4月17日、中国と米国が全面的な貿易戦争に入った。投資家たちの悩みは深く、「どちらが金融カードを切って優位に立てるのか」という点に関心が集まっている。写真は米中の国旗と紙幣のイメージ。2023年1月撮影(2025年 ロイター/Dado Ruvic)
[香港 17日 ロイター BREAKINGVIEWS] – 中国と米国が全面的な貿易戦争に入った。投資家たちの悩みは深く、「どちらが金融カードを切って優位に立てるのか」という点に関心が集まっている。中国の米国債保有は巨大だ。だが実際のところは、中国が米国債売却という伝家の宝刀を抜くのは容易でなく、両国ともに緊張関係の中で均衡を保つ方が自国の利益になるというのが現実だ。
中国国営メディアのコメンテーターは長年、中国政府は米国債を利用して米政府に圧力をかけるべきだと主張してきた。外交問題評議会(CFR)のブラッド・セッツァー氏の推定では、中国の保有残高は1兆1000億ドルに上る。ただ、ベッセント米財務長官は今週、中国の米国債保有は全く影響力を持たないと述べ、歯牙にもかけなかった。
しかし投資家にはベッセント長官のような確信はない。先週、米国債に投げ売りが出て10年物国債利回り(長期金利)が一時4.59%に急騰するのを目の当たりにしたからだ。
資産運用会社には顧客らから質問が殺到している。「かねてから恐れられてきた最悪シナリオ」なのかと。つまり、中国が保有米国債を武器化し、一部または全部を売却することで、米金利を押し上げるという展開だ。目的は貿易交渉で優位に立つためか、中国製品に3けたの輸入関税率を課したトランプ米大統領に報復することか、あるいは両方だ。
こうした懸念は、中国がここ数年外貨準備の多様化を進めてきたことによって、さらに高まっている。しかし、外国為替市場で人民元相場が対ドルで大幅下落し始めた場合、中国は人民元安定化の一環としてドル建て債券を売却することに備え、手元に大量に保有しておく必要がある。
確かに中国人民銀行(中央銀行)は、人民元急落と闘って外貨準備の多くを失った2015年以降、こうした目的で米国債を直接的に売却することには慎重になってきた。だが、中国が通貨防衛の一環で米国債を売却する以外の手段を用いたとしても、結局は米国債という外貨準備の裏付けがなければ実効性はない。
たとえ中国が対米警告として米国債保有残高を限定的に削減したとしても、深刻な危険が伴うだろう。中国人民銀行が米国債を極秘裏に売却するのは困難である上、売却情報が出ただけで、市場では全面売却への懸念が拡大し、世界の金融市場はパニックに陥りかねない。その場合、中国が保有するドル建て資産の価値は落ち込み、人民元の相対的な価値が上昇し、中国の輸出企業は一段と打撃を受けることになる。
The line chart shows China’s direct holdings of US Treasuries
さらに、中国が米国債売却でドルを得た場合、その後の対応も懸案になる。ベッセント長官は、中国人民銀行が人民元を買う必要があり、それによって元は強くなると主張するが、中国政府は単に米国債売却で得たドルを保有し続けることも可能だ。また、欧州や日本の債券市場に資金を振り向ける選択肢もあるが、各国政府がそれを歓迎するかどうかは定かではない。
こうしたことを踏まえても、なおベッセント氏の大局的な見方は正当性を保っている。中国にとって保有米国債の武器化は最良のケースでも困難かつ危険なものだからだ。仮に中国が完全な変動相場制に移行すれば一切のためらいもなく米国債を売る強硬手段に出る可能性がある。しかし、習近平国家主席は人民元の安定維持に強い意欲を示している。今のところ、米中両国が金融デカップリング(分離)を望んでいるとしても、中国の保有する米国債がそれを阻むだろう。
●背景となるニュース
*トランプ大統領が2日、ロシアを除く世界の貿易相手国に対し「相互関税」を発動すると発表後、投資家は米国債を売却した。指標となる10年物国債利回りは16日時点で4.3%で推移し、相互関税前の水準を依然として上回っている。
*米国債の外国保有ランキング首位は日本で、2位は中国。公式データによると2月末時点の直接保有残高は7840億ドルだが、米外交問題評議会(CFR)のシニアフェロー、ブラッド・セッツァー氏は、中国人民銀行(中央銀行)の保有残高が計1兆1000億ドル近くに昇ると推定している。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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