B2の2024⁻25レギュラーシーズンを57勝3敗(勝率.950)という驚異的な勝率で終えたアルティーリ千葉は、今季を迎えるにあたり、基本的に昨季の戦力を維持してアップグレードを期すロスター構成で臨んだ。新戦力は長谷川智也とトレイ・ポーターの2人だけ。シーズン半ばに特別指定枠で加わった渡邉伶音(当時福岡大附大濠高3年、現・東海大1年)を含めても、13人中10人が昨季からの継続契約だ。
昨レギュラーシーズンの56勝4敗(勝率.933)という成績を考えれば、たとえプレーオフでB1昇格を逃したといっても、ロスターに大きなテコ入れが必要と考える状況ではなかったのもうなずける。しかし、2年連続でリーグ最高勝率を残しながらセミファイナルで敗退してB2残留という現状では、ここで何らか、大きく前向きな変化が必要という見方があってもいいだろう。
実際、それは起こっている。黒川虎徹の飛躍的な成長だ。
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ルーキーらしからぬ存在感
まずは数字で見てみよう。
☆黒川虎徹のレギュラーシーズンアベレージ(左が2023-24、右が2024-25)
出場試合数 11 → 57
出場時間10分12秒 → 15分38秒
得点 5.2 → 8.4
3P成功率 40.0% → 44.9%
フリースロー成功率 70.0% → 87.7%
リバウンド 0.6 → 1.9
アシスト 2.3 → 3.6
アシスト/ターンオーバー比率 2.6 → 2.8
スティール 0.7 → 1.0
黒川はアシスト部門でB2ランキング11位、フリースロー成功率では2位につけた。またアシスト/ターンオーバー比率は、リーグのスタッツランキング規定に合わせて公式戦の85%以上(51試合以上)に出場したプレーヤーに限ると、ここでもリーグ7位に顔を出す。
様々な意味で象徴的だったのは、昨年12月18日に千葉ポートアリーナで行われた山形ワイヴァンズ戦だ。この試合で黒川は20分52秒間コートに立ち、最終クォーターでの10得点を含むキャリアハイの29得点を記録したほか、4リバウンドに3アシストでターンオーバーなし。オールラウンドな貢献でチームを104-91の快勝に導いた。フィールドゴールは16本中10本成功(うち3Pショットは7本中4本成功)、フリースローは5本すべて成功。昨季ベスト3P成功率賞を受賞した大塚裕土から、夏場にシューティングの指南を受けた成果を感じさせるパフォーマンスだった。
黒川はこの試合でMVPに輝き、クラブパートナーの株式会社ウィザースホームから自宅建築支援用の賞金として1000万円を授与されている。受賞が発表された瞬間のチームメイトたちは、その金額の大きさ自体に驚いた様子だったのと同時に、ビッグプライズを持ち帰ることとなった黒川の成長ぶりを温かく歓迎するような笑顔に包まれていた。
コーチ、チームメイトの証言
アンドレ・レマニスHCは黒川が成長できている要因について、「昨季は故障で長期離脱したこともあり、コテツには実戦で失敗するチャンスをほとんど作れませんでした。今季は序盤から出場し続けている中で、様々な経験を積みながら学ぶことができています」といった見方を聞かせてくれている。
上記の数字の中で、司令塔としてアシストやアシスト/ターンオーバー比率が着実に上昇してきていることは、杉本慶、大崎裕太、前田怜緒と持ち味の異なるタレントがそろうアルティーリ千葉のガード陣に、さらに厚みを加える非常に大きな要素だ。杉本は面白い黒川評を聞かせてくれた。
「テツは放っておいても伸びるタイプ。個人的にアドバイスしたことも、バスケに関してはないです。(光熱費など)払うものを払って選挙に行って、ちゃんと千葉市民になって大人の義務を果たしてくださいよというくらいで(笑)。本当にそれで十分なくらい、移動中も自分の映像や試合の流れをチェックしていますし、試合の前には任されたところを確認していて、本当にルーキーっぽさがないんですよ。だから全く心配していないです。もし何か今後、行き詰まるようなことがあればこちらから何かアドバイスできることもあると思うんですけど、これまであまりそういう様子を見たことがありません。詰まっているのはこちらの方で、いい反面教師になっているかもしれません(笑)」
