焦点:「化粧品と性玩具」の小包が連続爆発、欧州襲う破壊工作の実態 ロシア関与の指摘

 偽の化粧品と複数のマッサージ器、性玩具。粗悪な自家製爆発物。写真は、共産主義時代に建てられた文化科学宮殿。4月2日、ワルシャワ中心部で撮影(2025年 ロイター/Kacper Pempel)

[ワルシャワ 5日 ロイター] – 偽の化粧品と複数のマッサージ器、性玩具。粗悪な自家製爆発物。「戦士」として知られるロシア人、そして「メアリー」という合言葉──。

昨年7月、イギリスとドイツ、そしてポーランドの国際物流倉庫で、小包が爆発する事件が3件相次いで発生した。ロシア主導の破壊工作とみられる各事件を結びつける共通項が、上述した要素だったことが、ポーランド当局の捜査に詳しい人物の話で明らかになった。

その人物によれば、小包に入っていたマッサージ器には高反応性のマグネシウムを含む化学物質の混合物で作られた自家製の発火装置が隠されていた。この化学物質は安価な中国製の電子機器を改造した時限式起爆装置で点火され、同梱された化粧品の様なチューブに仕込まれたニトロメタンなどの可燃性化合物のジェルによって爆発の効果が増幅された。

「これは、ロシアのGRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)に触発された犯罪行為を示すものだ」と、この人物は述べた。

ロイターは、ポーランド捜査に近い情報筋から提供された情報や、十数人の欧州安全保障当局者へのインタビューを基に、捜査の詳細をここに初めて報じる。調査結果は、破壊活動がどのように展開されるかについて、貴重な識見を示すものだ。

欧州の安全保障担当の幹部らがこの小包の火災を公表したのは昨年10月。ウクライナを支援する国々の機能を不安定化させるためにロシアが放火やサイバー攻撃などの戦術を駆使して仕掛けている「ハイブリッド戦争」の一環だとの見解も示された。

小包は倉庫で発火し、火災を引き起こしたものの、けが人はなかった。担当者らは、これが将来、米国やカナダ行きの貨物便で小包を爆発させるロシアの計画の予行演習だったとも述べた。

昨年初めまでモルドバの副首相兼外務大臣を務め、現在はシンクタンクの欧州外交評議会の政策研究員であるニク・ポペスク氏は「ウクライナ戦争によってこうした攻撃は激化し、頻度も増し、より攻撃的になった」と語り、「もちろん、これは人々、EU全体の市民に危険をもたらす」と警告した。

一方、ロシア政府は関与を否定し、「我々は何も知らない」とドミトリー・ペスコフ大統領報道官はロイターに語った。また、ペスコフ氏は「これは単なるフェイクニュースか、盲目的なロシア恐怖症の表れである可能性を排除しない」と述べ、欧州による、ロシアの破壊活動やハイブリッド戦争キャンペーンの主張は全く根拠がないと主張した。GRUはコメントの要請に応じなかった。

爆発は7月19日から21日にかけて、イギリスのバーミンガム、ドイツのライプツィヒ、そしてポーランドの首都ワルシャワ近郊で発生した。

機密情報のため匿名を条件に語ったEUの安全保障当局者2人によれば、ポーランドの工作組織は典型的なロシアの諜報機関の手法だったという。工作員は、計画を実行するために地元の犯罪者を採用し、テレグラムを通じて基本的な指示を与え、1件の仕事につき1人に最大数千ユーロを支払うことが多いとされる。

元爆弾処理の専門家で、公共建築物の安全などに関するアドバイスを行うコンサルタント会社「セーフティ・プロジェクト」を経営するヤロスワフ・ステルマフ氏によれば、この事件で使用された材料や起爆装置は、肥料の原料や花火を販売する店で広く入手可能だという。

小型で粗雑な爆発装置は、小さな火災しか引き起こせないかもしれないが、発見するのは難しい。「これは、爆発装置を製造するための非常に安価で効果的、かつ匿名性の高い方法だ」と、ステルマフ氏は説明した。

