アングル:安全保障で正念場迎えた欧州、団結が唯一の道

 第二次世界大戦終結以来、欧州はロシアと対峙する上で米国の力をずっと頼りにしてきた。写真は、ゼレンスキー大統領。2月12日、キーウで撮影。ウクライナ大統領府提供(2025年 ロイター)

[ミュンヘン 17日 ロイター Breakingviews] – 第二次世界大戦終結以来、欧州はロシアと対峙する上で米国の力をずっと頼りにしてきた。しかし今、ロシアのプーチン大統領とともに米国のトランプ大統領も、欧州の「強敵」となって立ちはだかっている。両者の圧力に屈せずにいられるかどうかは、資金と意思、そして政治的な一体性にかかってくる。

欧州がロシアと米国に対して同時に立ち向かうのは簡単ではないだろう。欧州はぜい弱で分断されている。だが欧州連合(EU)諸国と域外の英国などが決然と力を合わせれば、独自の足場を築けるかもしれない。

過去1週間で欧州が置かれている危険な立場が鮮明になってきた。トランプ氏はウクライナのゼレンスキー大統領に話をする前にプーチン氏へ電話をかけ、ウクライナでの戦争終結に向けた協議を開始する意向を示した。この際、米国のロシア・ウクライナ担当特使ケロッグ氏は、今週サウジアラビアで始まるとみられる停戦協議において欧州が果たす役割は何も想定しないと明らかにした。恐れられているのは、トランプ氏がウクライナに屈服を強いる形の取引に合意し、それを既成事実化する展開だ。

一方、ヘグセス米国防長官は北大西洋条約機構(NATO)加盟の欧州各国に、米国はもはや欧州の防衛を主軸に据えないので、安全保障を自力で確保するためより大きな責任を負うべきだと伝えた。バンス米副大統領は欧州各国が言論の自由や極右政治家の言動を「検閲」していると批判。それでも足りないかのように、トランプ氏は米国よりも高い輸入関税を課している全ての国に「相互関税」の発動をちらつかせている。トランプ氏は欧州の付加価値税を関税に等しいと誤解しているだけに、相互関税は欧州に打撃を与えかねない。

<最善シナリオと代替策>

欧州の最優先事項は、トランプ氏がウクライナを見捨てるのを阻止することになるはずだ。実現する確率は低いが、最善のシナリオは欧州諸国とウクライナが同意するという条件で停戦合意が成立した場合に、ウクライナが必要とする安全保障を巡る負担の大半を欧州が担うという流れだ。

こうしたアプローチには2つの明らかな難題がある。1つは欧州諸国がそれほど多くの兵力を保有しておらず、ポーランドなど一部の国はロシアの侵攻に備えて部隊を国内にとどめたいと考えていること。もう1つはプーチン氏が「ノー」を突きつけ、トランプ氏がプーチン氏の要求に応じることだ。

だから欧州はトランプ氏が軟化しないよう叱咤し続けるべきだが、一方でトランプ氏がウクライナにとって受け入れ不能な取引を要求した場合の対策を講じなければならない。このケースで欧州の打撃が最も小さいのは、ウクライナへの軍事・金融支援強化になる。

そうした「プランB」は2つの問題をはらむ。1つはトランプ政権がウクライナを見捨てた場合の穴埋めに欧州が苦戦すること。欧州は、米国の供給分を肩代わりできるほど急速な武器生産を行っておらず、ウクライナがロシア軍の攻撃目標を正確にとらえるために必要な情報を米国のように提供できるだけの軍事諜報力もない。欧州が最善を尽くしても、ウクライナが最終的に戦争で負ける恐れもある。

もう1つは、トランプ氏とプーチン氏の合意に欧州が水を差せば、トランプ氏が激怒する可能性だ。トランプ氏は対ロシア制裁を解除し、ロシアは軍備を再補充できるようになるかもしれない。トランプ氏が欧州の指導者に、もしロシアが攻めてきても自力で何とかしろと脅すこともあり得る。

それでもトランプ氏は、欧州が支援するウクライナを切り捨てたという印象を持たれたくないだろうし、そのために交渉で強硬姿勢を採ろうとするかもしれない。だが欧州はこれだけを当てにすることはできず「プランC」の準備も必要になる。

<プランC>

他の選択肢がなくなれば、欧州諸国にとって最も望ましいのは米国抜きでもロシアの攻撃を抑止する効果を持つ欧州独自のNATOを構築することだろう。この方式は、何が起ころうと有効だが、ウクライナが戦争に負けるようなら、次は欧州が標的になる可能性があるため、迅速かつ野心的に行動しなければならない。

もちろんここでも幾つかのハードルがある。1つは膨大な資金が必要なこと。欧州の防衛費を平均で国内総生産(GDP)比3%とすることを多くの国が検討中で、この達成には今後10年で現在の価値で少なくとも2兆1000億ドルの追加資金が不可欠になる。もう1つ、そうした枠組み構築には何年もの歳月がかかり、その間欧州がぜい弱な状況に置かれてしまうという問題が挙げられる。

そこで問われるのは、欧州各国が強固な安全保障体制構築に向けて国家主権の一部を「供託」する用意があるかどうかだ。欧州は防衛セクターの生産の仕組みを簡素化し、強化しなければならない――。23日のドイツ総選挙を前に支持率トップとなっているキリスト教民主同盟(CDU)を率いるフリードリッヒ・メルツ氏はミュンヘン安全保障会議で、こう訴えた。しかしそれは多くの国家レベルのプログラムを撤廃することを意味する。

Chart showing the different defence systems operated by European countries, in comparison to the U.S.Chart showing the different defence systems operated by European countries, in comparison to the U.S.

最も厄介なのは、欧州が防衛面で米国を当てにできなくなっても「核の傘」に入り続けられるかという問題だ。フランスと英国は独自の核戦力を持つが、ロシアが他の欧州諸国を攻撃しても、両国がそのために積極的に核兵器を使うかどうかは極めて不確実と言える。

結局のところ欧州は団結し、このように複雑で重要な計画を遂行していかなければならない。欧州統合に反対する極右勢力が多くの国で台頭している点からすると、そうした取り組みは茨の道だろう。

他方でトランプ氏が、欧州に一体化が必要だと警鐘を鳴らす役目を果たしてくれたのかもしれない。トランプ政権の強い圧力のおかげで、欧州の主流派政党は選挙で極右優位の流れを逆転するチャンスが与えられたのではないか。カナダでもトランプ氏の「併合」を望むとの発言を受け、劣勢だった与党自由党が野党保守党との支持率の差を詰めてきている。

簡単な道のりではないが欧州にはほかに選択肢はない。そうしなければ、トランプ氏と一緒になってウクライナをロシアとのみじめな取引に応じろと威嚇したいというのと同じことだ。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab

筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

WACOCA: People, Life, Style.