ルーキーらしからぬ黒川の様子について語る杉本。(©B.LEAGUE)
杉本はジョークを交えて話しているが、自身今季もアシストランキングで5位(平均5.0本)、スティールでも7位(同1.2本)と実力を発揮している。アシスト/ターンオーバー比率でも、黒川の上をいく2.9(前述のスタッツランキング規定を適用した場合リーグ6位)。事実は反面教師どころか、手本を示す優秀なデモンストレーターだ。杉本だけでなく、先輩ガードたちはそれぞれが黒川に貴重な学びを与えたに違いない。
また3Pショットとフリースローの成功率は、前述の大塚とのワークアウトが実を結んでいることが明らかだ。大塚は自身の経験からシューティングのノウハウを惜しみなく伝えているようで、黒川は以前の取材で「ボールのもらい方からして違っていました」と話していた。結果として、大塚が2年連続で3P成功率No.1の称号を手にし、黒川は規定外ながらその大塚を上回る精度。大塚は黒川の成長を称え、「テツにはシーズン前から、40%を超えてシュート力があると認めさせようなと話していました。相手ディフェンスが下がったときにあの確率で決めていくことで、ぜひ色を出していってほしいです」と期待を寄せている。
課題は「エンド・オブ・クォーター」
飛躍を遂げ、さらにまだまだ伸びしろのある黒川が、プレーオフでもレギュラーシーズンと同等、あるいはそれをしのぐパフォーマンスを出せるかどうかは、アルティーリ千葉の戦い方に大きく影響するだろう。特に注目したいのは、いわゆるクラッチタイム(残り時間が少なく接戦の状況など、特に心理的な重圧が強い中でプレーしなければならない時間帯)をどのような形でまとめていけるか。プレーオフでは必ずそのような状況が訪れるに違いないが、黒川はシーズン中に、そのような状況下でのプレーを課題に挙げていた。
「エンド・オブ・クォーター(各クォーター終了間際の時間帯)に自分がボールを持っているときに、ちょくちょくターンオーバーをしてしまったり、周りが空いているのに自分で攻めすぎてしまったり、そのバランスが今はうまくとれていません。誰と出ているかなども映像でチェックして、どこにアタックすれば周りがどうなるかというような試行錯誤を繰り返しているところです」
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このコメントは2月15日、16日に福井ブローウィンズをホームでスウィープした後のもの。ファンにとっての朗報は、アシストが増えてアシスト/ターンオーバー比率も上々だった中で、黒川が杉本の言うとおり自分で自分の伸びしろを見出していたことだ。ちなみに、自身のミスを語っている黒川だが、実戦でうまくいかなかったことをネガティブにはとらえていない。「上位との戦いが続く後半戦で経験を積んで修正していきたいと思います」というコメントから感じられたのは、そのような状況に対する挑戦意欲と前向きな思いだった。
そしてレギュラーシーズンは終わり、本番のプレーオフがやってくる。レマニスHCが言う「実戦で失敗するチャンス」を十分得て迎える今年のプレーオフは、3試合の出場でフィールドゴール成功が11本中1本のみ、アシストもトータルで3本に終わった昨年のプレーオフとは全く異なる姿を期待するのがファン心理。今度はエンド・オブ・クォーターの出来が、どのようなエンド・オブ・シーズンを迎えることになるかに直結する。この大舞台で黒川は「クラッチ虎徹」になれるだろうか? もちろんチームはそれを信じ、しっかり締めくくってくれることを期待している。
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