アングル:EUは対米交渉で安易な早期決着望まず、経済規模の優位性に期待

 5月12日、ベセント米財務長官はスイスのジュネーブで開いた記者会見で、米国との貿易交渉でスイスと英国が最前列に躍り出た一方、欧州連合(EU)は「はるかに遅れている」とEUの姿勢に苦言を呈した。写真は、フォンデアライエン欧州委員会委員長とトランプ米大統領。2020年1月、ダボスで撮影(2025年 ロイター/Jonathan Ernst)

[ブリュッセル 14日 ロイター] – ベセント米財務長官は12日にスイスのジュネーブで開いた記者会見で、米国との貿易交渉でスイスと英国が最前列に躍り出た一方、欧州連合(EU)は「はるかに遅れている」とEUの姿勢に苦言を呈した。しかしそれほど心配していないというのがEU欧州委員会側の立場だ。

EUは、貿易面では世界三大経済圏の1つであるという規模そのものが優位に働くと確信している。複数のEU高官は、他国に振り回されることなく、英国が締結した協定よりも良い条件を米国に求める方針だと語った。

しかし時間は限られている。焦点となっているのは1兆7000億ドル(約250兆円)規模の対米貿易であり、EUは米国の「相互関税」のうち7月まで一時停止されている上乗せ分が再発動される事態や、米国との全面的な貿易戦争への突入については、回避を望んでいる。

欧州委員会で対米交渉を担うシェフチョビッチ委員(貿易・経済安全保障担当)は先週、「われわれは弱い立場に立たされているとは感じていない。不公平な合意を受け入れるような圧力も感じてはいない」と強気の姿勢を示した。

シェフチョコビッチ氏の発言はベセント長官がジュネーブでEUの交渉姿勢に不満を示す前だった。このジュネーブでの交渉で米中は互いに輸入品への追加関税を100%余り引き下げることで合意し、貿易戦争入りにブレーキをかけたが、それでも欧州委の姿勢に変わりはない。

EUの通商当局者によると、今回の対米交渉はトランプ米大統領が掲げる貿易政策の目的が理解しにくいという難題を伴っている。

欧州委員会のフォンデアライエン委員長は1月のトランプ氏の大統領就任以来、正式な会談を行えておらず、前ローマ教皇フランシスコのバチカンでの葬儀の場で短く言葉を交わしただけだ。

その後、トランプ氏はフォンデアライエン氏を「素晴らしい」と称賛し、「会談できることを願っている」と述べた。これに対してフォンデアライエン氏は「ホワイトハウスに行くなら、議論できるパッケージを持っていきたい」と応じた。この発言は、包括的な貿易協定に向けた交渉を望み、米英間で締結されたような、短期間で政治的な成果を狙った、範囲の限られた取引では満足しないというEUの姿勢を示している。

<厳しい交渉>

米国の統計によると、EUと米国の貿易額は米英間の6倍余りにのぼり、欧州側はこの通商規模が交渉において有利な要因として働くと考えている。

リトアニアのシャジュス財務相はEU財務相会合の期間中、ロイターに「EUが(通商協定で)他国のひな型を採用しなければならなくなるとは、とても思えない」と語った。

一方、シンクタンクのユーロインテリジェンスのアナリストグループは、交渉が単なる貿易の枠を超える可能性に備えるべきだと指摘。「EUがこの分野で前進したいなら、アプローチを考え直す必要があるかもしれない。シェフチョコビッチ氏は貿易の極めて狭い範囲しか語れない。規制障壁の緩和を約束することさえできない」とした。米政府当局者は、EUが付加価値税(VAT)や自動車・食品の安全規制といった非関税障壁を緩和する必要があると主張している。

トランプ氏はVATを貿易障壁と呼んでいたが、米国は英国との協定ではこの点に触れなかったようだ。英国も米国から批判を浴びていたデジタルサービス税や牛肉輸入に関する食品基準で譲歩しなかった。

これまでのところ米国とEUの交渉は難航している。

ドイツの化学品流通大手ブレンタグのクリスチャン・コールパイントナー最高経営責任者(CEO)は14日の決算発表後の電話会見で、EUが交渉を「非常に賢明に」進めていると述べた。ただ、「(関税上乗せ部分の)90日間の猶予は、いわば鎮静剤のようなものだ。市場の先行きに明確な展望を開くような真の治療法ではない」と苦言を呈した。

スイスのIMDビジネススクールで地政学および戦略を教えるサイモン・イブネット教授は、米英間の協定と米中間の休戦から全般的な10%関税と特定分野での25%関税が基本線となることが読み取れると指摘。米金融市場の反応によってトランプ氏は上乗せ関税の90日間停止と対中休戦の受け入れに動いており、市場動向が米政府の暴走を抑制する可能性があるとの見方を示した。米EU間の貿易・投資額は年間9兆5000億ドルにのぼるだけに、この点は米EUの貿易戦争突入という展開の歯止めになるかもしれない。

ただイブネット氏は今後の米EU間の話し合いの見通しについて「交渉は困難を伴い、長期戦となる公算が大きい。最終的に行き詰まり、EUが高い関税を受け続ける恐れもある」と慎重な見方を示した。

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Jan is the Deputy Bureau Chief for France and Benelux, running the Reuters office in Brussels. He has been covering European Union policy, focusing on economics, since 2005 after a five year assignment in Stockholm where he covered tech and telecoms stocks, the central bank and general news. Jan joined Reuters in 1993 in Warsaw from the main Polish TV news programme “Wiadomosci”, where he was a reporter and anchor for the morning news edition. Jan won the Reuters Journalist of the Year award in 2007 in the Scoop of the Year category, a second time in 2010 for his coverage of the euro zone sovereign debt crisis and for the third time in 2011, this time as part of the Brussels team, for the Story of the Year. A Polish national, Jan graduated from Warsaw University with a Master’s in English literature. He is a keen sailor, photographer and bushcraft enthusiast.

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