
4月29日、中国の習近平国家主席が今月、トランプ米大統領による輸入品への関税引き上げに対抗し、関係強化のため東南アジアを歴訪した。写真は人民元紙幣。2022年6月撮影(2025年 ロイター/Florence Lo)
[上海/シンガポール 29日 ロイター] – 中国の習近平国家主席が今月、トランプ米大統領による輸入品への関税引き上げに対抗し、関係強化のため東南アジアを歴訪した。同時に、中国人民銀行(中央銀行)は世界貿易の混乱に乗じて自国通貨の人民元の利用拡大を図っている。
人民元がドルの座を奪うことはないだろうが、国境を越えた人民元決済は3月に記録的水準へ上昇した。アナリストらは、トランプ氏による関税強化が米通貨ドルや他の米国資産への信頼を揺るがす中、世界で人民元決済への意欲が再び高まっていると指摘する。
人民銀の支配下にある銀聯(ユニオンペイ)は4月、ベトナムとカンボジアでの決済網を強化した。銀聯の決済網は中国以外の30カ国超に広がっており、国際的な決済や消費、投資での人民元の範囲を広げる一端となっている。
一方、人民銀は国境を越えた人民元決済や、他の金融サービスの促進に向けた措置を発表し、企業に対して人民元決済を優先するよう奨励した。
人民銀は諸外国中銀との通貨スワップを推し進め、その額は2月時点で過去最高の4兆3000億元(5912億ドル)に達したほか、コモディティ貿易のデジタル人民元決済や石油や金の人民元建て取引も進んでいる。
人民銀高官は人民元の国際化に関するセミナーで「米国が関税を武器にしたことで米国資産の安全性に疑念が持たれ、米ドルへの信頼が損なわれ、ドルの世界的地位が揺らいでいる」とした上で、「その結果として人民元資産の魅力が高まり、人民元の国境を越えた利用拡大の一助となるだろう」との見方を示した。
人民銀の陸磊副総裁は今月の記者会見で「一国主義、保護主義(中略)そして関税の引き上げが世界のサプライチェーン(供給網)に影響を与える」と指摘し、海外投資を強化する中国企業がより良い金融システムを求めていると訴えた。
<好機>
中国は長い間、人民元sをユーロやドルのような世界的な通貨にし、世界第2位の経済大国となっている自国の重要性を反映させたいと考えてきた。
しかし、中国政府は資本移動の開放に消極的なため、人民元を持つことの利便性が限られるという壁に妨げられてきた。
それが変わる兆しはない。しかし、ロシアなどの貿易相手国では人民元の利用拡大が加速する見込みだ。
トランプ氏は就任後100日間で過去100年以上で最も高い関税障壁を米国経済に張り巡らせ、米国が築き上げた世界秩序の一部を根底から覆し、景気後退に陥るとの見方が強まった。
一方、中国は他国との貿易を強化しようとしている。
中国国家発展改革委員会(NDRC)研究員のチュー・ファンジエ氏は最近のセミナーで「米国が景気後退に入り、中国がこの米中対立の局面で優位に立てば『東の台頭と西の衰退』と呼ばれるシナリオになり、それが長期的には人民元にとって実に良いことになる」とし、「中国は国際通貨システムの古い秩序を破壊できる」との見解を示した。
ただ、今のところドルに対抗できる通貨はない。銀行間の国際決済ネットワーク「国際銀行間通信協会(SWIFT)」によると、ドルは世界の決済の半分弱を占め、貿易金融の80%超を占めている。
人民元は世界での決済で4位に浮上したものの、全体に占める割合はわずか4%だ。ドルへの不信感は人民元より先に他の通貨、特にユーロの利用を押し上げる可能性が高いとの見方も出ている。
ナティクシスのアジア太平洋地域担当チーフエコノミスト、アリシア・ガルシアヘレロ氏は「人民元は長年にわたって弱かったため、(投資家や中央銀行が人民元を)保有する明確なプラス面はない」と言及。一方、中国が他の新興市場や、新興国・途上国の「グローバルサウス」との関係を深めていることは人民元の使用を促す可能性が高く、需要の兆しがあるとの見解も示した。
中国人民大のトゥ・ヨンホン教授(金融)は「米国が支配する世界の通貨システムはますます脆弱になっている」とし、中国は「この好機をつかむ」べきだと強調。「中国の対外貿易の規模を踏まえると、この状況は人民元の使用を押し上げるだろう」と予想した。
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