アングル:インド南部の土砂崩れ、背景に専門家の警告無視した過剰開発

  インド南部ケララ州の著名な観光地ワイナードで7月30日、集中豪雨による土砂崩れが発生し、200人余りが死亡して多数が行方不明となった。写真は地滑り現場で31日撮影(2024年 ロイター/Francis Mascarenhas)

[チョーラルマラ(インド) 2日 ロイター] – インド南部ケララ州の著名な観光地ワイナードで7月30日、集中豪雨による土砂崩れが発生し、200人余りが死亡して多数が行方不明となった。専門家は何年も前から土砂崩れの危険を警告し、近隣の州政府などが過剰な開発に伴う自然災害リスクの高まりを指摘してきたが、こうした声はほとんど無視されてきた。

土砂崩れが起きたのはワイナードで最も人気の高いリゾート地の一つ。建築から30年の石造りの宿泊施設は数日前に雨で台所が浸水してスタッフと観光客が退去済みだったが、付近の村では205人が死亡。人的被害は約400人が死亡した2018年の洪水以来で最悪となった。

地元当局は現在、被害額の算定を進めるとともに、急速な観光開発が土砂崩れの原因かどうかを調べている。

急成長を遂げつつあるインドは全土で急速にインフラ整備を進めている。特に観光地で建設が急ピッチで進み、生態系がもろい北部ヒマラヤ山麓で洞窟の崩落や土砂崩れの発生が増えている。

今回の災害が発生する3週間前にケララ州観光相は州議会で、ワイナードは「訪れる人が限度を超えており、オーバーツーリズム(観光公害)の典型的な例」だと述べていた。

当局者はリゾートや観光施設で規制違反があったことを示す文書をロイターに示すことはできなかったが、実際には一部で違反が起きていると証言した。

今回の土砂崩れの直接的な引き金が過剰な開発であることを示す証拠はなかった。しかし専門家は、歯止めのない開発で森林が消えて雨水を吸収する能力が失われ、事態の悪化を招いたとみている。

環境保護団体の代表は「ワイナードではこのような豪雨は珍しくない」と述べ、無秩序な観光事業が災害を悪化させたとの見方示した。

<観光客の急増>

昨年ワイナードを訪れた国内外からの観光客数は100万人余りで、2011年の約3倍に急増した。連邦政府の報告書は同年、この地域全体の山岳地帯で過剰開発が行われていると警告したが、その後は具体的な対応策を公表していない。

ワイナード地区の災害管理に関する2019年の報告書は「この数十年に分別のない開発が行われ、丘陵、森林、水域、湿地が破壊された」と指摘。当時の自治体幹部は19年の土砂崩れで14人が死亡した後で「森林伐採と無謀な商業的介入で自然環境が不安定になっている」と記していた。

ロイターはワイナード地区の責任者、災害管理当局、ケララ州首相、連邦環境省にコメントを求めたが回答はなかった。

<神の国>

ケララ州は、西にアラビア海、東に西ガーツ山脈が位置するインドで最も美しい州の一つで、「神の国」とも言われる。しかし連邦政府の2022年7月の議会報告によると、2015―22年に国内で発生した土砂崩れ3782件のうち約60%がケララ州に集中していた。

西ガーツの生態系を調査する連邦政府委員会は2011年に「エリート層の貪欲さによって引き裂かれ、生存のために苦しむ貧困層によって侵食された。これは大きな悲劇だ」と指摘。鉱業の禁止、新たな鉄道路線や主要道路・高速道路の建設禁止、保護地域での開発制限を提言した。また観光業に関しては、厳格な廃棄物管理、交通規制、水利用規制を導入して影響を最小限に抑えるべきだと訴えた。

しかしケララ州など複数の州政府は報告書を受け入れず、新たに設立された委員会は2013年に西ガーツ山脈の保護地域の比率を全体の60%から37%に引き下げた。

2019年までの州議会の議事録によると、山脈沿いにある全ての州が保護地域の一層の縮小を望んでいる。連邦政府は全関係者向けに勧告を実施するための草案をまとめたが、最終的な命令はまだ出していない。

連邦政府の生態系調査委員会のマドハブ・ガジル氏は、委員会が「生態学的に特別な配慮が必要な地域について、建築物の再建など人の手によるさらなる介入を行わないことを具体的に勧告した」と説明。しかし観光業は金のなる木なので「政府は当然ながらわれわれの報告書を無視することを決めた」と付け加えた。

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