22年、新庄剛志監督が突然、決断した「開幕4番」。この思いがけない抜擢で松本剛の運命は動き出した。それまで二軍にいたが、レギュラーとして打棒を振るい、首位打者を争うようになった松本は怪我をしてしまう。しかし新庄監督は起用を続けた。果たしてその意図とは? 松本がその才能を開花させた新庄マジックを語る。<全3回の3回目/第1回から公開中>
二軍行き通達で涙が…
松本剛は疎外感を味わった22年2月の沖縄キャンプをこう振り返る。
「僕はガラガラを一度も回したことがないんです。あれってスタメンしか回せないんです」
まだ新庄がBIGBOSSと名乗り、自ら主役を買って出ていた頃のことだ。新人指揮官はあの手この手で、ファイターズに注目が集まるように演出していた。「ガラガラ」もそのひとつ。試合前、福引きなどで使う「ガラポン抽選器」を回して選手たちが打順を決める取り組みで、赤玉が出たらスタメンを剥奪される。ロッカールームは嬌声と悲鳴が交錯して大盛り上がりだった。試合に向かうムードを高める狙いがあったのだが、ガラポンを回せるのは先発する選手だけだった。
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キャンプメンバーは新庄の方針で一軍を「BIG組」、二軍を「BOSS組」と呼ぶことで振り分けられていた。前年に47試合出場と出番が減っていた松本剛は「BOSS組」からのスタートだった。一軍の練習試合に呼ばれてもスタメンはなく、チャンスにも恵まれなかった。追い打ちをかけたのはキャンプ直後だった。新庄から二軍行きを通達されたのだ。すると、松本は抑えていた感情を止められず、涙がこみあげてきた。
「確かにめちゃくちゃ打っていたわけではないですし、28歳という中途半端な年齢でしたから落とされても仕方がありません。でも、そのときは『なんでだよ。ふざけんなよ』と、悔しくて涙ぐみました。でも『絶対に戻ってやるから見てろよ』と」
だが、一方で冷静さもあった。新庄は21年11月の監督就任会見で「レギュラーなんてひとりも決まっていません」と話していた。松本剛はチャンスが来ると信じられたから、その日から前を向いた。
22年3月25日、福岡PayPayドームで行われたホークスとの開幕戦。そのバックスクリーンに映るファイターズの先発オーダーに松本剛の名前があった。しかも4番だった。
2回、先頭で迎えたシーズンの初打席。マウンドのエース千賀滉大と向き合う。
外角低めに落ちるフォークに引っ掛けるとゴロがショートの正面に転がった。だが、詰まらされた分、快足が生きて内野安打になった。4回にはセンター前に運んだ。
あの二軍降格の屈辱をバネに這い上がり、意地で2安打を放った。
なぜ、開幕4番を託されたのか
大役を託されたのは開幕の数日前である。
打撃練習中、歩み寄ってきた新庄から伝えられた。
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