プライドを捨てよ

話を日産-ホンダに戻そう。イタリアの地域販売業界では、かつてのように日産もしくはホンダの1ブランドで経営を成り立たせていけると考えている会社は少ない。前述したシエナの日産販売店は県内と隣接県に3店舗を擁し、1990年代初頭から日産を扱っていた。だが経営を安定させるため、2017年からフォルクスワーゲン・グループのブランドであるセアト/クプラを併売している。

そうしたなか、日産やホンダが目指すべきは、より車種を吟味してブランド価値を高めることだろう。イタリアで日産の乗用車は、「ジューク」「キャシュカイ」「エクストレイル」「リーフ」そして「ルノー・カングー」の姉妹車である「タウンスター」の計5車種である。ホンダも「CR-V」「ZR-V」「e-Ny1」「ジャズ(日本名:フィット)」「HR-V」そして「シビック」の6モデルだ。日本市場向けラインナップと比較すると十分に少ないが、イメージの統一がとれているとはいいがたい。

幸い、日産、ホンダとも高性能車のイメージはけっして悪くない。近年、自動車好きの若者の間で「日産GT-R」の人気は高まっている。ホンダはさらに有利だ。なぜなら、1950年代末から1960年代初頭に生まれた自動車ファンにとって、「CB Four」に代表されるホンダ製モーターサイクルは青春時代の憧れだったからである。第2期F1の印象も色濃い。初代および2代目「NSX」は、ヤングタイマー市場で高額取引されている。「シビック タイプR」も走り屋の間で知らぬ者はいない。

いっぽうで日産は、スペインの旧・日産モトール・イベリカがあった時代からトラックやバンを供給していたこともあり、商用車のイメージも強い。ホンダは草刈り機、耕運機、発電機といった、日本でパワープロダクツと名づけて販売されている商品も、専門店を通じて売られている。

筆者は、けっして商用車やパワープロダクツの開発・販売に携わる人々を見下すような下衆ではない。しかし、中古市場で21万ユーロ(約3400万円)以上で取引されているGT-R NISMOや、新車で5万4000ユーロ超のプライスタグがついているシビック タイプRと、商用車やパワープロダクツが同じブランド名であることに困惑する人は少なくない。

「ランボルギーニのトラクターや、メルセデス・ベンツのトラックがあるではないか」という声もあろう。だが前者は1973年から別の会社による製品となって久しい。たとえトラックがあっても、メルセデス・ベンツ乗用車のステータスが維持されているのは、同グループがブランドイメージを必死で維持してきたからである。欧州では「よそ者」の日産やホンダが一朝一夕に模倣できるものではない。

ふたたび欧州域における2024年1月~11月の販売シェアに注目すれば、日産の1.9%は、テスラ(2.6%)、ボルボ(2.6%)に近い。ホンダの0.3%に関していえば、ジャガー(0.1%)、ランドローバー(0.5%)の水準である。そうしたブランドたちは鮮烈な個性を構築し、訴求しながら市場で戦っている。

同時に、欧州の販売台数でホンダは、すでに上海汽車(SAIC:13万7013台、シェア1.4%)に大差をつけられている。日産もSAICに約4万4800台差まで追い上げられている。

将来も日産やホンダが欧州市場に残りたければ、テスラ、ジャガー/ランドローバーに匹敵する明確なブランディングが必要だ。提案をお許しいただけるなら、日産は「GT-R」「NISMO」をブランド化し、商用車を「NISSAN」とする。ホンダはパワープロダクツを「ASIMO」と改名して差別化を図る。

2社統合協議の行方は目下のところ未知数だ。しかし、両社とも総合自動車メーカーのプライドを捨てることが、少なくともヨーロッパでは必要な気がしてならない。

(文と写真=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/編集=堀田剛資)


シエナの日産販売店。2017年からセアトを併売している。


シエナの日産販売店。2017年からセアトを併売している。拡大


「日産e-NV200」の郵便車。2020年ピストイアで撮影。


「日産e-NV200」の郵便車。2020年ピストイアで撮影。拡大


「日産GT-R NISMO」。2019年東京・銀座の「NISSAN CROSSING」で撮影。


「日産GT-R NISMO」。2019年東京・銀座の「NISSAN CROSSING」で撮影。拡大

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