[ニューヨーク 13日 ロイター BREAKINGVIEWS] – 技術的な課題の克服や突破は、決して米国の専売特許ではない。バイデン前政権は中国の人工知能(AI)技術発展を抑える目的で、エヌビディア(NVDA.O), opens new tabの最先端半導体の輸出規制を武器として他の分野の進展を遅らせようとした。しかし今サウジアラビアを皮切りとする中東訪問を開始したトランプ大統領は、中国製半導体を買わないという条件付きで米国製半導体を利用してもらうという方式に切り替えつつある。
トランプ氏は13日、サウジから米国に大規模な投資が行われると発表。ホワイトハウスは投資総額が6000億ドルを超え、サウジの幅広い企業との協力が進むと説明するとともに、さまざまな武器供給を約束した。エヌビディアが、サウジの政府系ファンドが所有するAIスタートアップ企業「ヒュメイン」と提携し、最大500メガワットの電力を消費する半導体を備えたAIインフラを立ち上げるというニュースも飛び込んできた。その後すぐに米商務省産業安全保障局は、中国のファーウェイ(華為技術)が製造する半導体「アセンド」を使えば、世界のどこであっても米国の輸出管理規則に違反すると明らかにした。
バイデン前政権が導入した規制の下では、サウジやその近隣諸国が入手できる米国製AI半導体は制限されてきた。複数のトランプ政権幹部はこの措置を間違いだと批判し、トランプ氏がAI責任者に起用したデービッド・サックス氏はサウジのような友好国にリスクはないと断言した上で、米国が自国技術の世界的波及を阻止する必要はないと話している。米商務省は13日、バイデン前政権の規制を正式に撤廃した。
前政権の規制には、米国の技術が超越しており、優先すべきは中国がそれを手に入れるのを防ぐことだという暗黙の前提があった。しかし中国のディープシークが披露した画期的なAIモデルは、米国から供給制限の中での半導体設計を強いられた中国企業の力を見せつけた。そしてファーウェイがアセンドを使って投入した最新システムは、エヌビディアの半導体搭載製品には劣るものの、相当な性能を示している。
そこで方針転換したトランプ氏や、エヌビディアとヒュメインの提携の背後にある論理は明白だ。買い手が中国製半導体しか購入できないとすれば、中国企業は労せずして需要を獲得し、急速な技術発展の資金を調達できる。だから米国製品を同盟国に供給するのを認めれば、そうした機序を食い止めるのに役立つし、サウジやアラブ首長国連邦(UAE)などにとって中国製品の購入ハードルを高くすることになる。
実際にそうした理屈通り事態が進むかどうかはまだ分からない。しかし世界を米国のサプライチェーン(供給網)で固めれば、エヌビディアや同業者には追い風が吹くだろう。エヌビディアは、性能を落とした中国向け製品にさえ新たな輸出規制が適用された影響で55億ドルの費用計上を迫られていたものの、13日には株価が急騰した。「ライバルを打ち負かせないなら、こちら側の仲間を増やせ」という話だ。

5月13日、今サウジアラビアを皮切りとする中東訪問を開始したトランプ大統領は、中国製半導体を買わないという条件付きで米国製半導体を利用してもらうという方式に切り替えつつある。リヤドで撮影(2025年 ロイター/Hamad I Mohammed)
A chart showing Nvidia’s share price
●背景となるニュース
*ホワイトハウスは13日、サウジアラビア政府・企業による一連の対米投資計画を明らかにした。エヌビディアは、サウジ政府系ファンドが所有するAIスタートアップ企業「ヒュメイン」と提携し、AIインフラを建設すると発表した。 もっと見る
*ブルームバーグによると、トランプ政権はサウジとUAEに対して米国製AI半導体の入手拡大を認めるための取り組みを進めている。
*米商務省はバイデン前政権が導入したAI半導体輸出管理規則の撤廃を表明。一方で同省産業安全保障局は、ファーウェイの「アセンド」を使えば「世界のどこであっても」米国の輸出管理規則違反に該当するとの指針を公表した。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。


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