カシミール地方での観光客襲撃事件を発端としたインドとパキスタンの紛争は、米国などの仲介で即時停戦に合意した。写真は、インド空軍兵士の火葬に参列する人ら。5月11日、ジュンジュヌのマハラダシ村で撮影(2025年 ロイター/Anushree Fadnavis)
[ニューデリー/イスラマバード 11日 ロイター] – カシミール地方での観光客襲撃事件を発端としたインドとパキスタンの紛争は、米国などの仲介で即時停戦に合意した。一方、トランプ米大統領が係争地カシミール地方の解決に向けた仲裁を申し出たことを受け、アナリストらはインドの外交大国としての地位が重要な試練に直面していると指摘した。
世界第5位の経済大国となったインドは、カシミール地方の領有権を主張する一方で、対米貿易などを巡ってトランプ氏に気に入られようとしている。そんなインドが外交でどのような針路を取るのかは国内政治に大きく影響され、カシミール地方の将来の行方を左右する可能性がある。
米首都ワシントンを拠点に活動する南アジアアナリストのマイケル・クーゲルマン氏は、停戦合意が「急ごしらえで結ばれた」と指摘し、「インドは、より広範に停戦に関して協議することに乗り気ではなく、停戦を維持するには困難が伴う」との見方を示した。
停戦合意がいかに脆弱なのかを示すように、インドとパキスタンの政府は10日遅くに互いに対して重大な違反行為をしていると非難した。
トランプ氏は11日、停戦合意を受けて「私はこれらの偉大な両国との貿易を大幅に増やすつもりだ」とコメントした。
インドのモディ首相は今回のパキスタンとの紛争が始まって以来、公の場でこの件について発言していない。
インドはカシミール地方を自国にとって不可欠な領土の一部だと考えており、交渉の余地はない。インドとパキスタンはそれぞれ風光明媚なヒマラヤ山脈にあるカシミール地方の一部を支配しつつ、その全域を領有すると主張し、数々の紛争を繰り広げてきた。インドはパキスタンが反乱を支援してきたと批判し、パキスタンはこれを否定してきた。
インドの国防アナリスト、ブラフマ・チェラニー氏は「インドは米国の説得を受けて、3日間ほどの軍事作戦を中止し、危機の引き金となったパキスタン側による国境を越えたテロよりも、カシミール地方を巡る紛争に国際的な注目を集めてしまった」と指摘した。
両国が1947年に分離して以来、西側諸国はインドとパキスタンを同一視していた。しかし、パキスタンの経済規模がインドの10分の1未満に落ち込み、インドが経済的に台頭したことで近年はそれが変わった。
しかし、カシミール地方を巡る問題の解決に向けて努力するというトランプ氏の提案は、ルビオ米国務長官がインドとパキスタンが中立の場でより広範な問題について協議を始めると訴えたことを含めて、多くのインド人をいら立たせている。
パキスタンはトランプ氏の申し出に繰り返し感謝する一方、インドは停戦合意についての第三者の役割を認めておらず、あくまでも自国とパキスタンが合意したと主張している。
アナリストやインドの野党は、今月7日にインド軍が報復としてパキスタンへミサイルを発射したことは、果たして戦略的目的を達成できたのかと疑問視している。インド政府は、ミサイル発射はパキスタンの責任だとした一方、パキスタンは否定している。
パキスタンの奥深くまでミサイルを撃ち込んだことで、モディ首相は前任者よりもはるかに大きなリスクを取る姿勢を示した。一方で停戦合意を突然結んだことで、インド国内では珍しく批判にさらされた。
同首相が率いる与党インド人民党(BJP)所属の元議員、スワパン・ダスグプタ氏は「トランプ氏がどこからともなく突然現れ、判決を下した」こともあって、停戦はインドでは良く受け入れられなかったと指摘した。
一方、主要野党の国民議会派は「米国によってなされた停戦発表」についてインド政府に説明を要求。国民会議派のジャイラム・ラメシュ広報本部長は「私たちは第三者による仲介の門戸を開いたのだろうか」と問いかけた。
停戦後もインドの決意が試され、強硬姿勢に転じたりする可能性のある火種がいくつも残っている。
パキスタンの外交官や政府高官によると、パキスタンにとって最大の問題はインダス川の水資源の配分を定めた2国間協定をインド政府が停止したことだ。
元パキスタン外相で、現在は主要野党のパキスタン人民党(PPP)党首を務めるビラワル・ブット・ザルダリ氏は、「パキスタンは、米国がより広範な対話を保証しなければ(停戦に)同意しなかっただろう」と言及。
元パキスタン国家安全保障担当首相補佐官のモイード・ユスフ氏は、カシミール地方を巡る係争で「根本的な問題が残っているため、半年、1年、2年、3年ごとにこのようなことが起こり、核戦争の瀬戸際に立たされるのだ」とし、瀬戸際外交を断ち切るには幅広い合意が必要だと訴えている。
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab
WACOCA: People, Life, Style.