閣僚

ギー・パルムラン経済相(左)とカリン・ケラー・ズッター財務相兼大統領

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スイス連邦内閣の閣僚3人が今週、中国、日本、米国を訪問している。輸出小国であるスイスは、米中貿易戦争の影響を最小限に抑える策を講じたい考えだ。

このコンテンツが公開されたのは、

2025/04/24 16:43

Rigendinger Balz

連邦政治を担当。在外スイス人向けにスイスの政治を報道し、政治トーク番組『Let’s Talk』を担当。
90年代初頭に地方ジャーナリズムの世界に入り、多くのジャーナリズム分野で働き、管理職を務め、さまざまなトピックを取材。2017年にSWI swissinfo.chに入社。

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New York, Peking, Tokio – der Bundesrat auf Handelsreise

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Нью-Йорк, Пекин, Токио: путешествия швейцарских коммивояжеров

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イグナツィオ・カシス外相は日本と中国、ギー・パルムラン経済相とカリン・ケラー・ズッター財務相兼連邦大統領は米国を訪問。旧来のパートナーシップが試される国際情勢のなかで、スイスは新たな足固めに奔走する。

今回の3カ国公式訪問の狙いと課題をまとめた。

米国訪問の目的は?

スイスにとって、米国は欧州連合(EU)に次ぐ第2の貿易相手国だ。パルムラン氏とケラー・ズッター氏は25日までニューヨークに滞在する。公式任務は世界銀行・国際通貨基金(IMF)の春季会合出席だった。ケラー・ズッター氏の訪米は以前から予定されていた。

大統領職を兼任するズッター氏には滞在中、トランプ政権の中枢人物と最初の接触を図るという非公式の目的もあった。米国がスイスに対し31%の追加関税を課した(その後延期)ことへの対応は、スイスにとって最優先事項となっている。

優先度がいかに高いかは、政府次官3人と新たに任命されたガブリエル・リュヒンガー対米特使が同行した事実にも表れている。独語圏日刊紙NZZはこれを「オールスターチーム」と呼んだ。パルムラン氏の訪米は計画になく、当初は大阪・関西万博を訪問するため日本に向かうはずだった。しかし米国の追加関税発表を受け、急遽カシス外相が日本行きに回った。

中国訪問の目的は?           

スイスにとって中国は第3、日本は第4の貿易相手国だ。本来は年後半に予定されていたスイス外相の中国訪問はサプライズとなった。スイス連邦政府は、中国訪問は外相の日本訪問と組み合わせるのが定石だとした。

しかし、真意は米国の追加関税にあったようだ。トランプ大統領が追加関税を発表した後、スイス政府はすぐに、輸出中心である自国の対外貿易網を見直し、裾野を広げる必要があると確信した。

スイスは中国と2014年に自由貿易協定(FTA)を締結している。2024年にFTAを結んだインド、その予定があるメルコスール(南米南部共同市場)と並び、中国はスイス貿易にとって成長の可能性を秘める。

対中FTAはスイスの要請で更新の検討が進む。製薬産業と機械産業に有利な項目が盛り込まれる予定だ。

スイスは中国での有利な位置を死守するため、急遽訪中を計画した。米国が関税引き上げを発表すれば、中国はすぐに多くの国、特に精密産業で中国市場を狙うドイツから秋波を送られることになる。しかし、中国市場においてスイスはまだ先行している。スイスはこの有利な位置を確保したい考えだ。

カシス氏は北京で中国の王毅外相と会談した。公式には、スイスは「二国間関係の強化」と「政治対話の深化」が目的としている。両国の外交関係樹立75周年も祝う。

「歴史的な節目を中国は非常に重要視する」とスイス・中国商工会議所の会頭を長年務めるクルト・ヘリ氏は説明する。相手国との良好な関係も、中国では他国よりもはるかに重要視されるという。           

訪米での課題は?

訪米時の課題は、スイスの懸念事項を可能であればドナルド・トランプ氏本人に伝えることだった。ケラー・ズッター氏が9日、トランプ氏と25分間の電話会談を行った数少ない首脳の一人であることは、スイスがすでに十分な働きかけを行ったことを示している。とはいえ新政権、また新たな大使就任を受け、対米関係の足場構築は振り出しに戻ったとも言える。

しかし、スイス通商代表団は対米への外交努力を続けてきており、スイス企業は政府と並行しロシュ(500億フラン)とノバルティス(230億フラン)による投資を米国側に約束。これにより好機は見える。

トランプ氏がイランとの新たな核合意への関心を高めていることもスイスにとっては有利な材料だ。スイスは1980年以来、イランにおける米国の利益代表を務める。2019年には、利益代表国として、当時のスイス連邦大統領ウエリ・マウラー氏がトランプ氏からホワイトハウスへの予期せぬ招待を受けた。

しかし、危険も潜む。中国を毛嫌いするトランプ氏は貿易相手国にイデオロギー的な忠誠を要求し、中国と米国のどちらかを選ぶよう迫ってくる可能性がある。その場合、スイスは難しい決断を迫られることになる。

訪中での課題は?

対中ではこれまで同様、スイスは経済的利益と政治的価値観の間で微妙な舵取りが必要になる。

中国は貿易相手国が譲歩することを期待している。ヘリ氏は「良好な関係は不変ではない。この雰囲気は簡単に乱される」と言う。

スイスでは、特に左派の緑の党(GPS/Les Verts)と社会民主党(SP/PS)が、強制労働の撲滅や持続可能性などをFTAの更新に盛り込むよう働きかけている。

このためカシス氏には中国市場へのスイスの関心を強調する一方、たとえFTAがあろうとスイスの政界や一般市民が中国の行動を批判的に観察し、あるいは公然と拒絶することを止めないという事実を理解させるという使命もあった。

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スイスは米国で何を達成できる?

ケラー・ズッター氏は財務相として、スコット・ベッセント米財務長官と会談した。ベッセント氏は関税問題のキーパーソンと目され、トランプ氏とケラー・ズッター氏の電話会談時も同席していた。

スイスは米国にとって第6の投資国だ。スイスの製薬大手ロシュとノバルティスもまた、米国に750億ドルを投じる。

米国が関税引き上げの根拠とした数字について、スイス側は事実と異なると反発する。2024年のスイスからの金輸出が貿易黒字を押し上げたほか、スイスが輸入した米国のサービス(ソフトウェアのライセンスなど)が考慮されていない点を挙げる。

ジェイミーソン・グリア米通商代表部(USTR)代表、ベッセント米財務長官との会談でのスイスの目的は、今後の関税交渉のテーマを明確にすることだった。

スイスは中国で何ができるのか?

米中貿易戦争が激化すれば、自動車や機械など、中国国内で新たなサプライヤーや製造者が必要になる。米国のサプライヤーは、関税引き上げにより製品価格が上昇するため、中国市場からの撤退を余儀なくされるからだ。

ここにスイスのサプライヤーが入り込める好機が生じる。対中FTAが締結済みのスイスは他国に先行できる強みもある。

対中FTA更新に向けた第2回交渉は今年後半に行われる予定だ。スイスの関心も高まっている。

編集:Samuel Jaberg、Marc Leutenegger、独語からの翻訳:宇田薫、校正:大野瑠衣子

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