも抗えない!

筆者にとって、一応二度目のメルボルンなのですが、初回である前回は1泊のみ、体感24時間未満の旅だったので、今回の滞在をとても楽しみにしていました。3日間滞在し、タスマニア同様、いいとこ取りであちこちを巡り、大勢の友人・知人がメルボルンへの旅をリピートするのにも納得しました。

読者の方々の中には私なぞ歯が立たないメルボルンツウもおられることが予想される中、老婆心的に都市紹介のさわりを簡単にまとめておきますと、首都がキャンベラに定められる1927年まで連邦政府の首都機能を担っていたのがメルボルン。なのでオーストラリアでも屈指の文化施設やアートスポットが充実しています。移動はトラムが非常に便利で、中心地には無料区間まで設けられているので、本当に町歩きがしやすい。レストランやバー、カフェの洗練されたスタイルや賑わいも、大都市ならではのクオリティです。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

フリンダースストリートとスワンストリートの交差点に位置するフリンダースストリート駅。

町歩きの起点は、フリンダースストリート駅がよいでしょう。メルボルンを訪れたことがあってもなくても、ドーム形の屋根とずらりと並ぶ時計が目印の駅舎を町のランドマークとしてインプットしている人は多いはずです。オーストラリアで最初の鉄道の駅という歴史的な価値があり、現在もターミナル駅として1日約25万人に利用されていて、9つ並ぶ時計もすべて現役で、列車の発着時間を示す役目を果たしています。

駅の南側にはメルボルンのシンボルともいえるヤラ川が流れていて、川を超えてスワンストン通りを南へ進むとアーツセンター・メルボルンやビクトリア国立美術館などのアートスポットがすぐ。一方で、駅の北側がCBD(セントラル・ビジネス・ディストリクト)と呼ばれるシティ中心部にあたります。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

フリンダースストリート駅からすぐ、欧州の古い町並みを彷彿とさせるデグレーブスストリート。

碁盤の目状に整備されたCBDは、東西約3キロ、南北約1キロと非常にコンパクト。中華街、イタリア街、中東、ギリシャ……と、通りごと、その先にのびる路地ごとにくるくると表情が変わり、テーマパークを巡っているような気分になります。が、当然のことながらすべてが歴史の中で形成された、生きた町の一部であり、そのことに深い感慨を覚えます。

カフェの卓上に、露店の店先に、そこに暮らす多種多様な人々の日常が溢れている。今回は駆け足で見て回りましたが、次に来たときは「ここだ!」と思った店に入り、常連さんに交じって朝ごはんを食べたり、昼からワインを飲んだりしたい! そんな過ごし方が最高な町だなぁ、と思いました。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

路上にテーブルが並ぶブロック・プレイス。昼時などの混雑時は通り抜け困難に。

歴史ある市場、美しき図書館、市民が誇る世界文化遺産まで。

「ビクトリア州立図書館」も、ぜひ立ち寄りたいスポットです。歴史的建造物に指定された建物は、外観を目の前にしただけでその壮麗さに圧倒され、すっかり見た気になってしまいがちですが、必ず建物の中に入らなくてはなりません。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

ビクトリア州立図書館。建物の周りで人々が寛ぐ様子も素敵。

3フロア吹き抜けの読書室は外観から受けた驚きをしのぐ素晴らしき美しさ。加えて1階には、誰でも自由に利用できるスペースもあり(wifiも使えて快適、仕事もできちゃいます)、ライブラリショップのセレクトもいい感じで、つい物欲を刺激されます。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

吹き抜けの閲覧室。「世界一美しい図書館」とも。

CBDから南へ、トラムで20分ほどの場所にある「サウスメルボルンマーケット」もおすすめです。メルボルン最古の歴史あるマーケットで、開設は1867年! 野菜や果物、魚、肉などを扱う生鮮食品店に加え、グロサリーショップ、カフェやベーカリーがずらり150軒以上並んでいます。毎度のことながら、生鮮食品や肉の加工品を日本に持ち帰れないのが残念至極なのですが、施設内のフードコートではオイスターやマグロなど、新鮮なシーフードをはじめ市場内で購入したものを食べることができ、人気の鮮魚店などは行列ができるほどの賑わいです。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

