綱渡りのドイツ・メルツ新政権 政策遂行力への疑問符とAfDの躍進

綱渡りのドイツ・メルツ新政権 政策遂行力への疑問符とAfDの躍進

ドイツでメルツ首相が率いる二大政党による連立政権が誕生した。二大政党内からの造反により、初回の首相指名投票がまさかの否決となったが、直後に二回目の投票を行い、政権発足に漕ぎ着けた。

政権発足の遅れや政治混乱の長期化は回避されたが、新政権は一枚岩でないことを露呈し、政策遂行能力に早くも疑問符が付いた。2月の前倒し連邦議会選挙後、極右政党の支持が一段と高まり、一部の世論調査で最多の支持を集める。新政権を取り巻く政治環境は極めて不透明だ。

初回の首相指名投票はまさかの否決

ドイツの連邦議会(下院)は6日、連立政権の発足を目指す保守政党・キリスト教民主同盟(CDU)のメルツ党首の首相指名投票を行い、2回目の投票で首相に選出された。

2月23日の連邦議会選挙の結果を受け、CDUとその姉妹政党でバイエルン州で活動するキリスト教社会同盟(CSU)、並びに前政権を率いた中道左派政党・社会民主党(SPD)の2会派3政党は、連立文書を交わし、大連立政権(二大政党による連立政権)を発足することで合意していた。

だが、6日の初回投票では過半数に6票届かず、メルツ氏の首相指名はまさかの否決となった。2会派3政党の合計議席は328と連邦議会の過半数(316)を上回り、首相指名に障害はないとみられていたが、政権参加を約束した2会派内の一部議員が造反した。

投票は無記名で行われ、どの政党から造反者が出たかを特定することはできない。一部の報道によれば、連立パートナーとして加わるSPDの一部議員が、極右政党・ドイツのための選択肢(AfD)の協力で移民規制の強化法案を議会で通そうとしたメルツ氏の首相就任に反発した可能性が指摘されている。 

TBS CROSS DIG with Bloomberg

初回投票で首相が選出できなかった場合、2週間以内に2回目の選出投票が行われ、そこでも過半数に届かなった場合、速やかに3回目の投票が行われる。

2回目の投票までは、首相選出には定数の過半数(絶対過半数)の支持が必要となる。

3回目も過半数の支持が得られなかった場合、議会の解散権を持つ大統領は7日以内に、そのまま首相を任命して非多数派政権を樹立するか、連邦議会を解散して再選挙を行うかを決断する。

今回は初回投票の否決直後に2回目の投票を行うことで、政権発足の遅れや政治混乱の長期化は回避されたが、新政権は一枚岩ではなく、政策遂行能力に疑問符が付く。

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新政権の課題と躍進するAfD

17の閣僚ポストのうち、首相、経済・エネルギー相、外相を含む7ポストがCDUに、副首相兼財務相、労働・社会問題相、国防相を含む7ポストがSPDに、内相、食料・農業・コミュニティ相を含む3ポストがCSUに配分された。

新政権は、構造不況下にあるドイツ経済の立て直し、産業競争力の回復、米国との関税協議、ウクライナ支援の継続、企業の税・行政事務負担の軽減、労働市場改革、エネルギーの安定供給などへの対応が急務となる。

今回、政権を発足した二大政党は、下野した環境政党・緑の党にも協力を仰ぎ、連邦議会選挙後に旧議会を緊急招集する離れ業を駆使し、財政均衡を義務付ける債務ブレーキの見直しや、インフラ投資や気候変動対策に充てる特別基金の創設に成功した。

更なる債務ブレーキの改正や柔軟適用も視野に入れるが、新議会の下で憲法改正に必要な3分の2以上の賛成が得られるかは微妙な情勢で、国防費やインフラ投資以外の財政拡張の行方は予断を許さない。

政権崩壊で先送りされた今年度の正式な予算策定や秋に向けて本格化する来年度の予算審議において、連立政権内の不協和音が高まり、速やかな政策実行が難しくなる恐れもある。

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連立政権外でも新政権を取り巻く政治環境は極めて不透明だ。2月の連邦議会選挙後の世論調査では、第一党となったCDU・CSUが大きく支持を落とすなか、第二党に躍進したAfDが一段と支持を伸ばし、両党の支持率が逆転しているものも珍しくない。

新政権の政策転換に対する期待が失望に変われば、AfDに対する有権者の支持拡大の追い風となりかねない。

それと同時に、ドイツの情報機関である連邦憲法擁護庁は今月2日、民族主義的な主張が民主主義と相容れないとし、AfDを極右組織として認定した。これを受け、一部の議員の間で、AfDの政党資格を剥奪すべきとの主張も広がっている。

ドイツではナチス台頭を招いた反省から、自由で民主的な秩序を破壊する目的を持った政党の活動が認められていない。

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(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 田中 理)

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