<戦士、メアリー、そして4番目の小包>

捜査に詳しい人物によると、ポーランド検察の起訴は、少なくとも5人の破壊工作員とみられる人物の証言と、機密扱いのセキュリティ情報に基づいているという。

検察当局はロイターに対し、捜査官らがワルシャワの倉庫で爆発しなかった4つ目の小包も押収し、中身を無傷で調査できたと語った。

ポーランドの捜査官によると、ポーランド南部に住むウクライナ人のウラジスラフ・Dが、「戦士」という呼び名しか知らされていないGRUのエージェントからテレグラムを通じて指示を受け、欧州での予行演習において重要な役割を果たしたとされる。

ポーランドの法律では、刑事訴追されている人物の姓を公表することは認められていない。しかし、ボスニアでの関連裁判では身元公表の制限がなく、そこで容疑者のフルネームがウラジスラフ・デルカヴェッツであることが判明した。この裁判では、小包爆破事件の容疑者とされるもう1人がポーランドへの引き渡しに直面している。

ポーランドの検察捜査に詳しい人物によると、7月18日にデルカベッツ容疑者(27)はカトヴィツェの自宅からオペル・アストラを運転し、国境を越えてリトアニアの都市カウナスに向かい、駐車中の車のトランクから十数個の品物を回収したという。

デルカベッツ容疑者はその後、リトアニアの首都ビリニュスに向かい、マッサージ器と化粧品チューブ、性玩具が数個入った小包を4つ箱詰めした。情報筋によれば、デルカヴェッツ容疑者は、封をする前に2つのボタンを押して、あらかじめ時間設定された起爆装置を作動させた。この装置は、ユーザーが数秒から数か月先まで起爆時間を設定できるタイプだったという。

7月19日、彼はビリニュスの公園で「メアリー」という合言葉を使った男性に小包を手渡した。小包は同日、ビリニュスから郵送されたという。

デルカベッツ容疑者は8月初旬にポーランドで逮捕され、ロシア諜報機関のためにテロ行為を行ったとして起訴された。1月、ワルシャワの裁判所は、彼の拘束を5月まで延長した。

ロイターは拘束中のデルカベッツ氏とは連絡が取れず、裁判所が任命した同氏の国選弁護人は、公判前段階の捜査の詳細を知らないとしてコメントを控えた。

検察当局によれば、容疑者は外国情報機関のために働いていたことを含め容疑を否認し、行動に関する「詳細な説明」を提供したが、捜査の機密性のため、説明は開示できないとしている。

逮捕後の事情聴取で、デルカベッツ容疑者は友人を通じて「戦士」を紹介され、テレグラムでのみ連絡を取っていたと捜査官に話したという。

また、ポーランド検察は、44歳のアレクサンダー・Bという別の男を、デルカベッツ氏と同じポーランドの組織の一員として起訴している。検察によると、彼の役割は、ワルシャワからワシントンやオタワへスニーカーや衣服の小包を送り、貨物便の処理方法やタイミングの情報を収集することだったとされる。

この容疑者は、ポーランド当局がボスニアから引き渡しを受けた。ボスニアではアレクサンダー・ベズルカビーというフルネームが明らかにされており、ロストフ・ナ・ドヌ出身のロシア人だ。彼は1月にボスニアの首都サラエボで行われた聴取で、倉庫や貨物機を狙う計画には一切関与しておらず、何も知らないと述べた。

ベズルカビー氏は引き渡し訴訟に敗れ、2月にポーランドに引き渡された。ロイターは拘束中の同氏と連絡を取ることも、同氏の代理人を務める弁護士と連絡を取ることもできなかった。ポーランドの捜査に詳しい人物によると、同氏は外国の情報機関に勤務していたことなど、自分にかけられた容疑を否認している。

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Andrius covers politics and general news in the Baltics – Estonia, Latvia and Lithuania, the three key states along the NATO’s eastern flank, the staunchest supporters of Ukraine and the most vocal critics of Russia in NATO and the European Union. He wrote stories on everything from China pressuring German companies to leave Taiwan-supporting Lithuania to Iraqi migrants hiding in the forest at the Belarus border to a farmer burning grain for heat during the energy crisis.

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