サウスメルボルンマーケット。お腹を空かせて出かけたい。

近くの通りには料理書も充実したブックショップや器を中心としたセレクトショップあり、「メルボルンの『ニイミ洋食器店』!(※注/合羽橋道具街の有名店です)」と呼びたくなるような業務用食器、調理道具専門店ありと、短い時間内の散策とショッピングに大忙しでした。

CBD内のそれぞれの通り、「ビクトリア州立図書館」の全空間、そして「サウスメルボルンマーケット」と、すべてが「最低限、半日から1日は必要だろ!」というコンテンツ力で、旅程のプランニングが悩ましいところ。欲張らず、狙いを定めたところに十分な時間をかけるのことが大事かなと、次回、一人旅をする(気満々の)自分に言い聞かせます。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

サウスメルボルンマーケットは、シーフードが大人気。

メルボルン観光で忘れてはならないスポットがもう一つ。歩いて行ける世界遺産「王立展示館(ロイヤルエキシビジョン・ビル)」です。1880年、国際博覧会のために建設された建物で、終了後も現在に至るまでさまざまなイベントなどに活用されながら歴史を重ねています。設計を手掛けたのは先の「ビクトリア州立図書館」と同じ、ジョセフ・リードで、ドーム形の天井やアーチの意匠などがみごと。1901年から、最初の連邦議会が開かれ、当時の貴重な写真などの資料も展示されています。

1927年に首都はキャンベラに移りますが、オーストラリア建国の象徴的な意味も込めて、この場所は今もメルボルン市民の誇りなのだとか。2004年にはユネスコの世界遺産に登録され、オーストラリア初の世界文化遺産でもあります。館内の見学はガイドツアーのみですので、メルボルンに行かれる際はぜひとも予約を。それから、隣接するカールトンガーデンズも世界遺産に含まれていますので、庭園散策の時間も組み込んでおきたいところです。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

カールトンガーデンズ越しの王立展示館。

注目のワイン産地、モーニントン半島へ。

滞在中、メルボルン市内を出てモーニントン半島にあるワイナリー「モンタルト」への訪問が叶いました。メルボルンがあるビクトリア州は、オーストラリアでも屈指のクオリティワインの生産エリアです。シャンパーニュのモエ・エ・シャンドン社が創設した「ドメーヌ・シャンドン」などがあるヤラヴァレーが非常に有名ですが、近年、冷涼産地として注目を集めているのがモーニントン半島。「モンタルト」は2002年創業とまだ新しいワイナリーながら、ワインの評価は非常に高く、実際にテイスティングして洗練された味わいに驚きました。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

庭園にアート作品を配した「モンタルト」のワイナリー&セラードア。小さな菜園も。

やや温暖なトゥーロンからもっとも冷涼なメインリッジまで半島の7か所に畑を所有し、シャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・グリから栽培をはじめ、今はシラーズ、リースリング、ソーヴィニヨンブランなども育てています。

化学薬品を使わず灌漑も行わずにぶどうを栽培し、上級キュヴェを中心に収穫は手摘みで行い、醸造や瓶詰時に使用する亜硫酸塩もごく少量。シングルヴィンヤードのシャルドネは、モーニントン半島という産地の実力を感じさせる素晴らしさ。フラッグシップの「モンタルト」では、青い香りが特徴的なリースリングと15%のアルコール度数を感じさせないエレガントなピノ・グリが印象に残りました。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

ぶどう畑を望む美しいテイスティングルーム。

ワイナリー&セラードアはオリーブ畑や菜園に囲まれていて、自然と調和するようにアートが配された景観も格別、レストランでは自社のオリーブオイルや菜園野菜も使った料理が人気で、ワイン同様に高く評価されています。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

