ロシアの脅威に対抗するため、ユーロ共同債を発行し、軍備の拡張に使う計画が浮上している。しかし、足並みはそろわず、前途は多難だ。
ロシアの脅威は増大するも危機感に濃淡
トランプ旋風が世界で吹き荒れている。欧州にもその一律高関税政策が突き付けられた。同時に、欧州からの米軍撤退をにおわせられ、NATO(北大西洋条約機構)加盟の欧州各国は防衛費のGDP(国内総生産)比5%への拡大を迫られている。
125兆円の再軍備計画
他方で各国諜報(ちょうほう)機関は「ロシアが3年から5年の間にEU(欧州連合)の防衛能力を試す可能性がある」と伝える。ウクライナ支援ばかりでなく、EU自身の防衛の自立が求められている。
3月初め、フォンデアライエン欧州委員会委員長は8000億ユーロ(125兆円)規模の「再軍備計画」を発表した。欧州委員会は、防衛費のEU財政基準を緩和して(GDPの1.5%まで財政赤字を容認)、各国の防衛費増加を促進する方針を示した。そのうち6500億ユーロを防衛強化に振り向け、1500億ユーロを加盟国の防衛産業に融資する新たな枠組みを設立するとした。
その後3月下旬のEU首脳会議の前日に、欧州委員会は「2030年に向けた準備」と題する再軍備のための文書で、今後5年間の安全保障と防衛産業の強化を公表した。30年を目標年としたのは、ロシアの脅威に鑑みてのことだ。フォンデアライエン委員長も、「歴史に先を越されてはなりません……今すぐ行動する必要があります」と逼迫(ひっぱく)感を表した。
再軍備計画の中身は3月に発表されたEU「防衛白書」の内容を受けてのものだ。対空システム・航空力・ミサイルディフェンス・対ドローン攻撃・火砲(高度精密・長距離ミサイル)・弾薬供給・情報システム・人工知能・陸海空戦闘能力の向上の重点化だ。そして欧州委員会を中心にした欧州生産兵器の調達体制の統合、廉価で安定した供給…
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週刊エコノミスト
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