スペインとポルトガルでは4月28日(欧州時間)、数百万人が大規模停電に見舞われた。イベリア半島で電力供給はすでに復旧しているが、いまも詳しい原因の解明はなされていない。

スペインの送電インフラの運営を担う公営企業のRed Eléctricaは、原因としてサイバー攻撃、人為的ミス、あるいは異常気象や大気中の異常現象の可能性を、暫定的に除外した。そうではなく2度にわたり、発電設備が電力系統から切り離されたことが原因となった可能性が高いという。そしてそれは再生可能エネルギー固有の不安定さによって引き起こされた可能性がある、と指摘している。

さらに専門家らは、今回のような例外的かつ稀な大停電では、電力システム自体の“防御装置”が作動したとみている。電力網を安定的に運用するには、エネルギーの生産と消費のバランスを維持する必要がある。バランスが崩れると停電を引き起こすだけでなく、インフラにも損害を与えることになりかねない。

電気系統のバランス維持においては、システムオペレーターが変電所からの電力周波数、電圧、負荷率などのパラメーターをリアルタイムで監視する責務を負っている。発電量と需要量の間に大きな乖離が生じた場合、電力網の特定区域で自動的に電力供給を停止して、不均衡を是正する仕組みになっている。従って、送電遮断の影響が電力網全体に波及してしまうという、最も深刻な状況も起こりうるのだ。

「今回の大規模停電は、わずか5秒で発電能力の半分以上が失われてしまって起きたのです」と、レオン大学鉱山工学部で電気工学教授を務めるアルバロ・デ・ラ・プエンテ・ヒルは、スペインのサイエンス・メディア・センター(SMC)に対して語った。電力網が発電と需要の間に生じた急激なギャップを調整できず、自動的に国内および欧州全体の電力網から切断して自己防衛を図ったというのだ。

一方、同大学の電気工学教授であるミゲル・デ・シモン・マルティンは、電力網のバランスは通常3つの要素によって安定性が担保されるとSMCに説明している。第一には、メッシュと呼ばれる相互接続された複雑な網状ネットワークが、電力網全体を通じて電力を分配して、過負荷を防止する。第二には、近隣諸国と相互接続されている電力網を通じ、エネルギーの送受電を必要に応じて行ない、発電と需要のバランスをとる。

再エネ拡大で問われる「慣性」

第三に、「機械的慣性」と呼ばれる現象がある。同期発電機(周波数と回転速度が一致して動く大型の発電機)は、超大型の回転部品に大量のエネルギーを蓄えられる。例えば、石炭火力発電所を想像してみてほしい。万が一、発電所で石炭を燃やして発電量を増やせなくなっても、発電用の巨大で重たいタービンは、そこに蓄積されたエネルギーのおかげで、しばらく回り続ける。

これが機械的慣性として知られる状態で、グリッドの急激な変動に対して緩衝材のような役目を果たしている。同期発電機は、エネルギーの生成と需要の間に不均衡がある場合、回転速度を速めたり遅らせたりしてバランスをとる。基本的には、必要に応じてエネルギーを吸収または放出することで、電力網の緩衝装置(shock absorber)として機能しているのだ。

「広域かつメッシュ状に構成した電力網に、さらに強力な相互接続と豊富な同期発電機を導入すれば、より安定して、故障しにくくなるのです」とデ・シモン・マルティンは解説する。「スペイン本土の電力網は、歴史的に堅牢で信頼性が高かったのです。なぜなら高電圧(HV)および超高電圧(EHV)レベルの系統での高度なメッシュ構造になっていて、大規模な同期発電容量もあるからです。ところが、ピレネー山脈の地理的障壁によって国際的な相互接続が限られていることが、常に弱点となっていました」

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