シングルヴィンヤードの「THE ELEVEN」をはじめ、冷涼産地ならではのエレガンスを感じる味わい。

メルボルンのグルメ&ステイ。

ホテルの選択肢に事欠かないメルボルンですが、今回はCBDの中でも魅力的なラッセルストリートにある「メルボルン・プレイス」に滞在しました。昨年11月にオープンしたばかり、デザインコンシャスなブティックホテルは、町歩きの拠点としてこの上ないロケーション。モダンなデザインのゲストルームは、レーシーなカーテンや浴室のタイルなど細部まで、テクスチャーも洗練されていて、気分よく過ごせます。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

「メルボルン・プレイス」の客室。コンパクトでもすみずみまで洗練されている。

ルーフトップバーは、連夜ウェイティングがかかるほどの賑わいで、眺望も最高(行けてよかった)。シンプルな炭火焼や薪焼料理を軸にしたダイニング「マーメロ」で供されるスペイン、ポルトガルにインスパイアされた料理は、食材の上質さが伝わる味で、ビクトリア州産の洗練されたワインとよく合いました。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

アラカルトでシェアして楽しめる「マーメロ」の料理。魚介のアロス(米料理、写真みぎ 上)が人気。

オーストラリアきっての美食都市だけあって、レストランのバラエティも悩ましいほどに充実しています。「メルボルン・プレイス」の2軒隣にある「エンブラ」は、ナチュラルワインファンには知られた店で、照明をおさえた薄暗い店内と満席の人々が醸す喧噪がいかにも都会的。アラカルトでオーダーできる料理はどれもシンプルかつクリエイティブで、グラスサービスのワインも豊富にあります。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

18時過ぎの「エンブラ」店内。この後瞬く間に満席に。

気鋭のシェフ、アレハンドロ・サラビアが率いる「ファーマーズ・ドーターズ」は、大都市メルボルンのど真ん中でファーム・トゥ・テーブルを実践するレストラン。メルボルン南東部から約300km、ニューサウスウェールズ州境まで広がるギプスランド産の食材にフォーカスしています。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

メルボルンのトップレストラン御用達、「ラマーロファーム」のトマトとリコッタチーズの前菜。

豊かな自然環境と意欲的な生産者が育む農産物、好漁場で水揚げされる魚介はハイクオリティで、実は50ものワイナリーが個性を競うワイン産地でも。カフェ&デリ、バー、レストランがある3フロア構成、さまざまなシチュエーションでのアクセスのしやすい店づくりにも心意気を感じます。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

トラウトの一皿。ミキュイの火入れがみごと、山椒のクリームソースは自家製ソーダブレッドと。

カフェとベイクの激戦区としても知られるメルボルンですが、今話題を席捲しているのがクロワッサン「ルーン」。CBDのショップにできる長い行列を幾度か目にしていたので、フィッツロイの本店に行けて感激でした。「世界一」との呼び声も高いクロワッサンは、おおぶりでバターの香りも豊かながら、ざくざくの食感と生地の繊細さで、ぺろりといけてしまう軽やかさ。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

一番人気はクロワッサン・オ・ザマンド。

倉庫を改装した店は、ガラス張りの工房が中央にあり、製造工程が見える造り(スタッフの方は大変だなぁ……と)。建物の構造を生かしたインダストリアルな内装から、カウンターのディスプレーまで“決まって”いて、味以外にも訪れる楽しみがあります。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

「ルーン」本店のディスプレー。クール。

東京から直行便で約10時間とフライトによる体への負荷が少なく、時差もほぼなく、安全でクリーンなメルボルンは、一人旅からパートナーや友人との旅、家族旅行まで、どんなシチュエーションでも楽しめること請け合いです。コンパクトで全体像が把握しやすい点も、人々がフレンドリーな点も、親しみが抱けるポイント。私も、もう次の旅の機会を狙っているところ。自然や伝統を大切にしながらアップデートし続ける都市は、訪れるたびに新しい刺激を与えてくれそうです。

Yahoo! 配信用パラグラフ分割

旅の締めはマティーニ。「メルボルン・プレイス」のルーフトップバー「ミッド・エアー」で。

取材協力

オーストラリア政府観光局

https://www.australia.com/ja-jp

ビクトリア州政府観光局

https://jp.visitmelbourne.com/

Text:Kei Sasaki

WACOCA: People, Life, Style.